表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

オークションと裏方の争い

いろいろ専門用語っぽい言葉が並びますが、別に覚えなくてもいいやつです。

「こんな設定があるんだな〜」という程度に考えていただければ幸いです。


「皆様どうも!この度は『クラッシュクラウン』のオークションへお越しいただき、至極光栄に存じます!!」


 いい加減な程わざとらしい声を張り挙げるのは、大広場の中央にセットされたステージに立つ男。オークションの司会進行を務めるアンセン・メリィランのものだ。

 会場の外であると言うのに、マイクも持たないアンセンの声が(かす)かながら聞こえてくる。彼の声量には、常連の客や会場のスタッフでさえ毎度の如く驚かされるばかりだ。

 勿論常時その調子でやっていれば喉が壊れるので、品物が出始める頃にはマイクに切り替えているのだが。

 ファルマイナは彼の声からオークションが始まったことを確認し、懐から端末を取り出す。同時にその端末から、着信を示す音が鳴り出した。


[あー、テスト、テスト。CCW オペレーションルーム3号室、コンディションチェック2。通信状態、良好。通信妨害、なし。盗聴対策システム、作動中。マイコンディション、絶好調。報告を開始]

[こちらCCW オペレーションルーム3号室、ナンバー O-06(オー シックス)より。オークションの開始を確認。受付番の報告と席数の差に誤りなし。一般席、指定席およびVIP席のいずれも満席です]


 端末から聞こえてくる、どこか幼なげな声の女性はCCの主要オペレーターの一人、O-06ことクーミル・パッペンだ。

 彼女は基本的に自身の持ち場を離れない。そのため、大広場のオペレーションルームに連絡する、あるいは連絡が来る時は、ほとんど必ず彼女と話すことになる。要するにひきこもりだ。

 また、O-06 というのはオペレーターナンバーで、CCの主要オペレーターは全員個別にナンバリングされている。わかりやすく言えば職員番号である。

 実は、現在会場の中央で司会進行を行なっているアンセン・メリィランもCC主要オペレーターの一人であり、ナンバーはO-09(オー ナイン)だ。


 話は逸れるが、ファルマイナはCCのオペレーション部門の立ち上げ当初、もっとかっこいいコードネームを割り振ろうと調子付いていたがイロンドに却下されたという歴史がある。

 少し前までは虎視眈々とその機会を狙っていたが、イロンドがずっと睨みを効かせていたため、とうとう今では諦めている。


 それはさておき、話を戻そう。

 ファルマイナは日中、イロンドからの知らせによって、『異形の者』がこの街に潜伏しているという情報を得た。彼らの目的や、具体的な拠点や潜伏場所を把握する為、急遽計画を練ることとなった。


 夜の街でも、特に多くの人間が集まるオークションというイベントを利用し、参加者の情報を徹底的に洗い出してその化けの皮を剥いでやるというのが、大雑把な計画の内容だ。

 委細はイロンドに委ねてある。理由は勿論、こういった事柄は彼が適任だからだ。

 そもそもファルマイナは『修理屋』が本業であり、社会の末端でしかない彼女にとってこの手の工作は不得手であった。


「クーちゃんおはよう。寝起きのところ悪いけど、ユリアに連絡してもらってもいいかな?あと、警備システム第二層までのアクセス権限も付与できるようにしておいて。端末番号はG402、運用手順はマニュアル通りでよろしく!」


[ファルちゃんか…なんで寝起きってわかったのぉ?まあ別にいいけど…]

[報告を完了したため、通信を終了。それじゃ、頑張ってね〜]


 クーミルはそう言い残して通信を切った。

 彼女は常にマイペースだ。しかし、その仕事ぶりには目を見張るものがある。

 その仕事モードがファルマイナに問いかけられた直後、一瞬で気怠げな声質に変わった。かと思えば、すぐにまた声質は切り替っていた。「意識の切り替えの早さは俺以上かもしれないな!」などとイロンドは評価している。

 美点ではあるが、仕事の時間くらいはずっと仕事モードでいて欲しいと思うファルマイナであった。


「それじゃあ、私も仕事を始めるとしようか」


 ファルマイナはそう小さく呟き、その場を後にした。



 ◆



 商業棟副棟、執務室。

 大広場でオークションの開会が行われる最中、イロンドとユヅネはとある人物と対談していた。


 ─────否、問い詰められていた。


「イロンド。この状況を、詳しく説明してもらおうか」


「詳細はこの作戦が一旦完了した後に、と伝えたはずだが?まあ現状の委細を問われる事自体は想定内だが、まさかお前が本部から出てくるとはな。珍しいじゃないかフロイネ」


「CCのオークションともなれば、その周辺と当日に依頼が増えるのはいつものこと。しかし、わざわざ各地の支所に複数の小規模な警備派遣が依頼され、それが同じ日の同じ場所ときた。配当時間が入れ違うように設定されているとなれば、疑いをかけるのは当然だが?」


