002 とある日常2
さてさて、どうなる事やら。
転校生の名は金野春樹。
身長は190㎝台でガタイが良く、傲慢でお山の大将。そして自覚のない井の中の蛙の中の蛙で、ソコソコの成金の親を持つ。髪は金髪と茶毛に緑のメッシュで染めているのだろうが、はっきり言ってダサい。制服の着こなしは、ワイシャツを全て出し腰パンを最大にした、正にチンピラだった。
負の要素満載男。
そして、その全てを-∞(マイナス無限大)に突き落とすのが──
「我が名は金野春樹! 今日から泉英高校と共に歩むことになった! よろしく頼む! 」
お決まりの、拳を高く上げる挨拶。見事なまでに病に侵されている。それも中学時代に罹る病。内容も古いし。
「えー金野くんの席は小屋敷さんの後ろですね。」
担任は大人のスルースキルを華麗にキメた。全く表情に出さない小屋敷も流石である。
しかし、金野は動かない。
五人(朱、美鈴、怜那、陽菜、緒方)以外が怪訝な顔をして、金野の顔を注視した。そして瞳が変な熱を帯びている事に気がつく。
視線の先を辿ると──朱がいた。
そんな朱はと言うと……うわの空だった。放課後にする事ばかり考えている。しかし、如何せん顔立ちが整っているので間抜けな顔をしていても、見た人には凛々しく映ってしまう。これだけなら生徒の大半は、ああ、惚れたか。と思っただろう。
しかし、幾ら見ても反応がない朱に苛立ったのか、舌打ちをして席に……座らず、今度は神沢にその視線を向ける。
ジッと見られたので少し、「早く座れ。」という意味で力を込めて見つめ返す神沢。すると、金野はスタスタと歩いて行った。何故か神沢の方へ。
そして一言。
「貴様がこのクラスのアタマか。」
シーンと静まり返る教室。物音一つ立たない。
皆が皆、「は? 」と心の中で思い、|一部の人(主に朱)以外は顔に出した。
金野なりの中心人物を特定する判断基準なのだろう。容姿やプライドを自分の物差しで測り、神沢がこのクラスのリーダーだと判断した様だ。
蛇足であるが、金野は女子がリーダーだと言う可能性をハナから考えていない、男尊女卑の古臭い男である。今の進んだ世の中では化石の様な男でもある。
そんな男のアンテナに引っかかる朱は凄いと思うが、金野は"女子"で、しかも"プライドが低い"と決めつけ、己の直感を切り捨てた。
実は大当たりなのだが、金野は知る由もない。
そんなこんなで、朱の友達三人や白根澤は女子と言う理由で除外。男でリーダーになりそうな人、即ち神沢に回ってきたのだ。御愁傷様である。
「金野君、早く座ったらどうかな? 皆が待ってるよ? 」
好青年のイケメンスマイルで苛立ちを完璧に隠し、神沢は言った。見事であるが、"皆が待ってるよ"という言葉で、何故か金野は確信した様だ。
そんな神沢にぼそりと一言。
「放課後に一人で校舎裏に来い。」
そんな、昭和の香り漂うセリフを残して、金野は席に向かった。神沢は金野に見えない様に辟易した顔をする。金野の、タイムスリップでもしてきたのかと真剣に考えるほどの、非常識っぷりが炸裂したそんな時。
「あの? 俺も自己紹介していいでしょうか? 」
皆、金野のインパクトが強過ぎて気づいていなかったが確かに居たのだ、もう一人。担任も忘れていた素振りを見せたのは如何なものか……。
そんな影薄なもう一人の転校生。その名は田中屋祐理。体付きは中肉中背で、祐理は父母が共働きのよくある家庭に生まれた一人っ子。成績も普通。名前だけが珍しいという男子。
ただ、この場ではある意味異端でもある。
田中屋は、いや、田中屋に限らずとも、新入生と転校生は今の学校のヒエラルキーに縛られない生徒になる可能性を秘めている。が、既に定着している体制をどうにかするのは酷く難しいだろう。
転校生で常識的であるが故、ちょっと苦労人になりそうな未来が見える男。それが田中屋祐理だった。
「あ…コホンッ、えーではどうぞ。」
そんな、担任の雑な返答に、田中屋の目尻に溢れたものが少し光った。
「えー今日から泉英高校で皆さんと一緒に勉強させていただく田中屋祐理です。よろしくお願いします。」
緊張して少し言葉が固くなっているのはご愛嬌である。金野と違い、指定された席にさっさと座る。白根澤の後ろの席だ。
「では、以上でホームルームを終わります。」
そんな担任の言葉で白根澤が号令をかけて、新学期最初のホームルームが終わった。皆が体育館シューズを持って体育館に向かうと、始業式が始まった。
