トロル
「ぷはぁっ!」
頭を抑えていた手が離された。顔をあげて、ニヤニヤと笑っているゴミを睨みつける。
「何してくれてんだ……?」
「え〜?ただ俺はゴミかなんかと間違えてしまっただけですが?」
「くっ……!ムカつく」
「へへっ!お返しだ」
さらにムカつくことを言いやがる。ガルムを置いて、器の先にある階段を降りる。
階段を降りた先には小さな祭壇があった。
黒い絹のような布をかけられてあり、錆びかけてる鉄鍵がちょこんと乗っている。
「あの鍵か。さっさと取って帰るか……」
つかつかと歩み寄り、鍵を掴み取る。そういえばガルムはまだ来ないのか?
「だぁれだぁ?俺様の宝を盗むのわぁ」
突然祭壇の後ろから、大きな顔を覗かせた。トロルと言っても子供でほんの3メートル程の大きさしかない。
イボだらけの鼻に濁った目玉、ひん曲がった口をしている。肌の色は茶色だ。
「俺様の鍵を盗んだ奴はゆるさねぇぞぉ!」
いきなり棍棒で殴りつけてくる。咄嗟に避けたため当たらなかったが、棍棒が当たった地面が割れた。食らったらあぶない。
「おい、どうした!?」
地面が割れる音を聞いてかガルムが走ってきた。
「遅い。手伝え」
ナイフを投げて渡す。
「鬼神よ、彼に力を与えろ。攻撃増量魔法」
ガルムに力を少しの間増やす魔法を唱える。ついでに
「守護神よ、彼に貴方の守りを。守備増量魔法」
身体の守りを増やす魔法もかける。これで大丈夫だ。安心しきっていたその時、何かが腹に当たった。遅れて腹に鈍い痛みが走る。
太く丸い棘が突き出てる棍棒。それが腹にめり込んでいた。
「がはっ……ぁ…!」
補助魔法に夢中で、敵の攻撃を考えていなかった……。妙に冴えてる頭で、ここから立ち直るにはどうすれば良いかと考えた。
「サリアぁっ!?」
ガルムが走り寄ってきた。来ないでほしい。来たら、貴方にまで攻撃が及ぶ。
「………!おい、うし……ろ」
ガルムの後ろに棍棒が迫ってきてる。ガルムは気づいていない。
「え?」
「後ろ……棍棒」
………私の有難い言葉も虚しく、彼は棍棒で吹っ飛ばされた。案外柔らかいんだなとぼんやりとした感想しか出てこない。
残念ながら、私は回復呪文はあまり得意ではない。それに、補助魔法の所為で魔力も尽きかけてる。補助魔法はかなりの魔力を消耗する。
「まぁ、あれくらいなら、大丈夫だろう。」
先日、森の中で摘んだ薬草。それを口の中に放り込む。少しすると腹の痛みが消えた。
立ち上がり、トロルに気づかれないように足音を立てずにガルムの元へ走る。
「……おい飲め。」
倒れているガルムの口に無理やり薬草を詰め込む。トロルは消えた私達を探して辺りを見回している。
「?サリア……」
「立てるか?」
「あ、ああ……」
ガルムの手を取り、立たせる。
「戦えるか?無理なら私一人でやるが…………」
「あ?ガキンチョに見せ場取られちゃこっちの面子ってもんがないんだよ………。」
「ガキじゃねぇ、大人だ。ボケ」
「あーあー、そうですか……おチビさん」
どうやら、薬草はまだ効いてこないようで、フラフラとしている。ガルムはナイフを構えた。それにしても、さっきまで手足や顔にあった傷が全て消えているのは何故だろう。薬草のおかげだろうか。
こちらに気づき突っ込んでくるトロルの、心臓部分を思いきり突き刺し、下に割く。
血と内臓がガルムに降りかかる。
「……こんど武器とか新調しようか。これ使いにくい」
「ああ、そうだな。つかお前臭いしきたねぇ。私の半径1キロ以内に入るな」
「はぁ?……ヤダね」
船着場に戻り、忘れずに持ってきた鉄鍵と金を交換した。ガルムの姿を見て驚いてる人々の目に気づき、ガルムは温泉に向かった。
私は傷は治ったので、武器屋に向かった。
武器屋にはそれなりにいい武器が揃っていた。忘れ去られたように壁に立てかけてある剣に、不思議な魅力を感じたため購入。それと、魔法が使いやすいようにと、優美な曲線を描いた桜樹の杖も購入。それにしても、昔は武器屋と防具屋は一緒だったのにな。
次に防具屋で、旅人の服を二着買う。
この買い物で、金は早くも残り少なくなった。




