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短編集

写真

作者: 夏野ゲン



 写真旅行にでも行こうかと思った。

 しかし撮るのは、遠くの名所や、風光明媚な土地ではなくて、身近にある景色だ。

 そういった意味では、これからやろうとしているそれは、写真旅行なんて大それたものではなくて、写真散歩とでもいうべきものだろう。


 景色はうつろう。

 天気とともに、時の流れとともに、そして見る人の感性とともに。


 わたしは、この町がそれほど好きではない。

 だがこの町を出て、働きに出て、時が経つうちに、いつの間にかわたしも、このありきたりな町のことを愛しく思い出すのだろうか。


 ファインダーごしに見るこの町は、わたしの目から見たらどこまでもありきたりで変わり映えしない普通の景色だ。


 変わらず広がる田んぼ。遠くに見える雪のついた山。少し汚れた用水路。駅前の角の自販機。

 全部が全部変わらない、面白くもないもの。


 それでも祖父はこの町のことが誰よりも好きだった。

 寝たきりになって動けなくなっても、この町のことが好きだった。

 祖父は動けなくなってからもわたしに尋ねるのだ。田んぼは変わりないか、寺の松の木は元気かと。

 そのたびにわたしは「変わらないよ」とだけ答える。そうすると祖父はうれしそうに、安心したように微笑むのだ。


 夕暮れの田んぼと遠くの山を写真に収める。

 これから撮るこの町の写真を棺に納めたら、祖父は喜んでくれるだろうか?


 ぐうと一つカエルの声が聞こえた。



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