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アカネの異世界冒険譚〜異世界転移の代償〜  作者: 龍坊
第一章 異世界文明を調査せよ。
7/7

007 その先にあるものは

初めに。コメントして下さった読者各位に心からの感謝を。


そして相談というかどうしましょう。プロットが、話の骨子が弱過ぎて、このまま行くと作者が複雑骨折するほど骨を折る事態に……まぁいいか(自己完結)

前回が少々()長過ぎたので今回は短めです。


・前回からかなり空いたのであらすじ・

世界中で忽然と姿を消す集団失踪事件が発生しいの、どうやらPsInとかいうネットワークが関わってるらしいという噂

朱さんは電子機器に干渉する変な空間の入り口を発見して凸

異世界の秘境というか魔境に出たようで、そこの山脈の洞窟でヒッキー黒トカゲ野郎と遭遇。その爬虫類は朱のおかげで外に出る事が出来るようになったらしく、旅は道連れ世は情け(謎)

急いで行方不明者を探すのも良いが、自衛を疎かにするとか自殺行為だよね! とりあえず文明どこじゃい(今回はこの道中の話をちょろっと回想しつつ)

人だ! あんまし文明レベル高くねぇ! ギルドとかあるし中世ぐれえだ! 冒険者だヒャッホイッ!……ご飯美味しいぃ。

〔了〕

 


 ※


 時は3日前の出発直後に遡る。一行が文明圏に到達するまでに、バラドは確認しておきたい事があるそうだ。


「【竜化】について? 」

「主曰く、そのリスクについてでございます。」


 朱は首をかしげた。竜化とは読んで字の如く、使いこなせれば竜に化ける事ができるスキル……と思っていたが、なかなかに厄介な事情をはらんでいるらしい。


「懸念事項は二つ。“暴走”と“忘却”にございます。前者は体内の竜の魔力が抑えきれずに起こるもので、後者は……元の姿に戻る事ができないのでございます。」

「ええと、元に戻れない事をもう少し詳しく。」


 スキルお手軽説が早くも崩壊──あ、ゲシュタルト崩壊って皮膚感覚でも起こるらしいよ──と朱は崩壊という単語から連想するも、これは現実逃避だろうか。

 それはともかく、ここでの確固たる事実は“朱はゲームや漫画やラノベを見過ぎ”と言う事だろう。


 朱自身、技能(スキル)というのがゲームや漫画の単語と似てはいるが別物、というのは当然だと思っているが、ついついそれを基準に考えがちになる。

 魔力という実感のない力が存在する世界では尚更だ。


 それに対するバラドは、暴走については聞かなくてよろしいので? とそんな事を一瞬考えもしたが、まずは相手が求める答えを先に差し上げようと切り替えた。


「そうですねぇ、背中に羽が残る程度なら可愛いものですが、最悪ゲル状になる事もありますね。特に“完全竜化”を長時間おこなうと状態の固定化が進み、焦って解除すると危険なのだとか。」

「……竜化スキルって、もしかしなくても扱いづらいモノなの? 」

「ええと、(アカネ)様。貴女は生まれつき竜人では無いのでしょう? 」


 困惑するバラドの問いには応えず、朱がクロスケをチラリと見ると頷きで肯定を返された。信用しても良いと言うことか……確認するまでも無いかも知れないが、朱さんは一応これでも慎重なのだ。魔境を散歩したりしたけど。


「そうだね。習得したばかりかな。」

「……わかりました。暴走の可能性を探りつつ、今すぐ訓練に取り掛かりましょう。それと並行して竜の魔力、別名“竜力”の特性についての講義を受けていただきます。」


 バラドは朱の背中に手を添えつつ、にっこりと笑って言った。拒否権は無いようである。

 そしてバラドは朱の事情を深くはきかなかった。無用な詮索をしない事が、長く仕える秘訣とも言える。

 この世界は“藪からドラゴン”が出る世界なのだから……略して藪龍。


 さて蛇足かもしれないが、今の朱の心境はというと“え゛、劣化スライムになるとか、私は嫌なんですけどっ! ”である。誰だって嫌だ。今のレベルで暴走してもたかが知れてるので、スライムモドキになるのを防ぐべく朱さんは死力を尽くす所存。


「では、これより貴女の魔力を乱しますので、対応して下さい。」


 背中に添えられたバラドの掌から、いきなり不快な魔力の奔流が迸るっ! スパルタのバラド教官っ!

