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「1」


月曜日ーーー仕事。



火曜日ーーー仕事。



水曜日ーーー仕事。



木曜日ーーー仕事。



金曜日ーーー仕事、からの飲み会。



土曜日ーーー晴れた日は、車でどこかへ出かけて、ショッピングなど。



日曜日ーーー次の日仕事があるから、家でごろごろ。





そんな1週間を俺は、22歳の頃からもう15年近くも続けている。



もちろん、これまで恋をしてこなかったわけではない。自慢ではないが、俺はモテないわけではない。今までに、7人の女性とつき合って来た。一番長くて2年近くつき合った事もある。



だが、俺は結婚したくなかった・・・・っていうのは嘘で、ほんとは俺が結婚を申し込もうというタイミングで、見事にふられたのだ。





もうそんな平凡な日々にはうんざりだ。



これまでそう何度も思って来た、はずなのに。



生活を変える勇気が俺にはなかった。   



何もできなかった。

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そんな俺に、ある日転機が訪れたんだーーーーーー。








【スパイスの効いた人生を】







【黒田圭介(36):会社員】

「はぁーーー。まさかあんなにこっぴどく叱られるとはなー。ついてねーぜ。ま、今週末はライブがあるからいいっか。」



黒田は会社帰りで、高層ビルが建ち並ぶ街中を一人で歩いている。






黒田「・・・・・・・!!」




道を歩いていると、黒田は誰かの財布が落ちている事に気づいた。



黒田「こ、これって・・・・。」



黒田はとっさに周囲の目を気にして、誰にも見られていない隙にその財布を拾った。




黒田「・・・・・なっ!・・・・20万も入ってるじゃねえかよ。」




黒田「・・・・・・・いや、だめだ。こいつはきちんと交番に届けないとな。・・・・・・しかし、この近くに交番なんてあったっけ?」



黒田が今いる所から交番までは、歩いて20分以上もかかるのである。




黒田「そうだ。この持ち主の身分証明書とかあるんじゃないのか?」



黒田は財布の中に、免許証や保険証がないかどうか探した。




結果は・・・・・なかったのである。




黒田「・・・・・持ち主が分からない・・・・・。ってことは、交番に届けたとしても、持ち主が見つかるとは限らない・・・・・。」



黒田は財布を手にしたまま、その場に立ち尽くし思案している。






黒田「届けたとしても、届けなかったとしても、結局俺のものになるんだとしたら・・・・・・」



黒田の心に、かすかな悪意が芽生え始めた・・・・。




そのとき、黒田の目にある光景が映った。



それは、自分とは違って見るからに今の生活に充足を感じているような、美男子の青年が自分と同じく道に落ちた財布を拾い上げている光景である。




黒田「・・・・・・・」



黒田はその青年の動きを始終観察していた。





黒田「・・・・・あ。」




そして、その青年は財布を拾い上げた後、若干足早にその場を去ったのである。




そう、財布をねこばばしたのである。




黒田「・・・・・・・・ごくり・・・・」



黒田は生唾を飲み込んだ。



そして、今しがた見たばかりの光景が、黒田の中の悪意を後押したのは言うまでもない。

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ーーーーー翌日




黒田は通勤ラッシュ時の満員電車の中にいる。



黒田「・・・・・・・」




黒田は電車に揺られながら、その揺れに合わせて、自分の心が善意と悪意の狭間で揺れ動いているのを感じた。




黒田は昨日自分の犯した行為が、果たして善なのか、悪なのか、答えを出せずにいたのである。





プシューー




ダダダダダッッ




そして、黒田の会社の最寄り駅に電車はたどり着き、人々が押しも押されぬ勢いで電車から降りてゆく。



黒田もまたその流れに押しつぶされて、電車から降りたのである。







黒田は会社へと続く国道沿いの並木道を、もやもやした気持ちを抱えながら歩いている。



黒田「・・・・・・はぁ・・・・・」






突然、黒田は嫌な感じの、背筋が凍るような気配を感じた。自分でもなぜそうなったのかは分からないが、心の渦をかき乱すような何かが近くに存在している感覚に襲われたのである。




