ハシゴの下の里
ハシゴを降り続けること、もう一時間以上は経ったのであろう。未だ、底は見えてこない。
何もかも……とは言っても、周りのレンガの壁や握っている木の梯子が、二重三重にも見えてきて来た。もうそろそろ危ないというサインが出ている。
アルスは小声で何かを呟いた。呟いて出てきた緑の光は体力を回復させてくれた。
自身の体力を分け与える魔法。それのせいか時折変に咳き込んでいた。その時は気にしていなかった。
メイリンはまだまだ余裕があるとでも言うような顔をしていたが、流石の彼女でもハシゴを掴む手がおぼつかない。だから、体力が少し戻ってきたら、本当にすまなそうにしていた。
ガルムは、あのクッソ苦い薬草をひたすら噛み続けていた。意識を保つためなのだろう。たぶん。
そんなこんなしていると、やがて下の方から光が見え、底が近づいている事を知らせる。
翡翠色の草が彼方此方へと飛び出してる草原。草原には見た事も無い花が咲き乱れており、花の蜜を求めて飛び回っている綺麗な模様の蝶々。その上に広がるのは柔らかそうな雲と青空。
何故こんな景色が地下に広がっているのか分からず、驚きの表情を見せている。私だってそうだ。
一人だけ、冷めた表情でこの景色を見ているものがいた。アルスだった。
アルスは暫く口を閉じていたが、やがて口を開いて言った。
「………ここまで降りてきて、あったのがこれ?冗談じゃないよ。ただの草っ原の為に僕は魔力を消費させたってわけ?笑えるねぇ」
冷めきった目で自嘲するように笑い、彼は言った。少しずつ心を開いてきているのか、だんだん生意気な面が目立ってきた。かなりムカつくが。
「………もうこんなことに付き合ってらんないよ。」
アルスはクルッと振り返り、ハシゴを見つけ登ろうとした。
彼の双眸が写す先にあのハシゴなんて存在していなかった。
「あー……何でこんな奴らについてきたんだろ。」
「グダグダ言わなイ!」
「もうすぐ着くのだから、我慢しろ」
イヤイヤ言いながらも少年は付いてきている。付いてこなくては帰れないという事を知っているからだろう。
似たような景色に飽き始めていた頃、もくもくと煙が立ち上る。
多分村だろう。どんな村だろうか。できれば、人間がいない村がいいが…。
やがてその村らしきモノに着く。入り口の黒水晶の門を抜ける。
世界中で綺麗なモノだけを集めたような……そんなような村だった。
入り口近くにある噴水の中からキラキラと煌めく水晶の欠片が現れては消えていたり、雲でできた白ウサギが飛び回っていたり、美しいものは沢山あった。逆に、汚い物は存在しないようにも見える。
門をくぐってきた私たちを珍しがるように、遠くから見つめている人々の大半が、白髪で美しい紫色の瞳を持っていた。
「……まさか、ここって。」
長い間黙っていたガルムがやっと口を開いた。
「あの伝説のエルフの里か………?」
「は?なんだそれ」
エルフの里?ンなもん聞いたこともない。そもそも、エルフはほとんど絶滅したんじゃないのか。
「知らないのか。結構知ってる奴多いのに。ドンマイおチビさん」
「悪かったな。で、なんだそれ?」
ガルムが答えようとする前にアルスがペラペラと喋りだした。
「エルフの里ってのは、存在しているのは明らかなのに、何処にも見つからないっていう不思議な場所のことさ。里ではね、堕聖樹を栽培していてその雫がこれまた高く売れるんだ。今でもね、雫を探すついでにエルフを殲滅しようとする貴族の方々が、血眼になって探している場所さ。」
そこで一旦、少年は言葉を切りバカにするような眼差しで、皮肉たっぷりに言った。
「こんなとこも知らないなんて、バカじゃないのか?」
この言葉にはガルムで慣れている私もカチンときた。思わず、アノ事を口走ってしまう。
「あ?黙れガキ。掘られてるんだろ?」
「…………死」
残念、即死魔法には耐性があるローブを着ている。効くわけがない。
「殺戮魔法、絶望魔法、堕天使召喚」
「効かないし、物騒な魔法を使うんじゃねぇ。お前は本当に聖職者かっつーの!」
ふぅ……今月は疲れたな!