特に特徴のない校歌を歌い、長ったらしい校長の話を大多数の生徒が聞き流し、あとの諸連絡はしっかり聴いて終わる。掃除でも、一部に怠ける生徒が出たりして働き蟻の様だったが、別段変わった事もなく終わる。
そして待望の放課後。
「じゃあ、皆んな行こっか。」
朱がそう言った。言うまでもない事だが、朱が言う"皆んな"とは下神、光橋、小屋敷、石和の事である。
それにも関わらず、クラスの全員が一斉に動いたのは気のせいである。気のせいったら気のせいなのだ。
そして、部室に移動。
女子はこれでもかと厳重にロックされ、誰かが開けようとすると本人にメッセージが届くセンサーに守られた個室に入る。
男子に個室は無いが、体に触れられたり、不審な振動を感知する機能がVRnavi.にあるので、貴重品ロッカーに大事な物を入れるだけで良い。
一見女子が好待遇に見えるが、その実個室は限られているので女子の殆どは諦めなくてはならない。よって争奪戦争。
逆に男子は、床がスリッパで歩く、ゴロ寝が出来るタイプなので結構参加できる。その中にはマイ枕やらレジャーシートやらを準備する男子もいる。しかし床が汚いと言うわけでもなく、寧ろ床は綺麗。それは朝早くに石和が床を丁寧に掃除しているからだった。
足を廊下側、窓側に向け、部屋の中心に頭が来る様に、ずらっと綺麗に二列で寝て並ぶ光景は異様である。
一箇所だけ女子がVRnavi.を付けずに座っているのが目立つが……どうやら場所取りらしい。不幸にも目を付けられた男は律儀に応じたようで、後顧の憂いを断つという意味で従ったのだろう。後からちゃっかり合流するつもりの男はの話は置いておく。
数十人の生徒がスタンバイする中、VRnavi.付属のマイクで話す朱の声が部屋に響く。
『えー、今回は自由参加です。部室のサーバーを使って、フィールドを組む続きをしたいと思います。手伝ってくれると嬉しいです。では、始めます。』
朱はこう言うが、|ゲストプレイヤー(朱、美鈴、怜那、陽菜、翔太以外)が居ない日は、これまで無かった。皆んな仮想世界が大好きなのだ。やましい気持ちはこれっぽっちもない! ないのだよ!
VR研究部は現在、MMORPGのソフトを製作中である。ジャンルは良くあるファンタジー。ただし、銃が出てくるファンタジー。
この世界が、高層ビル群や高速交通網の発達した世界が滅び、幾星霜を経て魔法やそれを基にした社会が発展した。
という感じのシナリオに沿って作っている。銃は、オーパーツ的なカテゴリに入れる予定である。
作業は製作ソフトを入れて、そこにログインする。するとウインドが幾つも浮いている空間にダイブするので、そこで作りたいソフトを設計する。
メリットは手が疲れない、入力ミスが殆ど無い、創った世界をテストとして実際に体験する、細かい所は自分の体で物を動かす感覚で修正したり等々。
四人は専ら指示を出す側に回る。というか手伝う人達が嬉々として、率先して動き「四人がこんな末端の仕事をするなんて滅相も無い! 」みたいな反応をするのだ。
何より、仮想現実内の石和は別人である。正確に指示を受け、ハキハキと指示を出す石和。さながら熟練した現場監督の様であった。
いつも通りに、雑談を交えながら着実に製作を進める。
『朱ちゃん。』
石和はVRの中ではハッキリとそう呼ぶ。
「うん? 翔太、どうかした? 」
『いや、ちょっと小耳に挟んだ面白い話があるんだ。』
「へー、どんな? 」
石和は一拍置いて応える。
『Psinって知ってるかい? 』
「さいん? 」
『p・s・i・nでPsinだよ。』
「……聞いたこと無いな。どんな奴? 」
『それは……バックグラウンドで数多のPCが巧妙に繋がれた裏のネットワークなんだ。普段使ってたら絶対に気づかないし、多少プログラミングを齧っただけじゃ絶対にわからない。』
「で? それが何に使われてるの? 」
『それが……わからないんだ。誰が、何のために、いつ、どの様にして、どこまで繋がっているか、サッパリなんだ。』
「はぁ?そんなのハッカーとかクラッカーが飛びつきそうなネタじゃない。それどころか、率先して加担してるかもね。」
『うーん、ソレなんだけど……VR技術が発達してから更にハッカーの質も上がったけど、何て言うか、その……』
石和が言い淀む。──仮想世界では珍しい事だ。何なのだろうか?