黒田「・・・・・・」



突然、胃がきりきりする。



それは、自分の奥底の悪意を素手で掴まれているような痛みである。





???「おはようございます。」



声をかけられた。



まさしく朝にふさわしい、さわやかな声であいさつをされた。




黒田は声のする方を振り返るーーーーーーー。




黒田「・・・・あ、おはようございま・・・・・・!!」




黒田が見た人物はーーーーーーー、昨日財布をねこばばした美声年であった。




???「突然声をかけてすみませんでした。」



黒田「あ、いや・・・・いいんですよ。」 汗



黒田は体中に尋常ではないほどの冷や汗が流れるのを感じる。



嫌が応にも鼓動が速くなるのを止める事はできない。





???「あっ!名前を言っていませんでしたね。僕の名前は、【緑川ワタル】です。」



黒田「それはどうも。私は黒田圭介と言います。・・・・・・あの、それで・・・・」




黒田の言葉を遮り、緑川はこう言った。





緑川「・・・・・黒田さん、あなた・・・・・昨日他人の財布をねこばばしましたよね?」 ニヤリ




黒田「・・・・・・・!!」




心臓の鼓動はより一層速いテンポで刻まれ、顔からも冷や汗が噴き出るのを黒田は感じた。









黒田「・・・・・(なぜ、この男は知っているんだ・・・・・。まさか・・・・・見られていた・・・・!?)」



緑川「その財布は今も持っているんですか?・・・それとも、もう使っちゃいましたか?」 



緑川は、落ち着いた爽やかな声であるのに、黒田を追いつめるような鋭い響きを持っていた。




緑川「・・・・・黒田さん。」



緑川は優しく問いかけた。



黒田「・・・・ごくっ」



緑川「財布をねこばばした時・・・・どんな気持ちでしたか?」




ーーーーー黒田は考えた。



あの時の気持ちを。抱いていた感情を。





ーーーーー「高揚感」ーーーー。




一言で言い表すのならば、その言葉が恐らく最も当てはまるに違いないことを、黒田は感じていた。



だが、その言葉を口にすべきかどうか迷っていた。



どのような形にせよ、黒田は罪を犯したのだ。   



そのときの気持ちを「高揚感」などと表現するのは、さすがに良心が痛む。





緑川「・・・・・もしかして・・・・気持ちが高ぶったりしました?」



黒田「・・・・(ドキッ!)」



こいつは、俺の心が読めるのか?・・・・・・その時黒田はそう思った。




黒田「い、いや・・・・・・。」 汗



緑川「普段退屈で平凡な生活を送っているあなたにとって、昨日の体験は・・・・・刺激的だったんじゃないですか?」 ニヤリ



黒田「・・・・・・あ・・・・・・」




黒田の本心は、まさに緑川の発言の通りだった。




退屈で毎週同じような生活の繰り返し。



ただただ決められたルーティンを繰り返す生活の中での、昨日のちょっとした冒険のようなねこばば。



それは確実に、平凡な日々に彩りを添えた。



うどんにかける唐辛子、ラーメンに振りかけるこしょう、




そう、昨日の出来事は黒田の人生にとっての“スパイス”だったのである。







黒田「・・・・・ああ、感じたよ、、、心の中が高ぶるのを・・・・ね。」 







緑川「・・・・やっぱり。・・・・どうです?もっと刺激的なことしたいと思いませんか?」






黒田「・・・・・なんだっ・・・・て?」





黒田は再び自分の中から沸き上がる何かを感じた。




それは恐らく遥か昔に置き忘れた、、、、、何か。



人生を波乱にみちた、冒険に変える、、、、何か。






黒田「・・・・一体どんなことなんだ?」



緑川「・・・・・簡単な事ですよ。昨日よりも、もっと派手なことをやるんですよ^^」



黒田「昨日よりも、もっと派手な・・・・?」



緑川「・・・・そう、派手な事ですよ♪・・・・・・・犯してはいけない領域に踏み込む、とてもスリリングで、エキサイティングなことですよ。」



黒田「・・・・・・・・・」





ーーーー恐らく、緑川の指している事が何であるかは黒田にとって想像に難くなかった。




しかし、黒田はもうすでに緑川の話に乗ろうと決心していた。





ーーーーー少しでも、この平凡な毎日が変わるのなら、ーーーーーー





ーーーーー少しでも、退屈な生活に”スパイス”を加えられるのならーーーー









翌日から、黒田の生活は急変していくことになるーーーーーー。



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