 罵倒し無い分“徹甲弾(和訳)”という映画のハートルフルマンよりは百倍マシである。

 これは比較の問題、というか錯覚であり、腐った野菜と腐りかけの野菜の二択を迫られたら後者を受け入れる心理。どっかの国の選挙にありそうデスネ。


「っ……? 」


 目を閉じ──歩きながらではあるが、外の事はバラドに任せ──己の内に集中した朱は、荒れ狂う魔力に戸惑う。上手く御する事が出来ないから? 内側から乱されるという未知の体験をしているから?

 いいや、違う。断じて違う。寧ろそれは昔に感じた体の中のナニカを彷彿(ほうふつ)とさせるモノだった。


 そう思い至った時。朱は本当の意味で“己を律する”という事の片鱗を掴んだ気がした。感覚的で、直感的ではあるものの、何処か確信めいたものがあった。そして以前までのソレは不完全だったと知覚する。


 まだ一欠片。されど片鱗。──まずは“識る”ことか。

 朱は保留する……正確には今すぐ実行し続ける事は出来るものの、一朝一夕では形にならないのである。


 それより今はじゃじゃ馬(・・・・・)の躾けをしなければならない。まず安定、破綻の無い変化を求めるならば“閉じた領域”が最適だ。それは二次元における円であり、三次元における球であり、果ては三次元球面であろうか? 特に最後のは門外漢ならぬ門外乙女なので、間違いであったら除外しよう。

 そんな事を大雑把に思考する朱さん。


 兎にも角にも、魔力がどの次元に有るのか定かでは無いが“緩やかに循環する領域”を定めるのは、理に適っている……はずだ。

 朱は感覚を体内の奥へと伸ばし、魔力と呼ばれるモノに触れた。


 朱の中で『不定存在』とでも呼ぶべき不安定な存在であった魔力が、朱の支配とソレの反発が争う──相互に強く作用する──ことで、より確かに、実存するに至った瞬間だった。


 朱の体内から噴き出した魔力流は、すぐさま渦巻き、球体のように周囲を取り巻きつつ再び内部へと収束していく。


「……うん、今なら魔法がもっと上手く遣える気がする。」


 薄っすら(まぶた)を開き、誰にでもなく朱は微笑んだ。唯一変化を見せた瞳は、内なる力が体内を駆け巡っている事を、鮮やかな色彩と共に教えてくれる。


「なんという……だが……むう。果たして可能か? 」

「……バラド。竜力の特性については、私から朱様に申し上げましょう。」

「は、そ、うでしたな。そうでした。」


 アディの進言で我に返えるまで、うわ言の様に呟き続けていたバラド。当の朱は疑問符を顔に引っ付け、首をかしげるばかりである。


「どうやら、朱様には取り越し苦労だったようですね。」

「よかった。」


 アディは暖かく笑みを浮かべつつ、朱の横に並んだ。対する朱は自慢気な顔でサムズアップした……所でMMORPGでの癖が出ている事に気がつき、苦笑いしつつ手を下ろす。──取り敢えず、面倒な事にはならないそうだ──と呑気に感想を浮かべている朱さんであるが、いきなり実践が可能なレベルまでスキルが扱えるというのは、最低レベルとはいえ紛れもなく異常。しかも“種族固有のスキルを後天的に取得する”というイレギュラーであるにも関わらずの結果である事を踏まえると、もはや変態的進歩である。


 それはさて置き話は続く。

「竜力についてだよね? 普通の魔力と何が違うの? 」

「それはですね。抽象的に述べるならば、より真理に近づいた力。根源(オリジン)、神に至る道を魔力より先に進んだ力……残念ですが、生まれた時から竜力の上位の力が備わっている我々でも、根本的な性質についてはそこまででございます。」


 しかし、とアディは続ける。

 本来ならば、龍とその下位に有る竜が自身に元々備わっている龍力、竜力について深く考える事は無いという。例えるなら、物が上から下へ落ちるならば“なるほど、その様な運命(さだめ)なのか”、と有りのままに受け容れる。

