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不機嫌な乙女と王都の騎士  作者: 黒辺あゆみ
二章 王都トルデリア

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11話 王都へ

パレットは王都トルデリアまで半月の道のりを、乗り合い馬車に乗って旅をした。

 ミィは本当にパレットについて来た。乗り合い馬車の他の乗客に可愛がられたり、パレットのバッグに入り込んで昼寝をしたり、馬車の屋根の上に乗ったりと、ミィは気ままに過ごしていた。おかげで基本人嫌いで愛想というものがないパレットも、他の乗客と打ち解けることができた。ミィ効果である。中でも母親と一緒に乗っていた八歳くらいの女の子が、ミィを気に入ったようでずっと遊んでいた。

 乗り合い馬車の旅をそんな風に過ごしていたが、とうとう王都へ到着した。

 もうすぐ昼になろうという時間に、乗り合い馬車は王都の正門前の馬車停まりで止まった。乗客はここで降りて、正門の通行検査を受けなければならない。王都は出るのは簡単だが、入るのは厳しいのだ。


「にゃんちゃん、ばいばい」

一緒に乗り合い馬車に乗っていた小さな女の子が、ミィに向かって手を振る。女の子に尻尾を振って見せるミィを見て、パレットは微笑ましい気持ちになった。

 ――私が王都を出たのは、あの子よりも少し大きかったけど

 女の子と自分を比べて、あれから年月が経ったのだと実感させられたのだ。パレットは女の子とミィのおかげで、王都へ向かうという緊張感から解放された気がする。自分一人だったならば、ぐるぐると考え事をしていたことだろう。

 王都へ入るための通行検査は、長蛇の列を作っていた。パレットもおとなしくその列に並ぶ。

「ミィ、踏まれちゃうから入っててね」

「みぃ」

行きかう人々に踏まれないように、パレットはミィをバッグに入れた。


 王都へ入るには、通行証を見せるか通行料を支払うかをしなければならない。通行証は国が管理しており、通行料もマトワール王国通貨で大銀貨一枚と決して安くはない。ちなみに大銀貨一枚あれば、庶民一人が一カ月食べられる。この厳しい検査が王都の治安を守っていると聞いている。

 ――王都の騎士様がお飾り集団なら、出入りを規制しなきゃ治安は守れないわよね

 パレットは以前、ジーンから聞き及んだ話を思い出して納得する。王都の守護のための大きな戦力が、実質見掛け倒しなのだ。だったら犯罪に発展しそうなものを、王都へ入れないことに意識がいくのも無理はない。

 パレットはぬるい視線を正門に向けて、列が進むのを待っていた。そしてパレットの順番が回ってきたのは、昼を少し過ぎた頃だった。

「通行証は」

「これです」

パレットが領主様からもらった通行証を見せると、兵士が誰かに連絡を入れた。


 ――なんだろう?

 通行証に不備でもあったのだろうか。パレットが眉をひそめていると、立派な身なりの兵士が出てきた。まとめ役の兵士だろうか。

「アカレアの領主の使者殿ですね?すぐに王城へ向かっていただきます」

「え、私まだ宿も決めてないので」

荷物を預けて、ミィを散歩に出してと、王城に向かう前にいろいろと準備をしなければならない。パレットがそう考えていると。

「いえ、ここから王城まで直行していただくことになります」

「はい?」

兵士の言葉にパレットは眉間に力が入る。

 ――そんな、急に?

 戸惑うパレットがそれから押し問答をするも、

「王城からの命令です」

と兵士は返すばかり。

 ――わたし、旅で汚れたままなんだけど

 せめて宿に行って湯を使わせてもらうくらいはしたい。パレットがそう主張するも、

「命令ですから」

の一言で却下された。事態は進行せず、パレットの意見は聞き入れられそうにない。仕方なくパレットは用意された馬車に乗り、王城に行くことになった。


「なんでこうなったんだろう」

一人馬車に乗ったパレットは、大きなため息をついた。王城からの指名があったと聞いている。しかし、それがにわかに怪しく思えてきた。

 ――ひょっとしてこれ、出頭命令だったんじゃないの?

