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アカネの異世界冒険譚〜異世界転移の代償〜  作者: 龍坊
序章・奇妙なPsIn《サイン》話
5/7

005 クロスケと龍と

く、苦し紛れの一話投稿っ!


以前読んだ事がある人は、改稿してるので見返してみる事をお勧めします。(うん、誰も見てないかな。)

 




 変わらず水の滴る音が僅かに響き、風の唸りが微かに聞こえる。そんな中、クロスケと朱の声が聞こえる。


「アカネ、他人はどうであれお前はお前。そんなに気にするでない。」

「うん、わかってる。じゃあ、それぞれの天職について詳しく教えて欲しい。」

「よし、では──。」


 朱は昼食として(あちらが夜でこちらが朝だったから少し空腹時が遅れた。)、固形タイプの非常食をがりがりと食べながら、時々水筒から水を出して口に含みつつしっかりと話を聞く。

 朱の立ち直りはそこそこ早かった。


 武器使い(ウェポンマスター)

 剣や刀、銃や弓などあらゆる武器を使え、魔導兵器等を巧みに使いこなせるようになる。無論、極めたらの話だ。

 ただ、注意が必要な事がある。例えば剣士の天職を持ちそれを極めた者と、剣のみを持った武器使いでは剣士の方が有利であるということ。つまりは手持ちに一種類の武器しか無い状態は避ける事が重要だ。


 魔工技士。

 極めて行くと魔道具や魔導兵器などのギミックの複雑な武器の開発ができ、鍛冶士より魔法を多彩に使える。しかし、同レベルの鍛冶士と魔工技士が同じ武器を作った場合。その武器のスペックが魔導機構と基本性能のどちらに重きを置いているかによって、出来栄えが異なるという。


 召喚士。

 真髄に至れば、契約した魔物、悪魔、人、何でも呼べる。ただ、召喚するものの強さに比例して魔力の消費が激しくなるし、初めは制限も多分にある。

 契約方法は契約魔法の掛かった指輪等を相手に与える、もしくは名前が無ければ名前を与える。そして生命体ならば両者の同意が必要。


「質問。」

 朱は手を小さく上げる。


「どうしたのだ? 」

「クロスケは呼んだら来てくれる? 」

「……。」

 これは、先程説明したばかりである。クロスケが同意したら一応は、召喚が可能となるはずだ。知らなかったとは言え名付けているのだから。

 クロスケは顎に手を当てて、少し考える素振りを見せる。


「呼ばれても良いが、絶対に呼ぶでないぞ? こう見えても我は高等な存在であるから、魔力足らずでアカネが死んでしまう。第一、一緒に外に出るのだから呼ぶ必要もあるまい? 」

 軽く質問した朱だが、思いの(ほか)真剣な答えが返ってきて驚く。

 朱のステータスが低いのはわかるものの、妖精が高位の存在であるという話がしっくり来ない。

 まあ、焦る事は無いし一つ一つ教えてもらおう、と朱は整理する。


 ──クロスケと一緒に旅をするの面白そう。流れで一緒に行動する様に決まったが、これは楽しい。まあ、旅の最初のお供がぬいぐるみというのも、端から見たら寂しいかもしれないけど。


「今何か失礼な『うん、そうだね。気にしないことにする……魔工技士って魔法が使えるんだよね? 』……。」

 年の功からくる勘の良さに対し、無理矢理話を変えて対処。悪手である。


「アカネ、お主……まあ良い。魔工技士は鍛冶士と魔法士の中間くらいに覚えておけば良い。よって魔法は使える。アカネは武器使いでもあるから、剣と魔法を極めれば魔法剣士にもなれるやもしれん。ただその場合、今のままだと筋力が足りないだろうの。」