 どうしてそうなるのか、性質にまで深く考える事は稀有な事であるそうだ。


「そう、稀代の天才にして天災にして変人な御方でも現れない限りは……」


 アディの視線を辿ると、蝶々を追いかけすっ転んでいる黒蜥蜴が視界に入った。それを微笑ましく眺めるアディ。

 朱はクロスケの為に何も見なかった事にする。


「我が主は、闇を司るからこそ。(そら)にも無い、“真の闇”を作ることが出来たのでごさいます。」


 アディ曰く“真の闇”とは近似的な虚無であり、空間の縁とそれを維持する物体以外の物質の存在を許容しない絶対領域。科学では成立するか怪しい空間で、何処かの変な龍が維持しなければ破綻するだろう。──その空間にただ一つの|龍子(粒子)が対応する……わかんないね。


 そんな掛け言葉というかギャグが頭をよぎった朱さんは置いておこう。


 要は、自身も含めた何ものにも干渉されずに、龍力や竜力についての研究ができたと言うのが大きいそうだ。


「まぁ、結論から言いますと、『龍力・竜力』ついでに『魔力』は“境界面が振動する不安定な球状のエネルギー体”からなる“(クラウド)”によって構成されていたのですが──」


 朱さんは聞くのを諦めた! もっと実用的な事が聞きたい。基礎研究は基礎研究でも、これは家を建てる基礎では無く、土地の改良から始めてやがります。土台のできていない高校生には、量子紛いの話はてんで会話にならないだろうよ。


 閑話休題


「──とまぁ、こんな感じで。そろそろ“群”の挙動について説明に入りましょうか。」


 話が長かった。大変に長かった。アディがインド人かと疑うほどに、長かった。

 アディが話始めに言っていた“境界変動動力源球体(朱意訳)”を“魔粒子”と仮称したりして、とても眠たい講義でした。それって“魔量子”の方が良くない? とか素人ながらも思った朱さんも発言する気力が有りません。


「“群”とはまぁ、『龍力・竜力・魔力』といっても良いでしょう。等しい存在とするのはあまりお勧めはしませんが……。」

「はいはいはい、それで竜力でどんな事が出来るのかな? 」


 学者肌のこだわりなんぞ、今は至極どうでも良い話。現時点での朱は工学、実践と応用で製品を作る側にいる。


「ザックリ言いますと。魔力は普通の生物が知覚できる範囲で機能し、それより一回り大きい範囲を竜力が干渉でき、そのもう一段階上に影響を及ぼす事が出来るのが龍力です。」

「漠然としてサッパリ分からないんですが。」


「人間は火が生まれ、水が流れ、風が吹き、土があり、光が眩しく同時に闇があるのを知覚します。竜達はそれが“粒”からできている事が見えています。龍達が全力で飛べばこの星は丸く、自身の時間が遅く過ぎるとわかっています。」


 頭痛がしてくる朱さんは、少し遠くを見て景色を楽しむ。元々頭の出来が良くない事を自覚している朱としては、ちょいちょい挟まれる相対性理論モドキやら似非量子論でお腹いっぱいである。


「えーと……空間を歪めるとかも出来たり? 」

「肯定します。」


 ──なるほど分からん。人間は自然に近い事を、龍は超自然科学的な事象を起こせる可能性がある、とだけ覚えておこうかな。


 この話は数行で終わってしまったのだった。


 ※


 時は戻る。これまで携帯食ばかりでウンザリしていた朱さんは、満足のいく食事が出来てご満悦。その証拠に頭頂部の癖毛がぷよよよーんと元気ハツラツ。


 そんな朱はずいとカウンターを覗き込む。

 目の前で気絶している女性、彼女はイズ。この冒険者ギルド・ヴリドリー支部の受付兼事務員。銀髪に色白の肌、透き通るような水色の瞳。ほんわかしたちょっと丸顔童顔の女性で泡混じりの清純な(よだれ)を垂らしつつ、グッスリ気絶して綺麗に半分白目を剥いていた。


 第一印象をなるべく良く捉えようとポジティブフィルターを通して頑張った朱。だが哀しいかな。物事には限度という物があり、努力むなしい結果になる事がしばしば。


 仕方無しに、朱はイズの目蓋を二本の指で優しくそっと閉じさせた。


 そこまで観察した朱は、彼女の手元に散乱する書類を手に取り目を通す。

 言語理解は読み書きができるようで、ある単語を日本語で思い浮かべるとその意味に対応したこの国の言語も自動で付いて来るのだ。見た時もまた然り。今なら英語で満点とれるのは必定(ひつじょう)だ。