 イロンドは難しい顔をする。その要因は、無論彼の目の前にいる女性である。

 フロイネ・ラフラリア。『クラシックネオン・アスタータウン』の各地に勢力を広げる自警団『ネオンリウムサイレン』の本部、そのNo.2だ。

 自警団とは言うものの、その実態は自警団という看板をぶら下げた夜の街の治安維持を担う公的組織だ。自警団と呼称されるのは、組織が立ち上げられた当時の名残である。

 しかし、その看板は飾りという訳ではない。特に荒れたこの夜の街の治安維持を行えるという事は、それだけの実力者である何よりの証明だ。

 そんな猛者共が集まる自警団の中でも、とりわけ彼女───フロイネの実力は凄まじい。『鬼狩りの副長』という異名を持ち、ここ夜の街でもイロンドに並ぶと名高いトップクラスの実力者だ。

 流石に自警団No.2の肩書は伊達ではない。


「疑う?たったそれだけの言い分で、お前程の女が直接ここまで来る訳がないだろう。『鬼狩りの副長』は意外にも慎重派らしいからな」


「『蛇』とその一派の動きがきな臭い。そして、この夜の街で度々起きる“神隠し”の被害が()()()()()()37件も発生した。一日にあたり一人以上が姿を暗ましている」


 フロイネは「一ヶ月」という単語をほんの僅かに強調した。イロンドとユヅネはそれを聞き逃すほど不真面目でも、意味を理解できない愚鈍でもない。

 勿論、その一瞬の反応を見逃すフロイネでもない。


「君達の動きは、ある程度把握済みだ。どうやら、秘密裏に“何か”を追いかけ回しているようじゃないか。その時期が、どうにも要観察指定の連中の動きと一致していてな?」


「あまり下らない話はよせフロイネ。お前も俺も、意味のない前座を好む人間じゃあないだろう」


「流石によくわかってるね、会長殿は。それじゃあ簡潔に言おう。君達の追ってる正体不明の“何か”。それを我々『ネオンリウムサイレン』に引き渡せ」


 イロンドとフロイネはどちらもただ黙り、相手の目を見据える。執務室は一転静寂に包まれた。

 両者の間には、表し難い張り詰めた空気が流れている。

 イロンドの後ろで黙しているユヅネは、存在しないはずの冷たい風が自分の背中を撫でて去っていくように感じた。

 と同時に、勢いよく扉が開かれる。遅れて大きな声が執務室に木霊した。


「会長!まだ執務室にいたんですか!もう始まって……ああ、お客様でしたか。これは失礼しました」


 扉の勢いとは裏腹に、その声は執務室のソファに腰掛ける見覚えのない人物をはっきりと認識した瞬間から萎み始める。今のファルマイナの心境を文字で起こすならば、まさしく「穴があったら入りたい」だろう。

 一方、執務室の三人も先程の緊迫した状況に浸りきっていたせいか、唐突なファルマイナの登場に面食らっているようだ。

 またも執務室には静寂に包まれる。しかし先程と同じ空間とは思えないほど、その場の空気は緩んでいた。ある意味ではファルマイナの功績とも言える。


「あーすまん、今は見ての通り立て込んでいてな……詳細はカシアティとラテワーゼに聞いてくれ。現場調整とか配置とかはフォグバリドに」


 すかさずファルマイナに指示を出すイロンド。そしてファルマイナは即座にその意図を読み取った。

 ユリア・カシアティ、フロン・ラテワーゼ、ローデント・フォグバリド……先程挙げた人物の名前は全て苗字である。

 イロンドは基本的には全ての者に対し名前は個人名で呼ぶ。つまりこのイロンドの苗字呼びは暗号だ。

 イロンドの人なりをよく理解した上で、こちら側の人員の名前を上から下までキッチリ覚えていなければわからないテクニックである。

 実際フロイネからすれば、突然入ってきた部下に対し指示を出したようにしか見えないだろう。

 そして肝心なのは、ファルマイナの名前を出さなかったことだ。

 イロンドとしては、ここCCのオークションで行われる『異形の者』に関する計画を悟られたくない。ファルマイナはここCCの発足者であり管理人。フロイネにマークされるのは致命的だ。

 幸いファルマイナは表立ってこの市場を運営していたわけではないので、顔が知られていることはないだろう。

 一方ファルマイナ本人は、イロンドの意図をしっかり理解していた。

 何故かといえば単純明快、始めに言った通り“ファルマイナの名前を口に出さなかったから”である。

 イロンドは何かと人の名前を口に出す。基本顔を合わた最初の一言には面と向かって名前を言う。


 目の前にはイロンドと睨み合う知らない人物、名前を呼ばない、他人員の苗字読み。

 ここまで揃えば、あとは何をするかは明白である。ファルマイナは「了解しました!」と笑顔で言うと、ここ数年で最も早いスピードで扉を閉め─────


「待ちたまえ、君も少しお話ししようじゃないか。『修理屋』殿?」


 ─────ることは叶わなかった。

 フロイネのその問いに、ファルマイナに「はい」と答える以外の道は残されていなかったようだ。

ほんのちょっと文字数を増やしました。

この調子でどんどん増やせていけたらいいなって思ってます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