 強引に話を変えた朱にクロスケは何か言いたげだったが、質問には素直に答えてくれる。なんだかんだと話好きらしい。


「それじゃあナイフ使いの習得と敏捷を上げれば盗賊とか? 」

「いや、それだけでは不十分だ。潜伏系や強奪系の魔法やスキルも習得する必要がある。その辺りは独学が厳しいので、誰か同じ天職に先達者を頼むのが定石である。」


 思っていた以上に親切で丁寧な説明である。朱はますます楽しくなった。面白い話をする親切な叔父さんみたいな感覚である。


「スキルか……私のスキルは……。」

 朱はもう一度ステータスを見る。クロスケも覗き込んだ。


 =============================================================


 名前 : 峰倉 朱

 年齢 : 17歳

 性別 : 女

 天職 : 武器使い(ウェポンマスター)・Lv.1、魔工技士・Lv.1、召喚士・Lv.1

 筋力 : 100

 体力 : 150

 魔力 : 200

 敏捷 : 150

 耐性 : 70

 器用 : 170

 幸運 : 1000

 能力 : 【言語理解】【狙撃 I 】【小太刀 I 】【魔道具開発 I 】【意思疎通 I 】【感知 I 】


 =============================================================



「この狙撃とか小太刀とかがスキルか。クロスケ、この後ろの1って熟練度か何か? 」

「そう、スキルのレベルだ。使えば使うほどローナ数字が大きくなっていき、Xで最大である。それにしても、アカネは幸運の値が凄いの。」


 幸運の値が変に高いのは朱も気にしていた。

 あの森を穏やかに通ることができたのはこれのお陰らしい。一般人の十倍とは……幸運の女神の眷属でも微笑んでいるのだろうか。


「それは嬉しいけど、それより魔法を覚えたいな。」


 しかし、運が良い理由なんぞ考えても意味がないと思い、朱の興味は完全に移った。


「我も得意というほどではないが、属性魔法は一通り使える。まずはレベル1の火魔法から行くぞい。【火よ踊れ(ファイア)】」


 ボッボッ ドンッ!


