ムチムチ女
「…………酷い所だな」
「ああ。」
ラグンの街は酷い所だった。
どうやらほかの街で追われるような、ならず者さえも受け入れるため、治安が非常に悪い。
それに、ならず者が多いと同時に貧しい人間も多いようで、屋根のある場所で寝ることができるだけでそこそこ裕福なほうらしい。私たちも二三回ほど、物を盗られた。もちろん奪い返したが。
街を回ってる時、目の前に一人の行倒れが現れた。
いかにも助けてほしそうに嗚咽を漏らしている。ガルムの腕を引き、スタスタと無視して歩く。
「あノ……!」
か細いが柔らかい声が足元から聞こえる。先に行こうにも足を捕まれちゃ、進めない。
「……なんだ?」
「何か食べ物をくださイ」
妙にキリッとして言われた。
こんなのにあげる食べ物なんてない。いや、一つだけあった。食料袋の中にしまっておいた、程よく焼いた一角ウサギの肉を渡す。
倒れていた奴は、肉を見ると眼を輝かせ奪い取り、瞬く間に食べ終えた。どうやら女らしい。
「……コ、こんな美味しい物ありがとっ!」
「そう、一角ウサギの肉は美味かったか」
「え?一角ウサギって……」
「魔物」
街に絶叫が響き渡った。よく分からん。
「で、落ち着いたか?」
ガルムが安心させるような言葉を吐き出しながら、そいつに水を飲ませる。
「は、はイ……ナントカ」
「………貴様は何者だ?」
「わ、私は旅の格闘家でス。結構前に辿り着いて、物を盗られてから満足に食えず……」
「ほう、格闘家」
格闘家は戦士に次ぐ力の持ち主で、多彩で攻撃力の高い特技を主力にして戦う職だ。もし仲間になるならこういうのがいいなと、一瞬思ってしまった。
「ここの街に来たのハ、伝説の聖櫃の剣があると聞いて……!」
聖櫃の剣。知る人は少ないと思っていたが案外いるようだ。
(なぁ、聖櫃の剣はここにあるのか?)
ガルムが耳元で囁いてきた。すぐに囁き返す。
(あるわけないだろ。伝説の剣なら、魔力を放ってるもんだし大体こんなきったない所にあるわけねぇだろ。)
(それもそうだな。)
「あの、一緒に探してくれマせんでしょうか?」
むちむちとした身体の女が、妙に明るい声で言った。どうせある訳ないが、一応探してやろう。
「とりあエず、私の住処に移動しましョ?」
ムチムチ女の部屋に場所を変えた。
「で、あんたが探してる聖櫃の剣ってのはどこにあるんだ?」
女が持っている情報を聞き出すだけ聞き出そう。
彼女は人差し指をピンと立てて言った。
「この街にいる商人が持ってるト聞いたことがありマす」
「商人か……どう見ても、この小汚い場所にいるようには見えないな」
薄い木の板で代用された壁を見ていった。
商人はとある場所の奥の部屋にいるらしい。
他にも情報も手に入るかもしれないから、本格的に手伝うことにした。