 思えば二カ月半前のあの仕事も、ジーンから秘密の仕事なのだと聞かされた。パレットはその時聞いた話の内容を、上司や領主様にも、他の誰にもしゃべってはいない。しかし王城側はそれを信用できなかったのではないだろうか。ジーンが王城にどういった報告をしたのか、パレットにはわからない。しかし可能性はある。

 ――だとしたら恨むわよジーン!

「みぃ?」

パレットがゴトゴトゆられる馬車の中で一人不安に駆られていると、ミィがバックから出てきた。パレットの様子を察したわけではないだろうが、すり寄るようにして甘えてくる。とたんに、パレットの不安な気持ちが霧散する。

 ――今から心配しても、仕方ないわよね

 それにもしかすると、月の花の蜜の採取に貢献したことに対する、お礼の話かもしれない。悪い方に考えるのはやめよう、とパレットは気分を変えた。すり寄るミィを、パレットは抱き上げる。

「王城に着いたら退屈でしょうから、ミィは散歩に行っておいで」

そして自分の代わりに王城見学をしてほしい。パレットはミィの背中を撫でた。


 そんな様子の一人と一匹を乗せた馬車は、まもなくすると王城に到着した。馬車の窓越しに、パレットは王城を見上げる。

「綺麗ね……」

パレットが王都を出たのは十年前であり、その頃も毎日見ていたはずだ。しかし改めて見上げる王城は、白い壁が日の光を反射して輝いており、高い尖塔が等間隔で建てられている様子はとても優美だ。近隣の国のものと比べても、美しい建物であるという自慢を、パレットは昔聞いたことがある。

 ――でも美しいっていう評判は、騎士様を思い出すわね

 王城の美しさを素直に感嘆できないパレットはため息をついた。

 馬車が止まるとパレットは下ろされ、そこで待っていた文官らしき人物に引き渡された。

「あの、私はアカレアの街の領主様より命じられて……」

「知っている。黙ってついて来なさい」

自己紹介をしようとしたパレットを、文官は黙らせた。パレットは言われた通り、黙って文官の後をついて行く。「どこに行くんですか?」という簡単な質問すらできず、ただ無言で歩くばかりのパレットの脳裏を、「出頭命令」という言葉が過ぎる。


 ――だって、歓迎する雰囲気じゃないわ

 先に宿に行って旅の荷物をおろせなかったため、パレットはそれらを抱えて廊下を歩く。その姿は目立つのか、通りかかる王城勤めの人々が、ひそひそ話ながらすれ違っていく。まさしく針のむしろだ。

 だったらせめてミィだけでも逃がそうと、パレットは王城の庭園の横を通る際、前を行く文官が振り返らないのを確認して、ミィを庭園に向かって放り投げた。ミィは器用に空中で一回転すると、華麗に着地を決めて見せた。こちらを振り向くミィに、パレットは身振り手振りで散歩を促した。

 ――もし私になにかあっても、強く生きるのよミィ

 そんな思いを込めてミィの後ろ姿を見送っていると、ミィはこちらを気にすることもなく、元気よく駆けて行く。猫は気ままな生き物だ。案外この庭園を気に入って、住み着くかもしれない。


 これで心残りがなくなったパレットは、ミィを放したことに気付きもしない文官に大人しく付いていく。こうして静かに王城の廊下を進んでいくと、一人の騎士とすれ違った。パレットは自分の今後を考えることに精いっぱいで、騎士の姿をよく確認していなかった。しかし騎士は違った。

「パレット?」

聞き覚えのある声に、パレットはそちらを向いた。そこにいた騎士は、プラチナブロンドを短く切りそろえ、秀麗な面立ちをした緑の瞳の男であった。

「……ジーン?」

パレットの視線の先で、ジーンが驚いた顔をしていた。

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