 立ち上がったクロスケは、入り口の方に向かって手を翳し唱える。すると野球ボールほどの火球が飛び出し、勢いよく壁に当たって弾けた。


 砕けた壁の破片が辺りに散らばり、カカカンッと床や天井に衝突する音が響いた。


「む? 少し魔力を込め過ぎたか。レベル1は人間が使うともう少し劣化するの。ほれ、アカネもやってみい。」

「……まず、魔力の使い方から教えて欲しい。」

 朱は眉を寄せて、真剣にそう言った。


 クロスケは順序を飛ばし過ぎだ。能力の欄に何もないのに、いきなり唱えてできる訳がない。


「オホッン。アカネ、ちょいと手をこちらに。」

 クロスケは朱が差し出した手に、自分の手を当てる。そして魔力を流した。


「我としたことが忘れとった。初めて魔法を使う者は、他者に体内の魔力を励起状態へしてもらう必要があるのだ。」

「今のが? あんまり変わらないけど?」

「うん? 何というか、こう、体の調子が良くならんか? 」

「こっちに来た時から調子良いんだけど?」

「……。」


 黙り込んだクロスケを見るに、またもや朱は規格外だったようだ。朱は一人で魔力を励起状態に持って行ったらしい。しかも無意識に。


 そんなクロスケを他所に、朱は立ち上がり左半身を引いて、右手を前に出して斜めに構える。


「【火よ踊れ(ファイア)】」


 ボッ ボフッ


 手の平からピンポン玉の一回り小さな火球が、バスケのパス程度のスピードで飛んだ。そして入り口までの距離の半分進んだ所で、空中で破裂する。

 クロスケの火炎魔法と比べると、なかなか貧弱であった。


「むう。何か疲れる。」

「その感覚が魔力を消費しとる証だ。一度、己の限界を知る為に倒れるまで反復してみい。」


 朱は言われた通り繰り返し、10回ほど撃った所で力尽きる。

 慣れない魔力不足の疲労感は朱を眠りへと誘った。


 ※


 朱は手足と背中を曲げて小さくなり、少しうつ伏せ気味に寝ていた。寝息がする度にほんの少しだけ睫毛が震える。


 クロスケは朱の側で座り、じっと見ていた。まるで姿を見ているのでは無く全てを見通すような、そんな眼をしていた。


 ──アカネの中に何かおるな。それも二つ。天職も魔力の励起も奴等が原因だの。その様な類いは、寝ている時に現れたりするのだが……。





「っが! ぁぁぁあああああ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!! 」


 朱が突如、頭を抱えて絶叫した。

 ガリガリと側頭部を掻き毟り、苦悶に体を捻じ曲げてのたうちまわる。


 ──明らかに異常だの。 アカネの体質にしては変じゃな……はて? 次元越えに言語理解と身体能力上昇以外に、何かあったかの?


「おお、思い出した。」


 クロスケは左手で右手を上から叩く動作──恐らく手のひらを拳の側面で叩くあのジェスチャー──をして、ゆっくりと立ち上がった。


「アカネ、起きるが良い。」

 クロスケは朱の肩を揺らすが、なかない起きない。

 逆にこちらが殴られそうになり、クロスケは少々手荒な方法を使うことにした。


「【小さき悲鳴(スタティック)】」


 パチンッ


 異世界流でクロスケは起こしにかかった。クロスケの触れた所に静電気が走る! 始めは弱く、段々強く!


 朱三回目で起きた。薄っすらと開いた眼はクロスケを映す。

 眠りから強制的に起こされた朱はやはり、瞳孔は開き瞳は少し黄色い輝きを帯びている。生気の無い顔も二度目だ。そしてボソッと呟く。


「【火よ踊れ(ファイア)】」

「【水よ舞え(ウォーター)】」


 パシュッ


 朱が放った火球をクロスケは流水で打ち消す。

 クロスケは朱が、魔法を使ってくることを想定していた。こういう輩は防衛の為に敵と認定した者を排除する傾向にあると知っているし、無駄に長くは生きていないのだ。


 余談ではあるが、先の魔法は無詠唱でも方が付いたものの、詠唱をわざわざ挟んだのはクロスケの好みである。魔法と言えば詠唱と刻印だ! と。


「お主は誰だ? 」

 クロスケが問いかけると、朱の顔に変化があった。

 明るく無邪気な、天真爛漫な笑顔を見せる。……痛みは続いている筈なのだが。


「峰倉 朱。よろしくね? クロスケ。普段は冷静で物静かな感じだけど、たまにテンションがおかしくなるからさ。」

「……どうやら一つの人格が分裂しそれぞれ成長した、と言った所か? 」

「うーん、逆、かな? 私達は峰倉 朱であり、かつては違った……と、そんな辛気臭い話をしにわざわざ表れたわけじゃあないんだよ。ヴェリタス君。」


 朱は口元に人差し指を当てつつ、ウインクしながら名乗る。それに対し、一瞬硬直したクロスケはつぶらな瞳を鋭く細めた。


 朱は人差し指を頬に当て、首を傾ける。

「うーんと、薄々感付いてると思うよー。ただ、あんまり記憶の共有とかしてないから、静かな私は特に気にして無いと思うよ?」

「そうか……お主がベースだの?」

「そだね、記憶は私の方が寝てる時も把握してるから多いね。こう言うのって軽度の多重人格なのかなーとか思ったり。」


 天真爛漫な朱はよく喋る。感情の表現もはっきりしていて話しかけやすそうな人柄であるが、しかし心情を読ませない手強さがある。

 対するクロスケは相手に主導権はやらんとばかりに、貫禄のある落ち着いた様子で話す。外見がぬいぐるみで、はたから見たら滑稽(こっけい)だが。


「アカネが魔工技士、お主が武器使い、最後が召喚士と言ったところか。だとすると、武器使いを極めるにはお主が出てくる必要があるのか? 」

「あー武器を使った感じからして、私は常に見ているから効果はあるみたいだねー。召喚士とか言う奴は分かんない。」


 奴は肩を竦めた。──ふむ、今までの動作から薄々心当たりのある奴が浮かんだが、問いただしてものらりくらりと躱されるだろうの。取り敢えずは、中身のある話を優先すべきであるな。


