泣き虫娼年
迷いの森を進み続ける。
棘で服が破られ、皮膚が裂けて血が流れ出る。静寂を壊すようにアルスが不安そうに言った。
「お、おい……ここから出れるのか?」
「分からない」
「なっ!?……ぼ、僕は餓死なんて嫌だからな!」
「じゃあ黙って進め」
「分かったよ。ああ、こんな事になるなら大人しく、貴族の屋敷で祈りを捧げていれば良かった………」
「え?貴方は貴族ジャないのでスか?」
「………僕みたいなのが貴族に見えるのか?」
心底嫌そうな顔をした少年アルスは青いローブを着ていて、首には金のロザリオがかけられてる。
「……どちらかというと、修道士に見えるな」
ガルムがちらりと一瞥して言った。
辺りは進むごとに暗く、草木が多くなってきた。
「その通りだ!僕は修道士で、あんな腐りきった貴族のお偉方とは違うんだっ!」
「じゃあ、何で貴族の屋敷に住んでるって言った?」
「……し、暫くの間高い金で買われてたんだよ。」
「そこではどんナ事ヲ?」
「………尻が痛くなる事」
成る程、貴族の家に買われ男同士で性交していたという訳か。これは覚えていた方が面白いかもしれない。
迷いの森の中を進む事数時間。
先ほどから同じ場所を、ぐるぐると回っているようにしか思えなくなってきた。一つ、ナイフを取り出して近くの木に傷をつける。
数分後、先程と同じような景色になってるのに気づいた。同じような葉の形、木の幹の色。
辺りを見渡すと、真新しい刃物か、何かで傷付けられたと見られる木があった。
「なぁ、思ったんだけどさ………」
突然、ガルムが口を開いた。
彼は何でもなさそうに続けて言った。
「この森の中をさっきからぐるぐると回ってないか?」
「木、持ってきてやったよ」
大きさも形も不揃いな木片を投げ捨てるように置く。
「ありがとう。寵児クン」
「……その言い方やめろ」
早速火を起こし、木を投げ入れる。
パチパチと木が爆ぜる音が耳に心地よい。
「……で、今日はどうするつモりなんデすか?」
「野宿ってところかな?」
もうそろそろしたら日が沈む。
日が沈んでからの行動は危険だし、疲れを取った方がいい。
アルスは少し涙目になりながら野宿に反対した。
「……ぼ、僕は嫌だからな!野宿なんて……穢らわしいっ!」
「じゃあ、魔物に喰われるか?」
ガルムがアルスの目をじっと見据えて淡々と冷静に言う。
「今の世の中、少しでも選択を間違えればすぐに死ぬんだ。お前だって、死にたくはないだろ」
「……分かったよ」
少年は首を竦めて嫌々賛成した。




