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不機嫌な乙女と王都の騎士  作者: 黒辺あゆみ
番外編 ルドルファン王国訪問記

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その2

ルドルファン王国へは、移動の魔法陣を使って向かうことになった。国の威信をかけた行事には金を惜しまないらしい。

 移動の魔法陣で国境のベラルダまで行き、そこからルドルファン王国に入ると、また移動の魔法陣で王都へ向かう。そうして辿りついた先に、待ち構えている人物の姿があった。

「いらっしゃーい!」

「よく来たな」

魔法陣の前で出迎えたのは、魔法使いアリサとルドルファン王国の王太子オルディアだった。

「ミィもちゃんといる!」

目を輝かせるアリサに、ミィがパレットの後ろに隠れる。相変わらずアリサが苦手なようだ。

「おや、ずいぶんと豪華なお出迎えだ」

王太子のいきなりの登場にオルレイン導師は動じていないが、ガーランドなどの同行している他の者らが驚いている。それは無理もないことで、魔法陣を渡った先に王太子がいるとは普通思わない。


 ――こういうのって、役人の仕事じゃないかしら。

 オルディアは相変わらずどこへでも出向く王子様である。

「ねー、なんか面白いお土産とかある?」

ものすごく正直に聞いてくるアリサに、またもや他の者らが驚いている。相変わらずの自由人ぶりだが、これはこの国での標準なのか、それとも特殊な例なのかが知りたいところだ。

 パレットは苦笑しつつも答えた。

「キールヴィス殿下から土産を預かっています。ソーブの実の摘みたてだそうですよ」

ソルディング領での試験農場で栽培されているソーブが、新しい実をつけたらしく、それをぜひ聖女様へ持って行って欲しいと頼まれたのだ。マトワール王国側としても、新たな特産品として周知を図る機会である。


「ああ、アヤの言っていた『新ソバ』という奴か」

オルディアにはキールヴィスの寄越した土産に心当たりがあったらしい。マトワール王国内でもさほど知られていないソーブの実を、聖女様は楽しみにしているそうだ。言ってはなんだがあんな地味な見た目の食べ物を、よく聖女様は美味しく食べようと思ったものである。

「食べ物の美味しさに拘るよね、アヤって」

アリサ曰く、聖女様は食べ物にうるさいお人のようだ。

「キールヴィス殿下も商品開発に努力されているようで、ソルディアの街には色々お店が出ているそうですよ」

パレットは最近届いたジェームスの手紙に書いてあったことを教える。最初は貧しい農民の食べ物だと馬鹿にしていた連中も、聖女様の名前の前にはなにも言えなくなっていったらしい。

「次に行く楽しみができたね!」

「うむ、早く時間を作ろう」

オルディアたちが楽しそうに話しているが、ちゃんと王様の許可をとってから出てきてくれれば問題ないだろう。


 そんな雑談をしながら移動し、向かう先は謁見の間だ。使者がまず行うのは、王様との謁見である。自国の王様とだって顔を合わせることなどめったにないというのに、他国の王様に会うとは緊張する。けれど王子様は見慣れてしまっているというのが不思議な気もする。

 到着した謁見の間の扉前で出迎えたのは、銀髪を軽く結わえた美しい男性だった。もっと説明するならオルディアと顔かたちがそっくりで、ちょっと渋みを足したらこうなるという例を見ているようだ。

 ――オルディア様の御身内でしょうね、つまりは王族か。

 この国の王族の数は少ないと聞いているし、恐らくこの男性が宰相なのだろう。おかしな失敗をしないように、パレットは気持ちを引き締める。


「ちゃんと連れてきたな」

冷ややかな声音を発した宰相に、反応したのはアリサだった。

「このくらいのお使いで、迷ったりしないし」

「余計なことをしなかっただろうな、という意味だ馬鹿者」

宰相の手厳しい言い方に、アリサはぷうっと頬を膨らませる。

「ぶー! お師匠様ってば信用ない!」

仲のよさそうな会話に、パレットは脱力する。王族を前に構えた自分の緊張感を返して欲しい。

 この国の宰相は優秀な魔法士でもあると聞く。「お師匠様」という言い方からすると、アリサは宰相に師事したのだろう。となるとオルレイン導師との交流も、魔法談義に違いない。

「お久しぶりです、イクスファード様」

挨拶を述べるオルレイン導師に、宰相は軽く頷く。

「オルレイン殿も健在そうで、なによりだ」


そして宰相の視線は、パレットの横にいるミィに向けられた。

「それが魔獣ガレースか、初めて見るな」

「うみゃ!」

ミィが挨拶代わりに鳴いて、尻尾を振って見せる。

「賢いんだよー、人の言うことがわかってるみたいだし!」

何故かアリサが自慢げに説明する。

「人に育てられた魔獣と聞いているが、実に興味深い」

研究者の顔になった宰相だったが、扉を守る騎士から謁見の間に入るように促されたので、おしゃべりはそこで中断となった。


 ルドルファン王国の王様は、マトワール王国の王様と同じくらいの年頃の男性だった。ただ、こちらの方が活力がみなぎっているというか、元気がありそうな印象である。マトワール王国の王様は、どちらかというと大人しい性格なのだ。

 仰々しい挨拶を交わした後、先だってのルドルファン王国の罪人の越境についての詫びを述べられた。

 ――これが、余裕のある国なのかしらね。

 絶対に謝らないマトワール貴族を普段から見ているだけに、あっさりと詫びを口にした王様に、パレットは驚く。

「ルドルファンとマトワールは、今後も良き隣人であることを望む」

「しかと、帰って陛下に伝えます」

謁見を無事に終えると、移動の疲れもあるだろうということで、今日は王城に用意されている部屋で休むこととなった。


 しかし他の面々と違い、パレットとジーンは引き留められる。

「君たちはこちらではない」

案内役の騎士にそのように言われた。庶民であるパレットたちを、王城に泊まらせることはできないということだろうか。そのようにも受け取られる発言に、オルレイン導師まで眉をひそめる。

 そのピリッとした空気を察した騎士が、慌てて言い直す。

「君たちとぜひ話をしたいと、アヤ様が仰せなのだ。なので二人には宰相閣下のお屋敷に滞在してもらうことになっている」

 ――アヤ様って、聖女様が!?

 邪険にされたのかと思いきや、思いもよらぬ展開である。


「それは羨ましい。聖女様は導き手である聖獣様と暮らしておられるとか。私もそのお二方にお目にかかりたいものだ」

宰相の屋敷へ滞在するらしいパレットたちを、オルレイン導師が本気で羨む。

 ――聖獣様、間近で見られるかも!

 夢が思わぬ形で叶いそうになり、パレットは目を輝かせる。

「パレット、顔、顔」

隣でジーンが小声で言ってくる。どうやら嬉しさのあまりに顔が緩んでいるようで、慌てて表情を引き締める。

「了解しました」

真面目な声で返事をしたパレットに、騎士が微笑ましいものを見た顔をしていた。

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