ニセモノさん
「だーっ!全く見つからない!」
一人ずつ分かれ、一時間近く探し回っても、商人は見つからない。嫌がらせのように感じる。
日が暮れてきた事だし、今日は諦めて女の家に帰ろうとしたその時だった。
「あっ!!」
ターバンを巻いた色黒の男がのんびりと歩いてる。間違いなく、女が言っていた商人だ。
「おい!そこの商人!待て!」
聖櫃の剣の情報はどうだっていいが、こいつなら何か、他の情報を持ってるに違いない。商人はビクッとして逃げ出した。急いで追いかける。
はやく、はやく、足を動かす。空を飛ぶように軽やかに走る。いつまでたっても商人は捕まらない。
「おい!いい加減に止まれ!」
「ふぅっ…ふぅっ……!」
息を切らしてはいるが、案外体力があるようだ。最早私の体力はほとんどゼロに近いが。こういう態度を取っていられるのもあと少しだろう。
「……はぁっ……はぁ」
もう無理だ。走れない。道の端っこに座り込む。目の前がもやがかかっていて見えにくい。
苦しい。初めて喉に陰茎を突っこまれたあの時のように。立ち上がろうとすると、地面と空が反対になり倒れてしまった。立ち上がろうにも立ち上がれない。意識が遠のく。
「大丈夫ですカ?」
よく見えない目を凝らして声をかけてきた相手を見る。赤い身体にぴったりと張り付いた服だが所々切れていたりしてる………そして、否が応でも目に入ってしまうムチムチの体。
「こういう時は薬汁を……」
濃い緑の汁が入った植物の筒を何処からか取り出した。赤い服はそれを私にゆっくりと飲ませてきた。
少しすると意識がはっきりとしてきた。薬汁が効いたのだろうか。助けてくれた人間を見る。
その顔は、先ほどの旅の女にそっくりだった。
「大丈夫ですカ?……立てます?」
「お前、さっきの奴?」
「?いイえ?あなたとは今あったバカりですけど……。」
「ならあの聖櫃の剣を探していた女は……」
聖櫃の剣って言葉が出ると、そいつはピクッと反応した。そして、女は私の肩を掴み顔を近づけた。
「まさか、あいつを見たのですカ!?」
「あいつ?」
「私に化けた魔物デス!あいつは私を襲い聖櫃の盾の書を盗んで行ったのです!」
「聖櫃の盾の書?」
何なんだろうか。それは。こちらから聞く前に向こうが答えてくれた。
「聖櫃の剣と一対になっている盾、それの作り方を書いてある書デす!聖櫃の剣は盾がないと本来の力を発揮できないノです」
「聖櫃の盾か。」
新たな情報が手に入った。少し考えて、女の手を握り走り出した。
迷路のような街を走り回って、武闘家の女と同じ服を着ている女がいた。これがニセモノである。
「炎魔法!」
大粒の雫型の炎が、ニセモノの背中を直撃する。
「あちぃっ!!オイてめぇ、なにすんでぇっ!」
可愛らしい顔をしたニセモノの皮膚は見る見るうちに緑色に変わっていってる。
「聖櫃の盾の書を返せ。つかよこせ」
聖櫃の盾は剣がなくても使えるらしいし、手に入れておいて、損は無い。
「お、お前のものじゃないだろ!?」
「お前のものは私のもの、私のものは私のもの」
これが私のルールだ。どこかで聞いたことあるのは気のせい。
「出さないなら、魔法でこんがりと焼いてやるよ」
桜樹の杖からは桜の花びらの形状をした炎がニセモノの頭に降り注ぐ。




