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不機嫌な乙女と王都の騎士  作者: 黒辺あゆみ
五章 ソルディング領

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36話 お屋敷の小さな客人

「行くぞー!」

「あ、そっちは危ないったら!」

「あはは……!」

複数の子供の声が聞こえたので、パレットは寝ぼけ眼を擦りつつ、布団から起き上がった。ミィはすでに散歩に出ており、ベッドの上にあの毛皮の温もりはない。

 ――どうして、子供の声が?

 この屋敷で最も年少なのはアニタだ。だが声はアニタのものだけではない。謎に思いながらも、パレットはベッドからもぞもぞと抜け出した。

 パレットは昨日、急ぎの仕事が終わらせるため、遅くまで管理室で頑張った。そして夜も更けた頃に帰ることとなり、夜道は危険だということで室長直々に送ってもらった。パレットが帰った頃には台所の火はもう消えており、誰もいない台所にあった夕食の残り物を軽くつまむと、すぐに寝てしまった。それから一夜明けた本日は休日のため、朝食を断って朝寝坊をしていたというわけだ。


 パレットは寝間着から着替えると、この屋敷では遅い朝食を貰いに、台所へと向かった。

 台所では、マリーが一人で片づけをしていた。

「おはようございます」

パレットが声をかけると、マリーは振り向いて笑顔を浮かべる。

「おはようパレット、ここで食べて行くかい?」

「はい、お願いします」

パレットは台所の片隅にあるテーブルに朝食を並べてもらうと、マリーの片付けの邪魔にならないように、それを手早く食べる。最後にお茶を飲んでいる時、パレットは起きるきっかけのことを思い出した。

「そういえばマリーさん、子供の声が聞こえたのですが。どこの子供ですか?」

パレットがそう尋ねると、マリーは皿洗いの手を止めた。

「ああ、うるさかったかい? 近所の子が遊びに来ているんだよ」


この言葉に、パレットは首を傾げる。この屋敷の近所は全て貴族家のはずで、遊びに来るような気軽な相手ではない。眉間に皺を寄せるパレットに、マリーが苦笑する。

「ほら、アンタに贈り物をしてくる家の子供さ」

「……私に、ですか? 確かに室長のご家族から、今でもたまにお菓子をいただいていますが」

説明を受けてもまだわからないパレットに、マリーが話したことによると。パレットに贈り物を届けにきた使いの人に、いつか子供が付いてきたのだと言う。その際に大人同士で話している間、暇そうにしていた子供をアニタが遊んであげたのだとか。

「それ以来、この屋敷を気に入ったのかねぇ。たまにああして、遊びに来るんだよ。だんだんと仲間を連れて来るようになって、今ではにぎやかなもんさ」

「……知りませんでした」

あっけらかんと話すマリーに、パレットは呆然とする。話の流れからすると、子供たちの親は管理室の者だ。だとすると、子供がやって来るのはパレットの責任だ。


「ご迷惑ならば、上司に言ってみますが」

神妙に申し出たパレットに、マリーはからりと笑った。

「ああ、いいよそんなの。迷惑料にって、子供と一緒にちゃんと茶菓子が来てるから」

子供の家から、本人たちが飲み食いするためのお菓子やお茶の葉を多めに貰うそうである。貴族の客など来ない平民の家に、貴族を持て成すための茶葉がない可能性を考えたのだろう。おかげで出費が嵩むということもないし、最近このお屋敷で使うお茶の葉が高級になったのだとか。

「見張りの大人もちゃんと一緒に来てるしね、子供が走り回るくらい問題ないさ。私もちょっとだけ、付いてきた人に話を聞いたんだけどね。貴族の子供っていうのも、遊び相手を探すのが大変らしいんだよ」

「……そうでしょうね」


派閥を考慮して遊び相手を選ばなければならないのは、なにも王子に限ったことではない。下級貴族こそが、相手を厳選せねば、共倒れになりかねないのだから。

「その点うちの子は貴族じゃないからね。なにも心配いらないってわけさ」

それにこの屋敷は、他の貴族家では入れないような場所にも入れる。貴族の場合、台所や納屋などの使用人が使う場所には、近寄ることもないのだそうだ。なので仕事の邪魔さえしなければ遮られないこの屋敷は、探検するにはもってこいなのだとか。そのようなマリーの説明に、パレットもなるほどと納得する。

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