表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/7

五人目

「秋兎が急用で、いないからまた今度にしますか」


そう言って、雪兎は一冊の本を置いていく。


 ***


澤依四季の物語へ、ご案内致しますよ。

「四季、まだ…人が怖いのか?」


 翠慈は、澤依四季と呼ばれる同級生に話し掛けていた。唯一、四季が話せる相手が翠慈だから。


「……」


 四季は頭に何故か、包帯を巻いている。それに何も話さない四季に翠慈は困っていた。


「こうなったら、雪兎に頼むか…」

「…雪兎?」


 四季は翠慈が呟いた、雪兎という言葉に反応した。どうやら、四季は雪兎に会いたいらしい。これはいい感触だと思った翠慈は、早速雪兎の許に向かうことにした。


「四季、雪兎に会いに行くぞ」


 翠慈は四季の手を引き、雪兎の許に行く。四季の手を引いて、歩いていく。その間、四季は何も言わずに付いていく。


     ***


「翠慈君、この子は誰ですか?」

「こいつは、澤依四季。雪兎は優しいからな」


 翠慈は四季に言う。雪兎はその様子を見ていた。どうやら、どんな子なのか見極めているようだ。


「……雪兎」


 四季は囁くように言う。その呟きを聞いたのか、雪兎は反応する。何を言いたいのか、興味を持っているようだ。


「………」

「……四季君だね」


 雪兎は話し掛ける。優しく、怯えないように語りかけた。昔、経験したことを元に動き始める。


「四季を頼んだぞ」


 翠慈は雪兎に任せて、帰っていった。四季はそのままにするみたい。仕方ないので、今回は泊めることにする。


「四季君、包帯の下のせいで虐められたのかな」


 雪兎は洞察眼で見抜いた。包帯を巻いているようだけど、怪我をしている様子はないことから、何かを隠しているようだ。


「……うん」

「(あの時の空に似ている)」


 雪兎は思う。そして、胃が痛くなってきた。前も胃潰瘍で入院したばかりなのに、またすることになりそう。そんな様子を見ていた四季は、おもむろに頭の包帯を取る。下から見えたのは――立派な角だった。


「かっこいい角だね、僕は好きですよ」


 雪兎の言葉に四季は反応する。今まで、聞いたことのない言葉だった。まさか、褒めてくれるとは思っていなかったようだ。


「……あ、ありがとう///」

「四季君は人間なのに、角のせいで恐れられているんですね」

「……雪兎は怖くないの?……」

「怖くないよ。そもそも、僕も普通じゃないから」

「……えっ?」


 四季は驚いた。見たところ、雪兎は普通の人間のはず。なのに、雪兎は自分を普通じゃないと言う。


「僕の常識は、普通じゃないんだ」

「……そうなんだ」

「角は隠せるよ。でもね、僕のは隠し通せないんだ」


 そう言って、雪兎は突然服を脱ぎだす。そして、背中から露になったのはーー白い羽。それは、穢れなき純白の翼だった。


「驚いたかな?これは、生まれつき生えていたんだって。何、僕と君には人と違うかっこよく誇れるモノがあるからね」

「……秋兎に、かっこいいと言われた」


 四季は言った。嬉しいのか、ほんのりと顔を赤くしてデレる。


「そうだね、かっこいいよ。強そうじゃないかな」


 雪兎は四季の返事にそう言った。まるで、何当たり前のことを言っているんだと言わんばかりに。


「……雪兎、空…誰なの?」

「一緒に住んでいる子だよ」

「……住む」


 四季は対抗心を抱いたみたい。そんなに、雪兎と住みたいのか。空に負けたくないからって、一緒に住む辺りおかしいと思う。


「……良いですよ、住みましょう」


 雪兎は思わず返事した。うるうるした瞳に上目遣いをしていた四季を見て、不覚にも可愛く思ってしまったようだ。犬のような甘え方に雪兎の心はきゅっとする。


「よく抱くよね」


 雪兎はそう思った。あんな思いなんて、秋兎だけでいい。生涯、雪兎は秋兎の友人として、そして幼馴染みとして付いていこう。


「……行こう……?」


 四季は首を傾げる。一行に歩き出さない雪兎に、何か思うらしい。


「はいはい、行きましょう」


 雪兎は四季を連れて、家に向かった。目的は、空の家。多分、今も待ち続けていると思う。


「ちょっと待ててね」


 そう言って、雪兎は空の家に向かう。チャイムを鳴らして待つ。そして、ドアが開くのを待つことにした。


「……はい?」

「雪兎だよ」


 すると、ドアがおもいっきり開かれた。それも、チャイムを押してからまだ一分もしないうちに。


「……雪兎!!会いたかった」


 そう言って、空に抱き付かれた。そもそも、雪兎の心労の大半は空なんだけど。それでも、言わずに心にしまっておく。


「ごめんね。置いて出ていったよ」


 空の頭を撫でながら、苦笑してしまう。置いていったのは確かである。けれど、それは空の依存症を治そうとした結果であり、それが今の空の状態でもある。


「……ここで、噂になってしまったら嫌だから、この先のマンションに向かおう。部屋は借りているから」


 雪兎はそう言って、空の家を離れた。向かう先は、最近建てられたばっかりのマンション。親がオーナーをしている。


「四季、空…行こうか」

「「……うん!……」」


 四季と空は、子供っぽく頷く。あまり喋らないけど、空に対抗心を抱き、一緒に住もうと言って、雪兎の心を鷲掴みにした四季は可愛い。空もあまり喋らなくなってきて、行動で表現してくるから、雪兎の心にキュンとして可愛い。


