サンタクロースの贈り物
「欲しい物を言ってごらん」
クリスマスの日の夜。白く長い髭を生やした老人が少女に言った。少女は何も言わずに首を横に振ってこう言った。
「おじさんには無理だよ」
老人は表情を先ほどと変わらない笑顔のまま、言葉を返す。
「ははっ、これは手厳しいね。でも、言うだけでも言ってごらん? 言わなければ叶う夢も叶わなくなってしまうよ」
少女は俯き小さな声で呟いた。
「……お父さん」
この言葉を聞いた老人は困った。なぜなら、少女には両親ともに居るからだ。今も別の部屋で仲睦まじく眠っている。少女はそんな老人の顔を見て、言葉を続ける。
「……今のお父さんは本当のお父さんじゃないの。私の本当のお父さんは一昨年交通事後で死んじゃったの」
そして少女は「ね、言ったでしょ?」と老人を見上げた。それでも老人の顔は変わらずに笑顔だった。少女は不思議そうな顔をする。そして老人は嬉しそうな顔で口を開く。
「お安い御用だよ、お嬢ちゃん。だって……」
そう言って老人は少女の後ろを指差した。少女は老人の指が示す先に居る人物を見て驚愕する。そこには、一昨年亡くなったはずの少女の本当の父が居たからである。
「お、とうさん……?」
少女は涙を流して父の名を読んだ。すると少女の父は腕を大きく開いた。「おいで」と言って少女を呼んだ。少女は父の胸に飛び込んだ。
「お父さん……お父さん……!!」
少女はありったけの涙を流した。父が死んだあの日から、一度も流す事の無かった涙を全て。そして少女が泣き止んだ頃に、老人が少女に声をかける。
「……お嬢ちゃん。君のお父さんはもう戻ってこない。それは君も本当はわかっているんだろう?」
少女は父の腕の中で小さく頷く。
「お父さんは戻ってこない。でもね……これがお父さんとのお別れって言うのも少し違うんだ」
この言葉で少女は老人の方に顔を向けた。
「今までだって……これからだって……お父さんは君の近くで君やお母さん、それに今のお父さんの事を見守ってくれるんだから」
少女はこの言葉を聞いて嬉しそうに微笑んだ。老人も満面の笑みで返して、更に言葉を続ける。
「……安心しな、しばらくはお父さんの姿が見えるようにしておいてあげる。君がもし、お父さんが居なくても大丈夫になるまで……ね」
そう言って老人は入ってきた窓の枠に手をかける。すると後ろから、少女の声がする。
「「ありがとう」」と。
本来、老人には少女の父の声は聞えないはずだった。現に少女が父の胸に飛び込んだ時、老人には何を言っているのかがわからなかったからである。
「!……ははっ……メリークリスマス!」
かくして老人は赤い鼻のトナカイの牽くそりに乗って満月の夜へと消えていった。
それから少女は、悲しみで涙を流す事が無くなった。通っている幼稚園の運動会や、卒園式の時も……小学校に入って、授業参観や運動会に遠足の時だって……少女は大好きなお父さんと一緒だったから、どんな事があっても悲しむ事はしなかった。
――そして、少女は高校生になった。高校の入学式、少女の視界写るのは母と今の父。今の少女にはもうお父さんの姿が写ることはなかった。
「私……頑張るからね、お父さん……!」
少女は小さく呟き、一歩を踏み出す。新しい人生を、精一杯生きる為に。