『い……生きてるみたいなんだ。』
二人が話している間も、ウインドが開いては閉じたり、目まぐるしく作業をする。
「……何が?」
『Psinが、だよ。それこそ魔法や非科学的な何かが関わってないとあり得ない程に、柔軟に、流動的に、適切なプログラムで侵入者や傍観者に対処してくる。そして、挑む者を閉じ込める。』
「閉じ込める?ログアウトできない様にするって事?」
『うん、ここら辺はVR技術の弊害というか。体を動かす信号をコンピュータ内の操作に回してるから、ちゃんとログアウトするプログラムが無いと出られない……VRnavi.はそこの所をしっかりしているんだけど、それ自体壊された感じだよ。だからPsinに挑むならVRnavi.を外す役が待機ってのがセオリーらしいよ。』
「ふーん。閉じ込めている間に何かされるの? 」
『それが、どうこうする訳でも無くトイレに行きたくなったらログアウト、になるらしいよ。』
「謎ね。私なら過電流とかで叩っ斬るけど……そのPsinとかいうモノ、本当に情報が無いの? 」
『朱ちゃんも後で調べてみると良いよ。高度なAΙとかが正体なのかな、とは思うんだけどね。』
突然、会話に割り込みが入る。
『お二人さん、仲が良いのは大変よろしゅうござんすが、そろそろ作業に集中するでヤンス! 特に翔太‼︎ 』
下神だった。思考の海に呑まれそうな石和を明るく叱咤する。険悪な雰囲気には絶対にさせない、そんな意気込みが伝わる良い叱咤だ。
「ごめん、美鈴。」
『す、すみません。美鈴さん。』
石和は微妙に元に戻る。
そんな二人に明るく続ける下神。
『いやー、朱の作業速度は全然変わってないしミスも無いから良いんだけど、勝手に話しかけて考え込んだ翔太が不味いんだよね〜。結構重要な、中心部を任せてた気がするけど?』
石和は、あっ! ごめん‼︎ と言って通信をOFFにして、慌てて行った。
そんな石和に朱と美鈴は苦笑する。
『そっか〜、Psin、ね。』
美鈴がどこか含みのある様な言い方をする。
「……聞いてたんだ。」
『まぁねー。Psinなら私、噂を聞いた事あるな〜。』
「気になるね、どんな噂?」
『Psinは、世界をシミュレートしている。って噂なんだけど。』
「世界をシミュレート? まさか宇宙の誕生から? 」
『そ、今わかってる法則でシミュレートして、修正と試行を繰り返してるって感じらしいよー。』
朱は少し眉をひそめる。
「そんなの、もっと大々的にするでしょう?」
『まあ、噂だし、その中でもシミュレーションの結果をこの世界に合わせているとも言ってないし。』
「それって……別の文明が発達した可能性、とか?」
『そんなのかねぇ〜。別の噂ではカルト団体が運営してるとかして無いとか。』
「全て、あくまで噂、か……。」
朱は少し面白くなさそうだった。
もし噂が本当で、完璧に、別の文明がシミュレート出来たならば、VRnavi.を使って入ってみたい。そう思ったから。
『朱、そんなものに期待しなくても良いじゃん? ほら、いっつも朱が言う言葉──
『「無ければ、創れば良い。」』
──望む物が無いなら創れ。
世界にも種類がある。私達には機械の中のちっぽけな世界しか創れないけど、それで充分。
『朱。続きをしよう。』
「うん。」──世界創造の第一歩だ。なんてね。
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夜、夏葉原の高層ビル群が立ち並ぶメインストリート。そこに一人の少女がいた。少女は透明な、角が取れた長方形の、両目を覆う様な眼鏡をしている。けれども少女だけでは無い。通りを歩く者は皆、"それ"を掛けていた。
"それ"はARnavi.と呼ばれ、VRnavi.と対になって普及した機械である。AR、すなわち拡張現実と呼ばれる物で、既存の景色に必要な情報を加え、生活をサポートする。
例えば、ARnaviが普及してから物理的な看板が無くなった。代わりに、その場所には錯覚を利用した遠近感のある半透明の看板が姿を見せた。町中に送信機が設置され、ARnavi.がそこから情報を得て、透明な画面に透明な看板を映し出す。
送信機は電波に指向性が持たせてあり一定の方向から見なければ映らない仕様になっていて、方向が重要な案内標識は特にこれである。事故にならないようにどぎつい色は禁止、広告は縦横何センチ未満、目がある中心付近には緊急時の警告やナビの矢印以外映らない等々法令で決められている。
ナビの矢印、つまりナビゲーションシステムもARnavi.に組み込まれていて、画面上に主要な施設の名称が簡潔に出たり、目的地まで道路に矢印が見える様になっていた。