(へー。修羅の国の人達、ねぇ? 高性能な銃を使ってるとか反則でしょ。……あとは戦争に巻き込まれないようにしないとね。魔物が活性化してるのも気がかりか……運が悪ければ魔物の暴走と戦争が同時に起こったり、ほどほどに悪い状況を考えただけでも何人亡くなるかわかったもんじゃない、ね。)


 重要な情報のようだけれども、普通に一般人が覗ける所で作業しているのだから特に機密性の高い案件、というわけでも無さそうだった。……というわけで朱さんはガン見しています。


 ラムドはというと、気を失っているイズをベッドに運んでいる。彼女の腹を肩にかけるというなかなかに雑な運び方で。

 どうやら今回が初めてでは無さそうなのが、なんとも微妙な心持ちにさせてくれる。


 一通り見終わった朱にラムドが合流し、出かける。ラムド曰く、書類は揃っているとのこと。頑張り過ぎだぞイズ、というのが小声で聞こえてきた。


 依頼は小醜鬼(ゴブリン)の群れを偵察する事。──張り切って行ってみよう。




 先行するラムドに続きアディ、朱、バラドの順で森の中を進む。

 今回の仕事は群れのボス、醜鬼王(ゴブリンキング)を頂点とした一団の偵察に行く事。本来ならもう少し人数を連れて行くそうだが、ラムドは不要だと判断したようだ。


 試験というか試しという割には、バリバリの実戦、本番である。ラムドが受ける依頼に乗っかるような形で実施するので、当然と言えば当然なのだが。


 一般的な(・・・・)補足をしておくと、小醜鬼(ゴブリン)数匹からなるゴブリンの集団は脅威等級「C-級」、つまりCランクパーティが単独で討伐出来る難度である。練度によっては余裕であったりヒヤヒヤしたりもするが、大抵は何とかなる。


 だが、醜鬼王(ゴブリンキング)を率いる醜鬼軍団(ゴブリンズレギオン)となると話は変わる。脅威等級は「B-級」、Bランクの小規模レイドパーティを引っ張って来なければ太刀打ち出来ないのだ。


 討伐の際にはそれ相応の準備が必要であり、その一つである敵情視察はかなり重要である。


「一つ忠告しておくとだな。ヴリドリー秘境に生息する魔物は、一般的な(・・・・)同種の魔物より等級が一つ二つ跳ね上がる。ここは入り口だからまだマシだが、北側の大山脈と南側の浮浪島には絶対に近づくな。」

 朱は頷きつつ視線を逸らした。むしろ住み着こうと思っていたなどとは口が裂けても言えない。


 一行は黙々と木々を分け入り獣道を行く。すると禿山(はげやま)ならぬ小高い禿げ丘が、鬱蒼と生い茂る樹木の合間々々から薄っすら見えてきた。


 ラムドが姿勢を低くするようジェスチャーして来たので、従いつつ偵察する為に接近しながらゴブリンの生態についてレクチャーを受ける。


 嘘か真かは定かでは無いが、この異世界では小醜鬼(ゴブリン)は元来、受肉した火の精霊の遠い子孫にあたるとされている。何故ならゴブリンが生息する周辺の木がことごとく無いから。イタズラや洞窟の中で火を好んで使うから。等々様々な推察がされている。


 が、正直全く関係ないだろうと朱は思う。むしろ高度な知性の可能性を感じざるを得ない、危険な一生物である。現代では魔物としては(・・・・・・)雑魚モンスターというゲームでのイメージが強いものの、実際問題“醜く邪悪で狡猾で特殊な言語を操り、一体々々が弱いものの数でそれを補う? 何それ、客観的な自己診断ですか? ”である。


 正面から向き合ってみると大半の人間は認めたくは無いだろうが、小醜鬼(ゴブリン)が人類の様な高度な知的生命体の進化途中、とみる事もできるのである。生息域の木が少ないのは、身近な所から道具を調達したりそもそも群れで住むのに邪魔だったりしたが為。火を使うなんて、人類の祖先が行き着いた所と同じでは無いか、と。