「家の事は僕がするから、学校に行くんですよ?帰れば、僕を独り占めに出来るよ……二人共」


 素直に頷く四季に一瞬、可愛いと思ってしまった。けれど、すぐに別のことを思うことにした。前に思って、その後に体調を崩したから。


「四季、空。ここが僕の家になるよ」


 その家は、雪兎の親が個人経営しているマンションの一室になる。大切な息子のために、与えた部屋でもある。主に、体調面についてであるが。


「……雪兎と一緒……えへへ///」

「………///」


 なんて幸せな顔で笑うんだろうか、二人共。そう思いながら、携帯を開く。時間を調べたけど、あまり経っていなかった。


「さあ、入りますよ。四季、空」


 そう言って、雪兎は笑いかける。ドアを開けて、先に入った。中は、雪兎の趣味が満載のシンプルに落ち着いた部屋。されど、どう見ても異国の部屋にしか見えない。


「……お邪魔します……」

「畏まらなくてもいいよ。僕たちで暮らすんだから」

「……早速、一緒に寝よう」


 四季は気の早い子だった。まさか、既成事実を作ろうというのか。まさに油断の出来ない子である。


「夕飯作ってからね。じゃないと、お腹空いちゃうからね」


 雪兎は四季の頭を撫でてから、角を触る。触った感触は、固かった。本当に、角であると実感した。


「似合うよ、その角」


 雪兎にとって羽が生えていることが普通である。だから、色んな物事に挑戦して、そして後悔した。周りと違う、自分の姿。自分だけが羽を持っている。

 もう、普通になれない。そう異常な考えに、至ってしまった。雪兎には異常しか側に居ない。

 寂しいや怖いと思う感情は、唯の言葉になっている。何も感じれない。どうして、周りが言っているか理解出来ない。

 共に連れ添ってくれそうなパートナーは、どこにもいない。皆、雪兎を避けるように逃げていったから。だから、四季たちと暮らす。これは雪兎の何とも言えない何かの為す事。故に、雪兎はいつも独りぼっちなのだ。


「……四季君、抱き付かれては料理が出来ないよ」

「……やっ!僕を必要としてくれた」

「仕方ないですね、抱き付いてもいいですよ。空も抱き付きたいなら、来ていいよ」


 と言った途端には、抱き付かれていた。四季は孤独感を見せる瞳をして、抱き付いた。空は置いていかれたくないから、抱き付いた。それを笑って、許した雪兎。


「四季、空…」


 四季は離れた。空も、しぶしぶ離れる。テーブルに料理を次々と置いていく。四季は僕の隣に座る。空も反対の方に座る。一時も離れたくない四季と空。雪兎は苦笑しながら、食べる。

 すると、携帯が鳴り出す。


「もしもし、あ…はい、雪兎ですが…えっ!ありがとうございます!!明日買いに行きますね」


 雪兎は携帯を閉じる。


「……秋兎、何?……」

「さっき、四季が欲しがっていた物が安く売ってくれるみたい」

「……やった、猫のぬいぐるみが手に入る///」


 四季は嬉しそうに言う。子供のような仕草が空と似ていて可愛いと思った。僕は笑いながら、四季を見る。

 すると、トントンと叩かれた。

 空を見ていると、じっと見つめられる。無言で。


「分かったよ。空にも買ってあげるから」

「………」


 コクンと頷かれた。先が見えない未来。どこまでも続く、沈丁花の道が雪兎の見た最近の夢。どうして、それを見たのか。


「四季、僕は虐めないよ…あまり守れないけど、傍に居てあげるよ」


 四季に言った。僕に依存してほしくないから、時々突き放すように逃げる。


「……虐めないよね?見捨てないよね?」


 四季は情緒不安定のまま、言う。おまえもか、僕を入院させようとするのは。だから言っただろう、前に胃潰瘍で入院して、ようやく退院できたと思ったのに。


「……さらっと、僕の心労を増やすこと言わないでよ」


 雪兎の発言がおかしい。増えることが前提である。夕食を食べ終えたあと、片付けを済ませる。四季と空とお風呂に入るために。


「四季、空…、お風呂に入ろうか」


 そう言うと、二人は駆けよってきた。洗面所に入って、服を脱いでから浴室に入る。雪兎は、浴槽に入って温まる。疲れが取れて、心が安らいでいく。四季と空は、雪兎に寄り添って入っている。