骨伝導による音声案内や通話と言う機能もついて、ちょっと盛りすぎなのでは? と思ったりする。普及していく過程で、外観を損ねることを嫌う観光地は真っ先に形の無い看板を取り入れていたようだ。
そんな、広告の明かりが小さくなり、少し落ち着きが戻った街を少女は歩いていた。少女は親と喧嘩して、家を飛び出してきた。ヒステリックな母親とDVを行う父親が嫌になったのだ。しかし、友達が居ない少女はどこにも行く当てが無く、夜の街を彷徨っていた。
少女は細い、路地裏を何とは無しに歩く。ふらふらとした足取りで、顔は俯いたまま。
街の喧騒が遠のいて行く。
──疲れた。もう疲れちゃったよ……
朦朧とした意識の中、少女の目に灰色の靄が映った。意識のはっきりしない少女には、それがただの情報か、実体のある物かは分からない。ARnavi.を着けている事すら忘れている。
──? ナニアレ、へんなの──
少女は手を伸ばし、吸い込まれる様にその靄を追いかけ、靄の中へと消えていった。
夏葉原で、少女が行方不明になったニュースが報道されたのは、数日してからの事だった。
これが後世に伝わる、Psin事件の日本初の行方不明者だった。
─────────────────────────────────────────────
朱は夕暮れ時に帰宅した。
製作は着実に進み、卒業には何とか間に合いそうだ。
両親にただいまを言って二階の自室へ入り、服をジャージに着替えて下に降り、家族で夕食を食べる。家族と今日の学校の出来事を話し、食べ終えてから明日の用意とゲームを少々。それから風呂に入り、ペンギン寝間着を着て就寝した。
体は資本。睡眠は大切なのだ。
※
次の日。いつも通り学校に行き、授業を受けた。
今回の授業は長年にわたり議論されてきた"VR・AR技術が人々に与える影響"についてだった。
「えーVRnavi.やARnavi.は長時間の使用ができるよう、改良がなされてきました。しかし、スマートフォンやパソコンと同様に、依然として健康に問題が出てきてしまいます。」
教師はパワーポイントとレーザーポインターを使い、説明していた。
「特に、ゲームのMMORPGは依存性が高く、注意が必要で──。」
それから授業は淡々と進み、質問を受ける時間になる。すると神沢が挙手し、こんな質問をしたり。
「時々、巷で話題になる"リアルなバトル系VRゲームによる犯罪への心理的ハードルの低下"について、先生の意見を伺いたい──。」
ある生徒は。
「Psinと呼称されるネットワークについて、オンラインのVRnavi.やARnavi.の使用中にあちら側から接触してくるという話ですが、一体どの様な目的で──。」
などなど、様々な質問が出てくる。とても活気のある授業だった。だが、ここでもほとんど話を聞かないのが朱クオリティー。唯一聞いたのはPsin関係の話くらいだろうか。
休み明けという配慮からか、高3でもこの日は午前中に授業が終わった。だから朱達は珍しく、街へ繰り出した。
今回行くのは夏葉原。理由は──
「ふおぉぉぉおお‼︎ これ! これですよ朱‼︎ 」
とある広告を持って、街のど真ん中でハイテンションな下神が言った。普段なら目立つであろうが、今は町の喧騒に掻き消される。光橋と小屋敷も少し興奮している様だ。そして二人はそれぞれチラシを握りしめていた。
まず下神の内容はアニメ「この素晴らしい世界に狂乱を❤︎」のキャストのサイン会開催。
次、光橋の内容は「ノノの旅」の作者サイン会開催。
最後、小屋敷の内容はアニメ「ありふれた職場で世界最強」の作者と監督の対話形式視聴会+サイン会開催。
「やはり夏葉原はアツイッッ‼︎‼︎ 」
熱意を込めて、拳を振り上げて言い切った下神に、他の二人も首を縦に振り同意する。それはもう、トレルかと思うほど。
「別行動して、アニ〆イ卜で合流する? 」
そんな朱の提案に、三人はサムズアップして「勿論」とハモる。そして三人は脱兎の如く移動を開始する。ちなみに、小屋敷は大分前から予約していたらしい。が、関心の無い人には心底どうでも良い話。
そんな友達を眺めつつゆっくりと、だが確実に列に並んでいる朱。他の三人の目当てを聞いて、「あ、三つの地点の丁度真ん中に私の目当てがあるから、集合場所にもぴったりだ。」と思って指定していたりする朱だった。ちょっとそれでいいのかと思ったりするが、朱は気にしない。四箇所から等距離にある地点は路地裏の、多数の落書きや浮浪者が徘徊する地帯だったので、この選択は正しいのだ。