「そんな事よりさ。この角、何なのかな? 」


 明るい朱は自分の側頭部にある、薄い板状のモノが三つほど百足の様に繋がった角を指差した。角は先端に行くほど細くなり、まるで変形した短剣の様だ。


「次元越えの影響。それしかわからん。推測ではあるが、朱はこの種類だったが別の者だとまた違った変化が現れていた可能性がある。」

「ふーん、てことは。……かなり面倒な事になりそうだねー。」

「ふん。さっさと寝るが良い。お主では無くアカネに忠告せねばならん。」


 奴は口元に手を当て、いかにも驚いたような身振り手振りをする。


「ふふふ。静かな朱がそんなに気に入った? 珍しいね。昔はあんなに人に無関心だったのに。……やっぱりボッチは寂しかった? 」

「五月蝿いわ! 気絶させるぞ! 」

「おお怖い怖い。寝まーす。」


 奴は両手を挙げて降参のポーズをとると、大人しく元のレジャーシートとやらの上に転がり目を閉じた。

 クロスケはそっと溜息をついたのだった。


 少し懐かしく感じたのは間違いなかったと呟きながら。


 ※



「おはよ。クロスケ。」

「おお、洞窟にも関わらず、日の出と共に起きよった……おはようだの。アカネ。」

「うん。私の体内時計は正確らしいね。お腹が空いた。」


 朱はレジャーシートの上で立ち上がり大きく伸びをしつつ、これからについてクロスケと話す事に思いを巡らす。クロスケもここから出た事がなく……より正確には何千年も昔の外の世界しか知らないので、地理情報が丸ごと変わっている恐れがあるとの事。


 食べ物にしても、無毒の植物が毒を持つ進化を遂げている可能性がある為、クロスケの情報で誤った判断下してしまうのは充分考えられる。


「魔法については、我は真理を極めし者。外では便利な応用が見つかって、発展しておるかもしれんが。まあ、基本的な魔法は教える事ができるでのな。」

「基礎研究って大事だよね。」

「うん? キソケンキュウ? 」

「いや、何でもない。」


 朱は論じると長くなりそうな話題から離れ、これからについて話す。無音のラジオ体操をしながら。


「人間に必要なのは衣食住。でも今のままでは、住処はともかく食糧と服が心許ない。」

「してどうする? 」

「街を見つけて、冒険者になる。これ王道。」

「そうじゃな……文明が消滅しとらんといいが。」

「待って、その可能性ってどのくらい? 」

「うーむ、二割かの? 」

「高い。イガイト、タカイ。」


 いざとなったら昆虫G並みの生命力を発揮しそうな人間が、そんなに簡単に死滅するだろうか。と同族ながら酷い考えをする朱。だが、ここで人類の敵の代名詞を思い出す。


「魔王っているの? 」


 そう。邪龍ヴェリタスを倒しに来たのは勇者。ならば魔王も存在するのではなかろうか? いや、そんな迷惑なのはいなくても良いが、ちょっと気になる。と朱は頭を掻きつつ……。


