王宮育ち
ポルテの城は、ラグンの街から三十キロ程度先にある。頑張れば1日で辿りつけるがどう見たって無理だろ。
「そういや、ガルムはどこで育ったんだ?」
「俺?俺はどっかの森の奥だ。メイリンはどこだ?」
ガルムは面倒くさげに言うと、メイリンにも質問を投げかけた。この質問はあまり答えたくなかったように見えた。
「私ハ、生まれはライの国で生マれましたが育ちは王宮デス」
「王宮?あの有名な?」
先程まで面倒くさそうにしていたガルムが驚愕の表情を示した。
「王宮ってなんだ?」
「おま……王宮も知らないのか。」
「知らなくて悪かったな。最初から教えろ。」
「分かったよ。王宮ってのはな、世界中の全ての動物たちのその未来がわかる星の音色を、聴く場所だ。」
星の音色か。そんなもので未来が分かるわけない。
「王宮で暮らせるのは、何千人もの中一握りしか居ないんだよ。」
「王宮ではどんな仕事をするんだ?」
「え、えっとそれはだな………」
「ソレは私が、説明シましょう。」
王宮の中身を知らないガルムに代わり、メイリンが説明を始めた。仕事は大きく分けて二つで、王宮の書庫の管理と星の音色を聴く。それだけだそうだ。それぐらいなら、私にもできそうだ。
「それだけか。簡単そうじゃないか。」
「いえいエ、実際はそんナ事ないんですよ………あ。もう少しで湖畔の宿屋に着きまスよ。」
ラグンで買ったホンモノの世界地図を見て、メイリンは言った。湖畔の宿屋は、窓からの眺めが良いと噂の場所らしい。
宿屋の中に入り、二つ部屋を取る。
一人部屋と二人部屋だ。ガルムのような獣とメイリンを一緒に寝させるわけにはいかない。
部屋に着いていた風呂に入る。濃い青色の花弁が湯に浮いていて、とても綺麗だ。……まぁ、そんな事はどうでもいい。身体を適当に洗い、風呂から出る。続けてメイリンが風呂に入った。
ふと、部屋に置いてあった姿見を見る。
ロウのように白い豊かな毛髪とは、反対に細くやせ細った身体。少しでも力を加えれば折れてしまいそうな華奢な肩。薄い紫色の瞳。
自分の身体は懐かしき日の弟にそっくりだと今更ながら思う。
そして、いつの日か枕の下に仕込んだ、紅い血に染まったナイフは隠さずに済むのだろうか。そんな事も考えた。