朱が並んでいるのは「転生したら不定形生物だった件」の作者のサイン会。鞄にはムルル&ムルルのシリコンストラップを付けて装備万端。「転生したら不定形生物だった件」とは簡単に言うと、不定形生物が魔王に成り上がっていく話だ。
この後は「廃羽連盟」と「S.E.L.」をして、今は「ALL WE NEED IS HELL」など手掛ける漫画家兼イラストレーターのサイン入り色紙会に臨む予定である。
取り逃がしが無いように父母も参加している辺り、峰倉家は本気である。
ただし、列に並んでいる間は暇だった。なので朱の場合は周りを眺めて時間を潰す。
スマホなんか見なくても無くても、街頭の送信機からのニュースやLINが届くこのご時世。歩きスマホは死語になってしまった。
ARnavi.は両手がフリーになることや、視線が下を向かない等の利点もあった。尚且つ全てほぼ透明であるARnavi.はスマホと比較すると格段に事故が減り、
映し出される文字も至近距離でなければ見ることは出来ない仕様で、プライバシーが保たれている。
朱は今、ニュースを見ていた。
朱が見るのはVRのソフトとハードの会社関係で、ンニーや西芝、ツャープなどの大手企業から中小のベンチャー企業まで幅広く。
色々見ていると、ある単語が目に留まった。またしてもPsinという文字、それも警察のサイバー対策課が秘密裏に動いているというタレコミの記事だった。
「Psinか……何かあったのかな? 」
朱は小さく呟いた。聴く者は居ない。
記事を読んでいく。
Psinの行方不明者と疑われているはアメリカで約30件、ヨーロッパで約20件、アジアで約10件。約というのも、詳しい情報が入って来ないからなのだが、アジアの10件の中に日本で起こったものはなかった。
ただ、今回は海外でその様な事件が頻発している事で警戒していた、サイバー対策課が動いたらしい。だからこの情報が正しければ、Psin事件が日本でも起こったという事だ。
──Psin事件。コレは始めからこう呼ばれていたわけではない。警察の初動調査でも単なる事件として捜査されていたし、誘拐、拉致、失踪……殺人と隠蔽など、様々な方面から辿ろうとしていた。しかし、結果は……未解決。科学捜査が発達した世の中で、だ。
殺人でも、死体が見つからなければ行方不明となるものの、動機も見当たらず不可解な失踪ばかりで警察は困惑した。
例えば初期にアメリカで起こった事件を挙げると、マンションの二階に住む中年男性が自宅からコンビニに買い物に行った。男性のマンションの入り口は人通りの比較的多い道路に面しており、表の道路とコンビニの防犯カメラにしっかりと男の姿が映っている。足跡も彼がマンション自室から廊下に出て階段を降りて表の通りを歩いてコンビニに行ってと、ここまでは自然だった。
しかし被害者は帰り道の途中に、小さな路地の前を一度は横切ったものの、上半身を傾けて路地の先を窺い、踵を返しその小さな路地に入って行った。そしてその道半ばで忽然と姿を消した。
この事件は奇妙。何故、被害者は路地に入ろうと思ったのか? 入った先で男性が犯罪現場に出くわしたのか? そして口封じに殺害されたのか? しかし暴れた形跡も血液反応も出ない。クロロホルムなどで無力化させられた後に、どこかへ監禁されたのか? 様々な仮説が飛び交う。
けれども、一番奇妙なのは足跡。何かしら衝撃的な場面に遭遇したならば、大抵の人は後退る。でもこの人の場合、両足を揃えて立ち止まり、そこで綺麗に途切れていたのだ。呆然としていたのでは? との意見も出たが、微動だにしないとはこれ如何に?
突拍子な考えでは、気絶させた後にそのまま倒れない様に支えておいて、仲間が路地に面した上の方の窓から縄を垂らしてそれで縛り、引っ張り上げて部屋の中に男性を回収──なんて変なものまで出た。しかし、 そもそも六十キロ以上ある成人男性を支えるにしても、引っ張り上げるにしても、不審な足跡や窓枠に擦れた痕や滑車を固定した痕やら男性の体が壁面に擦れた痕やら……証拠出まくりである。
その事で、イライラしていた上司に『ふざけんなバカヤロー! 』とお叱りを受けた刑事も居たらしい。
話が長くなったが、警察はARnavi.の通信記録も調べた。とは言っても、ARnavi.本体は本人と共に消失しているので、街灯の送受信器側のログを辿った。──
とまあ、そのログの中に共通したアドレスが残っていたらしい。その頃からPsinという都市伝説が出てきて、噂みたいなややこしい事になっているのだ。
事件数について補足しておくと、動機や状況から普通の事件でも巻き込まれた可能性が有り、把握している件数より多いと予測されている。──不謹慎だけど、一匹見かけると十匹いるアレみたいだね。