「……我が外に居た時は、魔物は皆寄って来なくてな。正直わからん。」

「……。」

「ただ、あの頃の魔物は統制が取れておった。風の噂では人間の城が幾多も陥落したと聞くし、魔王に近しいモノが生まれて居たとしてもおかしくないの。」

「……。」

「む? どうしたのだアカネ。」

「つ……。」

「つ? 」

「角が、生えてる? 」


 クロスケは呆れ果てた様に、天井を仰ぐ。今更かと。


「アカネ。お主は案外鈍いというか、大物というか。」

「……友達にも言われた。」

「その友とは仲良く出来そうじゃな。さて、すっかり忘れていたのだが、次元越えをするとかなりの確率で亜人化、獣人化、魔人化するのだ。」


「衝撃の事実ぅ。」──冗談みたいな本当の話。タチが悪いね。

「見た所、アカネは極々稀な竜人化しとるようじゃ。仲間だの。」


 朱は頭を手でワサワサと探る。背中に翼は生えてないし、お尻に尻尾も生えてないと。

 帽子さえ被れば、人と変わらない事に安堵する。しかし異世界転移で人体が変異するとは……摩訶不思議。そう言うとクロスケは呆れた様に、“幾ら廻廊とは言え、生身で次元越えするのもどうかと思うぞ。”と説かれてしまった。


「亜人や獣人差別ってあるんだよね? 」

「そう、その事について話すつもりであった。しかしそう考えた理由は? 」

「元いた世界でも、色が違うだけで差別が酷かったのに、種類によっては外見がかなり違う亜人なんて、疎まれるに決まってる。」──まあ、亜人獣人が、知識の中にある耳長族(エルフ)人狼族(ウェアウルフ)とその他だったらの話で、この世界の者達がどんな格好をしているのか不明だけどね。今の私みたいに人間に限りなく近いなら、まだマシかも知れないし。


「くくっ。どの世界でも似た様な事は起こるものだな。」

「で、私の場合は外で帽子を外すと不味いかも? 勿論、人がいるのが前提だけど。」

「無用なトラブルを避けたいなら、それが良かろう。」


 これからの方針は情報収集の為に旅をしつつ、魔法の修得とスキルの確認を行う。同郷の異世界人が見つかれば上々。見つからなくても今は問題無い。と無理してこちらが死んでしまっては元も子もない、と割り切る朱。


 さて、魔法以外のスキルも確認しておこうと、朱はステータスプレートを取り出した。


 =============================================================


 名前 : 峰倉 朱

 年齢 : 17歳

 性別 : 女

 天職 : 武器使い(ウェポンマスター)・Lv.1、魔工技士・Lv.1、召喚士・Lv.1

 筋力 : 150

 体力 : 200

 魔力 : 300

 敏捷 : 200

 耐性 : 120

 器用 : 220

 幸運 : 1000

 能力 : 【言語理解】【狙撃 I 】【小太刀 I 】【魔道具開発 I 】【意思疎通 I 】【感知 I 】【魔力操作 I 】【火魔法 I 】【竜化 I 】


 =============================================================



 ──何故。


 朱は無言でクロスケにプレートをグイッと見せる。

 レベルが上がったわけでも無いのに、幸運を除くステータスが上昇しているのはこれいかに。


 それぞれ五十、魔力にいたっては百も伸びている。

 いや、先ほどの疑問の答えは分かっていた。“魔力操作 I ”と“火魔法 I ”と“竜化 I ”が原因だろう。語感から察するに、竜化の影響でステータスが五十底上げされ、魔力操作と火魔法で魔力値が更に五十上がった結果らしい。


 ここで、朱は大切な事を聞き忘れていた。


「クロスケ。このステータスプレートって表示を変えられるの? 」


 そう、冒険者をする時に何かしらの組織に入るだろう。その際に、竜化なんてスキルがあれば面倒極まりない事が起きるのは、前述した通り明らかだ。──ある本では、冒険者や傭兵稼業はステータスを含めた身の上を聞くのはタブーとか、そんな事があるかも知れないが楽観視は出来ないね。


「変更は可能だが……世の中には“鑑定”や“心眼”と呼ばれるスキルがあるので注意せよ。妨害スキルも有るにはあるが、稀であるな。」

「クロスケって高位の存在なんだよね、もしかして妨害スキル持ってるの? 」

「無論、我は暗黒龍ヴェリタスに仕えた高位妖精! か弱き下々に干渉などされぬし許さぬよ。」

「それ、私にも適用できないかな? 」

「やってみんとわからんが、多分できるであろう。……と、それよりもし街に入る時はどうする。」


 朱は取り敢えず保留した。続くクロスケの言葉は少し足りないが、この黒蜥蜴は気づいたらしい。街に入れば、自律型ぬいぐるみなど目立ち過ぎる事に。下手をすれば死霊魔法の疑いをかけられ、結構シャレにならない事態になるかも知れないのだ。だから、街の中では朱が持って歩く必要が有る。


