とある青年
弟の訃報を受けてから、数週間が過ぎた。
此奴らは私に飽きず、毎日のようにこの場所に来て溜まりに溜まった性欲を発散する。
顔を殴り口を強引に開かせ性器を突っ込む。ヤるだけヤったら、汗と精液と泥でドロドロの私を放置して何事もなかったかのような顔して仕事に戻っていった。
虚ろな目に映るエサを貪り、身体にこびりついた精液を落として寒さから逃れるように一枚の擦り切れた布を身体に巻きつけて絶望の明日を望む。
筈だった。
一人の青年が訪れた。ぼうっと浮かび上がるほのかな灯りで艶めく白髪に茶色の髪が混ざってる若者。
十字架の刺繍が施され、修道服を模したような制服の雑兵とは違い、白を基調とした服に洒落た金ボタンが美しい、濃紺の上着を羽織っている。
青年は私の前で立ち止まり、見下す。
「………おい。お前」
「何だ、ガキが」
私よりも年若い奴に、お前などと呼ばれたくはない。いつもなら罵倒の言葉程度なら心の中に留めておけるのだが、何故だか今回だけは声に出てしまった。
「お前みたいなガキよりも、私は長い時を生きているんだ。『お前』呼ばわりするな。」
「………よく喋るエルフだな。その舌を斬り刻んで、犬の餌にしても良いのだぞ。」
「ご自由に、どうぞ。」
一瞬返答に後悔したが、直ぐにどうでも良くなる。もう全てなくなって仕舞えばいいのに。
「…………そうか。まぁ、そんな事はどうだっていい。」
開け放した格子の扉がキイっと音を立てて揺れた。こんな場所、逃げようと思えばいつでも逃げられた。
逃げなかった理由なんて、自分一人で逃げる事が嫌で、何よりも魔力を抑制する足枷が邪魔だった。それだけ。
なおも私を見下し続ける男の切れ長の蠱惑的な瞳は、紫色に妖しく揺らめいている。
少しの間、その揺らめきに心を奪われる。
「……ここから出たいか、出たくないか。どっちか選べ。」
青年は妙な問い掛けをする。私の半身でもある弟がいないなら、もう呼吸をする必要なんてない。
「そんなの、分かりきっているだろう。アイツはもうこの世には存在しないんだ。………希望も何もない世界に出て行ったってもう……。」
「じゃあ、お前が希望を作れ。」
「……………え?」
一瞬、そいつが何を言っているのか分からなかった。唖然としている私に構わず、淡々と話を進めていく。
「この世界に、虐げられし種族達にお前が希望をもたらせ。………そう、言っているんだ。」
青年は毅然たる口調で言う。私を見つめるその瞳に偽りなど存在しなかった。