「石和の話……こちらから仮想現実を通して接触した場合は、トイレ以外でログアウトが出来ない様になるというのは関係があるのかな? どちらかと言うと拡張現実を使ってる時に起きてる気がする…… 」
朱はボソボソと独り言を続けるが、誰にも聞こえていない様だ。
海外ではインターポールやらCIA、NSA、SISやらがてんてこ舞いで、事に当たっているらしい。しかし、あまり深追いをし過ぎると、構成員まで持って行かれるそうで四苦八苦している様だ。気がついたら隣の奴が──なんて噂もある。
「……噂って面倒。」
そんなことを呟き考えていると、サイン会の順番が回ってきた。
朱は鞄から「転生したら不定形生物だった件」の単行本を全巻とコミックを取り出し、表紙の裏にサインを書いて貰う。
少し冊数が多いため、待っている間に朱は何気無く辺りを見回す。──スーツを着た複数の男女が何やら真剣なやり取りをしつつ、路地裏に入って行くのが見えた。
朱はそれを視界の端で捉えつつ、作者の方に軽く微笑んで礼を言い、次の目的地へ向かった。
好奇心は猫をも殺す。今は、わざわざ関わる必要は無い。
どうでもいい話ではあるが、朱の鞄の中には廃羽連盟の画集、S.E.L.のビジュアル解説本とイラストレーターの個人画集なんかもフル装備していたりする。
そして一見いつもと変わらぬ朱だが、癖毛の一房がいつもの5割り増しで元気が良く、少し口元が緩んでいたりするのは、どうでもいい事なのだ。
後半のサイン会も無事終了し、アニ〆イトに向う。夏葉原は活気に満ちていて五月蝿いが、朱には大した事ではない。顔色変えず、マイペースに歩く。
朱がアニ〆イトの通りへ行く途中、普通は気づかない様な、よくある人集り。しかし勘の良い朱センサーに引っかかる何かを感じて、その集団をみると──
「? ……あ、田中屋くん? 」
朱は少し驚いて、声に張りが出た。すると、良く通る朱の声は田中屋に届いた様だ。
田中屋はビクッとして、油の足りないロボットのように首をこちらへ向けた。そう、効果音を付けるなら【ギギギ】。
「や、やあ、峰倉さん。」
田中屋は何とも居た堪れない思いを、苦笑いして表現していた。
理由は田中屋の格好。
ジーパンにTシャツ。ここまでは良い、しかしここからが変わっている。
夏でもないのに手にはプラスチックの団扇、額には鉢巻。そしてトドメはTシャツ、団扇、鉢巻の三つにアズキュンLOVEの文字が……お察しである。追っかけである。
「田中屋くん、アズキュン好きなんだ? 」
朱はいつものトーンで話す。対する田中屋は……。
「え? あ、ああ。そうなんだ。……変かな? 」
猛烈にビビっていた。朱の容姿に気圧されているのも否定は出来ないが。「彼女かよ〜」みたいな絡みも忘れて、周りの仲間は朱の容姿に絶句している。
「? 変って何が? 」
素で首をかしげる朱に、田中屋は面喰らう。
初対面に趣味がばれた時、ちょっと引かれるのを覚悟していたのだ。そして特殊な仲間達は朱の首を傾げた仕草を見て、団扇を取り落とす。拾う気配は無い。
田中屋は恥ずかしさが若干上回り、何とか話ができている様だ。
「いや、何でも無いよ。峰倉さんは一人? 」
女子と話すのが不器用な田中屋は頑張る。しかし、何とは無しに言った言葉がナンパのようにも聞こえるのはこれ如何に。
田中屋は女子が一人でいる事に危機感を持って言ったのだろうが、朱は特に考える事無く素直に答える。
「この先のアニ〆イトに友達と集まる約束。」
そう言って、朱はこの通りを指差した。すると鞄のキーホルダーが揺れた。
田中屋はストラップを目敏く見つけ、頷いた。
「そうなんだ。ところで、峰倉さんは転生したら不定形生物だった件のサイン会が目的だったんだね。」
「うん、それが終わった後はALL WE NEED IS HELLやS.E.L.のイラスト描いていた人のサイン会にも行って、無事終了。」
田中屋は何かスイッチが入ったようにスラスラと聞き、朱はいつもの調子で話す。わかる人にはわかる会話、と言うヤツだ。わからない人にはあまり楽しくない話でもある。
「あ〜あの独特なタッチの人か。良いよね、作品の世界観と合ってるS.E.L.や廃羽連盟は最高だね。」
……台詞がどこか大いなる意思を感じるが気のせいだ。気のせいったら気のせいなのだ。
田中屋が普段の調子が出て、普通に話せるようになった時。
「何だてめえらっ⁈ 」
そんな罵声が聞こえてきた。
※
下神美鈴と光橋怜那、小屋敷陽菜の三人は一足早くアニ〆イトの近くまでやって来ていた。
さて、美少女が往々にして巻き込まれるトラブルといえば?
