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迷い仔猫の居候  作者: 小高まあな
第六幕 上手の猫は爪を隠す
17/26

9−2

 ほぼ同時に、隆二はエミリから飛び退く。不穏なものを感じて。

 マオの手を掴むと、そのまま頭を抱え込んだ。

 いくつかの銃声。

 それから衝撃。

 隆二は小さくうめく。

 何か高い音が響く。とても近くから。

 五月蝿いな、なんだこれ。そんなに騒ぐな。

『隆二っ、隆二ぃ!』

「……へーき」

 腕の中、悲鳴のように名前を呼ぶマオの頭を撫でる。

『りゅーじっ』

 マオの頭をすり抜けて、赤い雫が落ちる。

 赤い水たまりが出来る。

 なんだこれ、雨漏り? なんて、一瞬、脳が事態を理解するのを拒否する。

 これまた無様に、喰らったものだ。

『隆二っ』

「だいじょうぶ」

 喋ると同時にこみ上げて来た塊を飲み込む。

「ヘルメットは英断でしたね」

 エミリの言葉に振り返る。

 エミリの後ろ、入り口に立つ三つの人影。

「……増援部隊、ってやつ?」

 かすれた声で尋ねると、エミリは頷いた。

 乾いた笑いが漏れる。

「……やばいなぁ、平和ボケ?」

 エミリはいつも一人で行動しているから忘れていた。彼らは組織なのだと。

 エミリが近づいてくる。後ろの影は構えたまま。 

 被っていたヘルメットを脱ぐと、エミリに向かって投げつける。常人離れした力で投げられたソレは、エミリの足元に叩き付けられ、その形を歪ませた。借り物だけど、ごめん持ち主。

 そのままなんとか後退し、距離をとる。増援部隊が撃った弾が足に当たったのはご愛嬌だ。今更足に一発当たったところで、何かが変わる訳じゃない。マオの悲鳴があがるだけだ。

 エミリから奪った銃を構えてみせる。

『隆二ぃ』

 クリアになった視界に、マオの泣き顔がうつる。

「……泣かなくて、いいから」

 安心させるように微笑んでみせる。

 でもマオの表情は変わらない。

 被害状況を確認するのが憂鬱になる。

 治って来た箇所もあるが、さっきまで居た場所にできた赤いみずたまり。あんまりきちんと見たくはない。

 それにしても、ヘルメット、やっぱり被ったままにしとけばよかったかな。銃を構えたままの人影を見て思う。

 マオを背中に隠すようにして、エミリと対峙する。

「銃、撃ったことありませんよね? 降参、しますか?」

 エミリが尋ねてくる。

 体の処理が追いつかない。それでも笑ってみせる。

「誰がそんなこと」

『待って!』

 マオが叫んだ。隆二の言葉を遮るように。

 隆二は視線を背後に動かす。

 エミリは黙って動かない。

 マオは隆二を庇うように両手を広げて彼の前に立つ。

『あたし、行くから。だからもうやめて』

「……マオ?」

 血と一緒に、言葉がこぼれ落ちる。

 何を、言っている?

『いいよ、もう』

 マオは振り返ると小さく微笑んだ。口元は笑みをかたどっているが、目元はまったくその反対で、その顔はやけに頭にきた。

 それは神山隆二の大嫌いな表情だった。


 もう、どうでもいいと全てを諦めた者の顔。

 昔、自分と仲間達が嫌というほどした顔。

 なんで、そんな顔をしている?

 なにがそんな顔をさせている?

 どうしてそんな顔をしている?

 そして、マオのその顔は嘗て愛した、今でも一番大切な女性の唯一認められなかった表情に似ていて、

「しょうがないよ、双子は忌み嫌われるものだから」

 一瞬、だぶった。

 そんな顔は見たくなかったから、必死に道化を演じてきた。

 そんな顔は見たくなかったから、例え黒い茨の道でも突き進んできた。

 そんな顔は見たくなかったから、犠牲の羊になることだって厭わなかった。

 そんな顔は見たくなかったから。

 今だって、見たくない。


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