 閑話休題


小醜鬼(ゴブリン)て奴ぁ洞窟の行き止まりに誘い込んで出口に火をつけたり、人差し指と親指の長い爪を自ら折って、細かい罠を仕掛けるくらい危険な輩だ。」


 無論、ゲームのように通路を歩いているとエンカウント〜なんて生易しいものでは無い。一例としては。落とし穴を上手く回避したと思ったら、植物の汁などでカモフラージュされた見えるか見えないかの糸を切ってしまい、毒矢が飛んでくるわその毒矢がまた別の糸を切るわ切るわ。

 ハメ技をバシバシ決めてくるのである。

 とある冒険者がハリネズミ状態で見つかり、小醜()とは外見より内面をさして呼ばれたとか。


「だから偵察で罠に掛かると大失敗。奴等の罠は退路を断って巣へと追い込む類いのが大半で、群れの大きさによっては巣から半径1キロくらいは警戒ラインにしてるな。」

「でも今回は無かった? 」

「ああ、前回の場所から移動したらしい。」


 ラムド曰く魔物の生態ピラミッドに変化があった模様。

 魔物というのは不可思議なモノで、高位の魔物が存在するだけで、下位の魔物の発生数が限定されるらしい。そして縄張りも高位魔物が全くと言って良いほど動かないので、下位魔物も大移動を無闇に行う事は無い。


 逆説的に。下位の魔物が増え、且つ、大移動したとなると、意味する所は高位魔物(ストッパー)の消失。これは人種(ひとしゅ)にとっては三番目に回避したい事態である。


 三番目? それでは一番二番は何か?

 一番は簡単。魔物を統べる魔王様の出現。種族の存亡を賭けた一大イベントで、都合良く勇者がいれば良いが、居なければ人種の半数以上は減ってもおかしく無いらしい。


 二番目は森の淵での下位魔物との遭遇率が増え、又、頻繁に共食いが見られ絶対数が減り、人里に向かって移動を開始したりする時である。人里に向かっての大移動は一番目と似たような所があるが、しかし目的は侵略では無くどちらかと言うと“難民”であり、他所から好戦的な高位魔物がエリアに侵入してきた危険信号。共食いをしたりするのは、少し張り合える強さの奴は影響を受け難いものの、それの被捕食者がモロに影響を受けて激減した結果が捕食者同士での……という事だ。

 当たり前ではあるが、好戦的な高位魔物とか悪夢である。


 今回は制限が取り払われて爆発的に増加するものの、脅威から受けるストレスが無いので|共食い(混乱)はあまり見られず、生息域拡大に乗り出して大移動を開始する。俗に言う“魔物暴走(モンスタンピード)”。


 人間の“群衆事故(スタンピード)”に当てはめるならば、二番目の事例の方が似ているかも知れないが、それはあくまで魔物側から見た印象である。だから人種にとっては今回の方がしっくりくるらしい。


「高位魔物、か。」──ん? 最高位魔物ってもしかしなくても?

 朱は荷物に紛れている黒い物体をジッとジトッと静かに見つめる。

 最近トカゲ野郎を見ている事が多い気はするが、元ヒッキーのくせに度々話題の中心に上がってくるのだから仕方がない。


 だが今回は原因でもある。これで放っておくのは流石にどうか? と思って朱は見た次第。


 まぁ、最上位龍と高位龍二匹が移動するとそうなるのは、人種にとっては自明だったのだが、いかんせん当人は自分達の影響力を正しく把握していない事が多いのでたちが悪い。


「きゃぁあぁぁぁああああああっ! 」


 ちょっとオハナシしようかと朱が三匹に向き直った時。若い女性の悲鳴が禿山の方角から聞こえてきた。

 従って臨戦態勢に移行し、移動速度も早足となる。

 本当は走って行っても構わないのだが、ラムドに合わせている。どうやら罠の有無(うむ)をざっと確認しつつ音の発生源に向かうようだ。





読んでいただきありがとうございます。久しぶりの「アカネの」でした。


モンスタンピードとは、モンスター・スタンピードを縮めた造語であり普通はそんなふうに呼ばない。てかここでしか呼ばない。理由は、ちょっと書いて見たらスター・スタンと続くのはなぁと感じたのでエディット。


さて、次の投稿はいつになる事やら。

次回は……作者がどこで入れようかと思ったマッチョメンが行方不明になる話がちょいと入るらしい。終わりっ!

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