「君達可愛いね。一緒にご飯とかどう? 」
漫画や小説の使い古されたテンプレ。そう、一つはナンパである。
そしてまた一つは──
「○○の者何だけど、君達歌とかダンスに興味無い? 」
そうやって名刺を差し出すタレント事務所の人。
今、三人はこの二種類の人間に囲まれている。
どちらも、そこそこの容姿ならば諦めるだろう。
しかし、三人は諦めるには惜しいと思えるぐらいの可愛いさで、なりふり構わないスカウトマンやナンパ野郎ならば、しつこい。
ちなみに、マナーを弁えるエリートスカウトマンやナンパ紳士は相手に嫌われたら負けなので、軽く聞いてみて意見が合わなかったら終了する……と思いきや、何故か遠くから見るだけで彼らは近づかない。そして小声で話す。
(なあなあ、あれって良く来る子達だよな。)
(ああ、俺たちには高嶺の花だ。と言うか二度と関わりたくねぇ。)
(……あいつら新顔か? あんなに可愛い子達が揃ってるのに、俺らが行かない時点で気づけよ。)
不穏。めっさ不穏。
今の所は穏便に済んでいるが、先程から数歩歩けば声が掛かるのを、三人は鬱陶しそうに追い払うのだった。
そしてアニ〆イトに入ろうとしたその時。
店の中で話しかけると色々面倒な事になる、と焦ったナンパ野郎の一人が手を伸ばし、小屋敷の腕を乱暴に掴む。
「ちょっと、無視するのは良く無いよ? 」
そんな台詞をニヤついた顔で言って、相手の痛がる様子に構わず、もう一度強引に──男の腕が掴まれ、ギリギリと軋むような音が鼓膜に響く。
「ほっ? ひぎっ──⁈ 」
一瞬、間抜けな顔をしたチャラ男は放された腕を抱え、その場に倒れ込む。
囲んでいた数名の男は驚き、後退りながら思わず怒鳴った。
「何だてめえらっ⁈‼︎ 」
視線の先には、三人を挟むように守る黒服の男二人。
彼等の話をする前に、まずは小屋敷陽菜の家庭事情を話そう。
薄々わかる人がいるかも知れないが、小屋敷家は代々仁義を重んじる黒服の、背中に絵を描いたり、貴金属を身につけたりする人達のトップの家系である。
とは言っても、小屋敷家は超穏健派と呼ばれ、同業者からは腰抜けの小屋敷などと陰口を叩かれるほど真っ当なビジネスをしている。
まあ、このような普段穏やかな人達を怒らせた時が一番怖いので、正面からとやかくいう同業者は居ないのだが。
ビジネスは何処ぞのブラック企業真っ青な好環境で社員を雇っているし、それができるのは「堅実に」をモットーに昔から持っているソコソコの資本を、コツコツ大きくする方針を取っているから。
そして、欲をかき自滅していった他の同業者を尻目に、ここら一帯の土地建物の権利書が小屋敷名義になるくらいには発展した。
今は主に土地建物の賃貸借で稼いでいて、「株式会社小屋敷不動産」という会社を運営している。
話は戻るが、三人の両脇に現れた二人は小屋敷陽菜のボディーガードである。
次女の陽菜は家を継ぐ立場には無いが、トップの娘ということもあり、大事にされている。何より、陽菜自身が社員にとても人気がある。人気があり過ぎて、護衛が日替わり制になったと言う話もあるほどだ。みんな護りたいのだろう。専属のプロを付けると言う話はいつの間にか立ち消えた。
いつもは男女一人ずつ同行するが、今回は女性のみで入るところも無いし、荒事になりそうな場所だったので男二人になっている。
野次馬が距離をとる中、ずんずんと進む人影があった。それをエリートスカウトマンやナンパ紳士は引きとめようとして、その女性の顔を見てやめた。そして道を開ける。
女性はマイペースに颯爽と男達を置き去りにし、三人の前に立ち言った。
「お待たせ。」
遠くから状況を見て、合流した朱だった。エリートスカウトマンとナンパ紳士の反応の通り、彼らは朱を知っていた。因みに、朱は彼らに【|双門(鬼門・登竜門)】と陰で呼ばれていたりするのだ。
「どうも、迷惑を掛けてしまったようですみません。」
朱はそう言って、ボディーガード二人に頭を下げる。
朱は自分が遅れた事で、無用のトラブルに巻き込まれてしまったと思ったようだ。勿論、全くそのような事では無いのだが。そんな朱に五人は内心苦笑しつつ、男の一人が顔を上げた朱に答える。
「峰倉さん、軽々しく頭を下げて貰っては我々が困ります。貴女はお嬢様の大切な御友人であり、今この場で貴女が謝る必要は何一つ無いのですから。」
「そうだよ朱。むしろこの場に朱が居なくて良かったよ。」
小屋敷は朗らかにそう言った後、何故か腕を摩った。
どうやら朱がいた時のことを想像し、男の状態に鳥肌が立ったようだ。家族である孝に対するお仕置きを考えれば、お察しである。
危害を加えるような人物に遠慮しない。朱は聖人などでは無いのだから。