「それ以上小さくなれないの? 」


 朱の言葉にクロスケが否定を返すと朱がニヤリと一瞬笑った、気がした。──アカネの鞄は物で溢れ、我の依り代は入らない……手が塞がるのも考えもので──その時、クロスケの視界に大きな鞄の外にかけられた道具が入る。──アレは、カラビナという留め金とスリングというロープ──クロスケは悪寒を覚える。とてもとても嫌ぁな予感というか確信というか。


「縛るのは無しじゃぞ⁈ 」

「ん? 気のせいじゃない? 」

「アカネ、我の目を見て……おい。こっちを見ろと言っている。」

 回り込むクロスケに、朱は集団行動の回れ左右で対抗する! ……不毛なやり取りは数十分も続いた。


 余談ではあるが、死霊魔法は“魂を弄ぶ大罪”として各国の国教に戒律があるそうな。手を出そうものならば、連座で村や小さな街に大きな大きな構造改革が起きるのは、必定(ひつじょう)との事。


 反体制派に入りたい諸君はレッツ死霊! ──実際に“貴方達の仲間ですよ〜”という意味を込めて、そういう類のクラブへの入会試験に使われているらしい。みんな気をつけよう。





 ※※





 一方、現代世界。


 ある学校では、

「峰倉さんに任せてはおけない! 」

 という主張が上がり。


 自由を愛する国では、

『政府は一連の行方不明事件を、正体不明の敵国による侵略行為と断定し、宣戦布告に踏み切る決断を表明しました。』

 というとある事情が明るみに出た結果、世論を抑えられなくなった某国についてテレビが報道したり。


 ある一般家庭では、

「何としてでもアメリカの動きを食い止めろ。最悪遅らせろ。【異界大戦(トランス・ウォー )/ trans.war】なんて冗談では無い! 」

 と電話越しに発破をかけるゲーム会社の社長がいたり。


 そして──


 プルルルル。プルルルル。


「私だ。」

『A.I.M.軍の準備はあと一週間で完了致します。』

「わかった。引き続き自律兵器群の編成と世論の情報統制を早急に。ああ、遺族に説明と保険をかけておくよう働きかけるのも忘れずにな。」

『はい。全ては恙無(つつがな)く。』

「宜しい。こじ開けた門の方は? 」

『通行可能との報告を受けています。E.M.P.対策を施した機器ならば、通信制限はかかりますが音声と簡単な発令はできるとのことです。』


「例の怪電波か。……閉門までの期限は? 」

『もって一年、他方へのエネルギー供給を切り詰めて二年持てば良い方です。最後に、向こう側からの連絡は依然としてありません。以上で報告を終わります。』

「御苦労だった。」


 私は通信を切り、大きく息を吐く。──先遣した特殊部隊員の安否も気がかりだが、海上からアレが忽然と姿を消した時にはもう隠しようが無かったな。対弾道ミサイル兵器としてアピールし、有名になった反動だ。──男は手を机の下にある隠し棚に伸ばし、中から百薬の長が入った小瓶を取り出す。──気づけ程度ならこの量が良いのだ。全くもってやってられん。


 ──国民の期待を一身に受けた壮年の男は、一口だけ琥珀色の液体を煽った。





 方舟(はこぶね)作戦が発動されるまで、現代世界時間であと一週間。




キーワード解放

【異世界転移で体がタダで済むとお思いで?】→【亜人・魔人・獣人化】、【来たれケモミミ】


うーん、これから冒険をヅケヅケやりたいのに、厳しい現実……絶惨()不定期更新だっっ‼︎

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