「「………」」

「……僕は、どこにも行かないよ。置いていったり、しないから安心しなよ」


 そう言って、思わず苦笑いしてしまった。そして、また密かに病院に行くことが決定した瞬間でもある。


「……秋兎は僕の嫁だ」

「……!」


 四季の大胆な発言に、空はびっくりした。そして、雪兎もびっくりしてしまった、突然言われて、また胃が痛みだした。


「……四季。雪兎は渡さない」


 えっ…。突っ込まないの?それ以前に、男は嫁になれないんだけど。何を言っているのかな。


「……渡さない」


 四季に手を掴まれた。反対の方では、空にも掴まれていた。どうして、こうも対抗心を出すのか。


「……こっちこそ」

「………」


 雪兎は、『お前は嫁』発言をされたのは初めてだった。人生でも、そんなことを言われたことはない。どこで、それを学んできたんだ。こんなに驚かされたのは、びっくりした。


「……ねえ、出ていいかな?のぼせてしまったんだけど」


 雪兎が出ていったあと、二人は話していた。と言っても、時間の掛かる会話である。


「……雪兎に褒められたい」

「……僕も」


 二人は雪兎は愛したかった――

 親と云う存在に近かった――

 温もりに触れていたかった――

 触れたら壊れてしまうくらいに繊細だった。


「「……出よう」」


 二人は頷いて、一緒に出ていく。そこには、着替えの服が用意されていた。それは、色違いの同じパジャマである。


「あ、二人共、出てきたね。一緒に寝ようか」


 そう言って、顔を覗かせてきた雪兎。パジャマは二人と同じモノの色違い。いわゆる、お揃いのパジャマ。


「明日は、絶対に学校に行くんですよ?家事は僕に任せてください」


 そう言った後に、二人に手を引かれて、寝室に向かう。タブルベッドに三人で寝る。


「真ん中に僕が寝るから、二人は両側に寝なさい。平等に抱き付けるよ」


 そう言って、二人の頭を撫でながら笑う。結婚していないけど、子供を持つ時はこんな気持ちなのかなと思いながら、明日のメニューを考える雪兎。


 ***


「「………すやすや」」

「おや、眠ってしまったか。もう少し、喋ってくれないと困るよ」


 雪兎はそう言って、就寝した。二人と同棲して、一日目が経った。


「二人共、起きてください。学校に遅れますよ」


 そう言ってから、朝食の支度に取りかかる。何を用意した方がいいんだろうか。悩んだ末に、無難な和食を用意した。そもそも、空は分かるのだけど四季のは分からなかったから。


「……おはよう……」

「………うん」


 寝ぼけた二人を座らせて、食べさせる。雪兎は二人の様子を見て、安心したように胸をなで下ろした。


「四季、空。僕は家で、仕事を出来るように頼んできたから、毎日家にいるよ」


 そう、四季と空のために家で仕事出来るように編集長に頼んでおいた。二人のために、無理を言ってまでお願いしてきたのだ。


「さて、学校に遅れますよ?早く、行きなさい」


 二人を学校に行かせて、僕はパソコンを開く。電源を入れて、メールを開いてみた。同僚からメールが来ていた。多分、何かあったんだろう。念のため、置き手紙をして会社に向かった。

 如月出版社──僕が編集者として、勤めている会社。中に入って、自分のデスクに向かう。すると、置かれていた封筒を見つけた。開いて覗くと、原稿が入っている。

 43ページの完成した小説の原稿。読んでみると、前に聞いていた話とは変わっていた。電話を掛け、作家さんに聞いてみる。


「ーーもしもし、如月出版の夏目雪兎です。届いた原稿を読ませていただきました。ええ、1~23ページは良かったです。唯、24ページ以降は展開が急過ぎて、読者が追い付けないと思います。1週間以内までなら、時間を伸ばせますので直してください」


 そう言って、電話を切る。一息吐いたあと、片付けておく。


「先輩、凄いっすね!完成した原稿を描き直させるとか」

「いや~、昔から担当させていただいているので、癖で言いくるめてしまうんですよ」


 苦笑いして、原稿を封筒に入れる。他に仕事が来ていないか、確認してから帰宅する。


「じゃ、何かありましたら電話なりメールなり、報せてください」


 二人が待つ家に、急いで向かう。ドアを開けると、二人は夕食の準備していた。


「ごめんね。急に、会社に行く用事が入ってしまったから。夕食の用意をさせてしまったね」

「……別に」

「……大丈夫」

「………もう少し、喋ってほしかったよ」


雪兎は二人の将来を心配してしまう。いつまでも、一緒にはいられない。雪兎が先に出ていくか。それとも、二人が出ていくか。


「Lo he pasado muy bien(とても楽しかったですよ)」


 その言葉は、雪兎の心からの本心である。笑って、二人の元へ向かっていく。どうか、もう少し楽しい時間が続きますように。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