「そうそう、男の人が無事で良かったわ。」
下神はストレートに言い切った。
「ちょっと美鈴。そんな事言うと……。」
光橋が下神を注意しようとしたが、朱の満面の笑みを浮かべて言った言葉に遮られる。
「そっか、じゃあみんなで一緒にカフェに入ろうか。美鈴はちょっとお話しする必要があるみたいだし? 」
下神はギョッとしたあと逃亡を図るも、朱に首根っこを掴まれあえなく御用である。
「峰倉さん。カフェに入るのは問題無いのですが……。」
申し訳なさそうな顔をして、ガードの男が言った。
「あー、私が先に行って席を確保しておきます。」
朱は直ぐに了解する。朱以外は、これから軽く事情聴取されるのだ。始めに掴みかかったナンパ野郎が、痛みで動けない程度には事が大きくなってしまったから。しかし、そこまで時間はかからないだろう。ここら一帯のお巡りさんと小屋敷家は仲が良いのだ。
「じゃ、また後で。」
そう言って、朱は来た方向に去って行った。
※
再び田中屋と合流した朱はカフェに来ていた。
「へー、小屋敷さんの家のボディーガードか。」
「うん、さっきは助かった。正当防衛で相手も骨は折れてないみたいだったし、そんなに長くはかからないだろうね。」
「そう、良かった。」
小屋敷の家について、朱は詳しいことを田中屋に話していない。ボディーガードを雇うぐらいの金持ち、ということにしておいた。
田中屋は、後から来るみんなの為に席を取る手伝いをして欲しいと頼まれたので、朱とカフェにいる。デートでは無い。
冷静に返す田中屋は、内心汗だくである。
先程見かけた美少女三人がここに来るというのだ。男として緊張しないわけが無い。
先程一緒にいた仲間は非アイドル耐性0の奴等で、そそくさと帰って行った。よって朱と二人きり。
只でさえ心臓が激しくて苦しいのに、美少女に囲まれるとか何の冗談だ。殺す気か。と、心の中で愚痴る田中屋。
そんな事を考えつつ、朱をチラリと見やる。
朱は優雅に紅茶を飲んでいた。
凛々しい瞳、綺麗な黒髪、白く美しい肌。そして、紅茶を飲む時に柔らかく変形する桃色の唇……ってちょっと待て、俺は変態では無い! と心の中で絶叫して自分を落ち着ける。
そんな事を何回も繰り返す田中屋であった。
※
夕暮れ、全てを赤く染める時。
生き地獄改め朱達とのお茶会を終えて、朱達と別れた田中屋は、家に帰る道の途中にいた。
──はぁ、なんか二日目にしてよくわかった。あの四人、中でも峰倉さんが今居る学校の中心だ。おそらくあの人は、放課後のVRnavi.を使ったソフトの製作とか自分に興味のあること以外動かない。でも学校でVRゲームの製作なんて、この高校の学生が飛びつかない訳が無い。だから結果的に、あの人は中心にいて尚且つ美人だから、物凄く人気がある。
でも、本人に自覚が無いのはいただけない。あれは反則だ。自分が綺麗だと自覚が無いにも関わらず、素で一番可愛い動作をしてくるとか、自分のキャパシティをオーバーしてもう何が何だか分からない。
田中屋はトボトボ歩きながら、これからどう関わっていくべきだろうかと思いを巡らす。
ふと気がつくと、反対側の歩道に不思議な光景があった。
「? あれっ? 何でこんな所に? 」
反対側の歩道には前の学校のクラスメイトだった女生徒が、ポツンと一人で立っていた。
田中屋の前の学校は二県ほど離れていたはずで、こんな所にしかも制服姿で、一人でいるのはおかしい。
「おーい? そこで何してるんだ? 」
返事は無い。何度呼んでも、こちらを見向きもしない。
そして気がつく。
「……ちょっと待て、あいつの影が無い。」
そう、影がない。夕焼けに照らされ、長く伸びているはずの影が。
「……。」
何を思ったか、田中屋はALnavi.を外してみた。
すると、女生徒は忽然と姿を消していた。
「なんだよ、ただのバグか。帰って修理に出さなきゃな。」
そう言って田中屋はALnavi.を掛け、何もない事を確認して再び歩き出した。
田中屋と、その女生徒は付き合っていた。そして学校が変わった今でも付き合っている。
その時撮って保存していた写真が、故障して中途半端に浮かび上がったのだと田中屋は思ったらしい。
そして、その女生徒がPsin事件の行方不明者に加わったと田中屋が知るまで、それほど時間はかからなかった。
♪(´ε` )……書いてて思ったのですが、スカウトって今でもしてるんでしょうか? 別に探さなくても、見てくれがソコソコの歌って踊れる人が、専門学校から供給されるから、了承してくれるかどうかわからない機会にかけるより、そっちの方が費用対効果がまあまあ高いと思ったり、思わなかったり……次だ!