梯子を降りよう!
魔物に与えられた傷に、薬草をペタリと貼り付け上から包帯を巻く。少しの間こうして置いておけば治るだろう。
服を着てガルム達の元へと戻ることにしよう。ハシゴに向かうのは皆が起きたらにする事に決めた。
早く寝よう。明日はいい事が起きそうだ。
浅い眠りを繰り返していたせいか、疲れが全く取れなかった。身体の疲れを癒す事を放棄し周りを見る。メイリンとアルスが寄り添って寝ていて、ガルムがどこにも見当たらない。薬草を外すと、赤と緑が入り混じった液体が肌を伝う。別に大丈夫だろう。
死ぬって程の大怪我でもないし、色が変なだけだし。
昨日の夕飯であえて焼かなかった肉を木串に刺して火でこんがりと焼く。
金と銀の細工が施された硝子の器に、いい香りの香草と甘辛いタレを肉につけるように盛る。
硝子の器はクリュスの村で、羊毛の毛布と一緒に盗……貰った。村の民芸品で、貰っても良さそうな感じで置いてあったので。
メイリンとアルスを叩き起こしたが起きないので諦めて、ガルムを探す。どうせ、その辺で剣の素振りでもしているんだろう。あのバカ野郎の事だし。
少し歩いてみると………ほらいた。
集中しているためか、私の事には気づいてないらしい。
「………素振りばっかりやっていて、よく飽きないな?」
少し呆れたような声色を出すと、彼はやっと気づいたのか振り返る。
「あ、いたんだ。」
「朝食だから早く来い。」
「はいはい……朝食なにー?」
「昨日の肉の余りに、甘辛ダレをかけたヤツ」
「ふーん……うまそー」
久しぶりによく見てみると、子供のような顔をしている。目の下の青黒いクマが、ほんの少しだけ気になる。
「……はい、偉い偉い」
ふと思いついて、背伸びをして頭を撫でてやる。バカにしている訳ではない……多分な。
「え?なに?バカにしてるの?」
「なんでそういう事しか、思い浮かばないんだ。まぁ、バカにしてるのも入ってるけど」
「ふわぁ……おはよ」
寝惚け眼を擦ってるアルスとメイリンに串を一本ずつ渡す。一応、一人二本ずつ焼いてはあるが誰も食べないだろう……と思っていたら、食べてしまった。計算違い。
全員が食べ終わったら竹串を携帯用の皮の袋に入れたり、毛布を畳んで背中の星と青い花が描かれた刺繍袋の中に押し込む。
「なんか変な場所見つけたからそこ行くぞ」
「アイサー」
「りょーかい」
「えー……」
各々違う返事をして、昨日の場所に向かう。
昨日の場所に着く。
重い鉄の扉を開けて、その中に入ろうとするとなぜか止められた。
「だ、だめでスって!」
「この先になにがあるかわかってから行こうな!」
「えー」
2対1で言い合ってると、殆ど喋っていなかったアルスが口を開いた。
「この先に何があるかなんて、誰にも分かんないだろ。この先に女神様がいるかも知れないし、もしかしたら魔界とかに繋がってるかもしれない。だから自分の行きたい場所に行けるようにって、信じていけば大丈夫だろ……ってなに言ったのか分からなくなったな。ていうか、お前怪我してるだろう」
案外お喋りだったアルスはおもむろに私にツカツカと歩み寄り、無理矢理服を脱がせた。
「ほら、腕と腹……毒を持った魔物にでも傷つけられたのか?緑色の斑点が出てきてる」
毒消しの呪文を唱え、回復魔法を唱えてくれた。痛みは少しずつ消えていく。
「……まぁ、とりあえず降りる?」
世界の裏側まで続くような深いハシゴを下り始めた。




