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報道

作者: 伊坂倉葉

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 Aは電車に乗っていた。

 ごとんごとんと五月蝿く響く車輪の音も、全く気にならない。彼には、それ以上の注目すべきことがあった。

 今日は待ちに待った記者会見が有るのだ。Aはジャーナリストだった。鞄の中をあさくる。

 「カメラ、よし。メモ帳、よし。レコーダー、よし。…その他諸々、よし」

 「やあやあ、中々と準備が宜しいようで」

 そんなAに、横に座った男から声がかけられる。ぽっちゃりとしたこの男は、B氏。テレビ局のリポーターだ。

 「これは、Bさん。気付きませんでした。やはり記者会見に?」

 「いえ、私は別の取材に行きます。乗り合わせたのは単なる偶然でしょう。電車に入ったら貴方がいたもので」

 「そうですか。や、それにしても遂に暴かれますな、先日、宇宙から落ちてきたという物体の謎」

 「ええ、わが局も別の人材を派遣しているでしょう。私もかなり注目しているニュースなので、どきどきです」

軈て、電車が駅に入る。

 「着きました。それでは」

 「おや、私もこの駅です。これまた奇遇ですな」

 「Bさんはこっち方面ですか?」

 「いえ、あっちです。ここでお別れですね。それでは」

 「あ、最後に。何で取材に行くんですか?」

 「ドキュメンタリー番組です」


………………


 「まったく。うちの社は貧しいからって車の一台も出さないんだから。参ったよ」

 Aはぐちぐちと言いながら準備を進めていた。かなりの場所を他社や他局に取られていて、かなり後ろの机に座らざるを得なくなったのだ。

 「おや、あれはB氏…?やっぱりこの記者会見に来ているじゃないか」

 顔を上げると、B氏が数人のスタッフと共に記者会見の会場のかなり前の方の隅で三脚にビデオカメラを載せているところだった。

 なんだい、と思うが、すぐにどうでもいいか、と思った。よく考えれば、B氏がどんな行動を取ろうと、知ったことではない。


………………


 「記者会見を始めます」

 会場に調査隊隊長のしんとした声が響き渡る。

会場もつられて、しんとなる。Aもその例外ではなかった。

「では、調査結果を公表します。あれは宇宙から落ちてきた物体ではありません。あれはただ単に、何らかの機械の破損片です」

会場がどよめく。それはそうだ。360度どこからみても地球上の物質とは思えない程美しい虹色をしていた。しかも、それが煌めくように動いていたのだ。

少なくとも発見時に民間人が撮った動画ではそうだ。

 それにあれは、宇宙から落ちてきたのだ。それもきちんと動画がある。

ここで、Aは違和感を感じた。

それは記者会見に対してもそうだが、B氏の元で回っているカメラを見たときに感じたのだ。

 「質問です。調査…」

 「この時点でお答え出来ることは他にありません」

 誰かが質問しようとして、ばっさりと切り捨てられた。なんて強引な記者会見なんだ。


 ここはジャーナリストの力を見せてやる。何としてでも吐かせるぞ。


 それは会場にいる誰もがそう感じたようだ。

 次の瞬間、会場は喧騒の嵐と化していた。だが、まったく口を割ろうとしない調査隊メンバー。凛とした『出来る人』フェイスを崩そうとしない。

 「質問です!あの物質は…」

「ですから、現時点でお答え出来ることは有りません」

「なんだそれは!ちゃんと調べたのか!」

会場は荒れに荒れている。Aも質問しようとしたとき、ちょいちょいと肩を叩かれた。

「何ですか、Bさん。貴方も質問しましょうよ」

「ですから、こうして質問しているのです」

B氏は胸ポケットからメモ帳を取り出した。

「えーまず。今のお気持ちは?」


Fin.

こういう形式では一作目です。

時々出しますのでよろしくお願いします。

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