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迷い仔猫の居候  作者: 小高まあな
第六幕 上手の猫は爪を隠す
19/26

9−4

「待てよ」

 それを隆二は引き留めた。

 自分が思ったよりも大きな声だった。いつもよりかすれていたのは、大目にみて欲しい。

 振り向いたエミリと振り向かないマオ。

 銃を構えたままの三人組。

「ふざけるな」

 ゆっくりと息を吐く。

 足に力をいれて、立ち上がる。

 三人組が撃とうとしたのを、エミリが片手で制した。

 大丈夫。まだ立てる。

「見くびるな。拾った猫を犠牲にする程、落ちぶれていない。俺は欲ばりだから全部手に入れたがるし、事実、それだけの力もあると思うぞ、なぁ、嬢ちゃん?」

 決して気は抜かず、それでも傍観者に徹していたエミリに話をふる。

 エミリは軽く目を見開き、

「……そうですね、おそらくそうなのでしょう」

 単純に、それだけ言った。

 それを聞いてにやりと笑うと続ける。

「ほら、嬢ちゃんだってこういってるさ。疑心暗鬼ミチコよりも、俺の方が強いさ」

 おどけてみせる。

「けがさせて悪いと本当に思っているなら、迷惑かけてしまったと思っているのならば、そうやって消えるんじゃだめだろ。本当にそう思っているのならば、俺にお詫びと恩返しをしろ」

 自分でも段々何を言っているか、わからなくなってきた。

 ただ一つだけいえるのは、今、この居候猫を見放すことができないということ。

『でもっ!』

 マオが振り返る。また、泣きそうな顔をしているな。そう思って目を細める。

 なんだか酷く不愉快だ。

 何が? そういう顔をしているマオが? そういう顔をさせてしまっている自分が?

 マオはそのまま、叫ぶように言葉を投げつける。

『でも、あたしは何も出来ないもの! 隆二がけがしているのに何も出来なかったし、恩返しもお詫びもきっと出来ない』

「そのうち肉体がもてるかもしれないぞ? そのうち霊体であるからこそ出来ることがあるかもしれないぞ? 半永久的に生きられるんだからな。そういうチャンスにいつか恵まれるさ。それがいつのことかわからないが、きっと研究所に行けば得られないことだと思う」

 そういってやわらかく微笑んだ。

 エミリが驚いたような顔をしたのを、視界の端に捕らえる。それはまるで自分が笑うのは気味が悪いみたいじゃないか、失礼な。

「マオが来てから、言わなかったけど、十分楽しかったんだ。それだけで本当は十分だったんだ。一人の、生活が長かったから」

 こころなしか視界が揺らいできた。血の生成が追いつていない。

 がんばれ、常人離れした俺の体。

 あやまちを、繰り返すな。

「あの赤いソファーに座って、二人でだらだらとテレビでも見よう。あのソファー、やっぱり一人には大きすぎるんだ」

 マオの瞳が揺らいだ。

「だから、なあ、マオ」

 一呼吸置く。


「一緒に帰ろう」


 そういって両手を広げてみせる。

 マオが一度きつく目を閉じる。

 何かを振り切るような動作だったが、それはほんの一秒足らずで、隆二の方へ向かって動き出した。


 銃声。


 マオが一瞬驚いたかのように目を見開き、それからすぐにゆっくりと目を閉じ、崩れるようにして倒れていく。

 それを視界に捕らえた瞬間、走り出す。体が悲鳴をあげるのを無視する。

 が、位置的に有利だったエミリが先に彼女を捕らえた。

 舌打ちすると隆二は、再びエミリとの間合いを取り直す。

「それは?」

 彼女が持っている先ほどとは、別の銃について尋ねる。

「なんでも研究班が開発した霊体にも効く銃だそうで、原理はわからないので省きますが。試作品ですし換えの弾もないので不安だったのですが、効いて良かったです。ついでに、今G016に触れるのも研究班が作ったこの手袋のおかげです」

 そういってから隆二を見て、少し呆れたように笑う。

「安心してください。麻酔銃のようなもので眠っているだけです」

 それでも隆二は彼女を睨むのをやめない。

「そんなこと言われて納得すると思っているのか?」

「いいえ。思っていません。ですが、その怖い顔はやめてください。さっき、貴方が微笑んでいるのを見てわたしはとても驚いたのですよ」

「失礼だな」

 鼻で笑う。

 エミリはそんな隆二を見るとため息をついた。

 三人組が銃を構えたまま近づいてくる。


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