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夜に潜む異形


「『異形の者』………だって?」


「あぁ。ここ暫くは音沙汰もなかったんだが、少し前に報告が入ってな。()()()()一ヶ月以上前からこの街で活動を開始していたと思われる」


 『修理屋』の工房、その応接室。一対のソファにそれぞれが腰を下ろし、真剣な顔で話し合っていた。

 そして、話にある『異形の者』。

 読んで字の如く、人ならざる姿形を取る異人類だ。

 そして“それら”は、この夜の街『クラシックネオン・アスタータウン』そのものと深い関わりを持つ。


 だが───────


「待て、待ってくれ会長。『異形の者』は例の“大戦”で討たれたはずだ!少なくともあの大戦に関わった『異形の者』は全て!」


 そう。『異形の者』のほとんどは、約20年以上前にこの夜の街とその他大多数を巻き込んだ、とある“大戦”にて死という結末を辿った。そして、現在生存を確認できている『異形の者』はたった三人のみなのだ。いずれも動ける程の力を有しておらず、その内の一人に至っては13年前から音信不通の消息不明だ。


「あぁそうだ。だが、確かな情報だ」


「これは、とんでもないことになったな…これを把握してるのはどのくらいいるんだ?」


「最低でも17人です。内訳としては目撃者7名と報告受理者2名、『商会連』の副会長とその補佐1名、有力な『情報屋』3名。最後に、ここにいる3名です」


「確証はないが、『蛇』とその一派も掴んではいるだろうな」


 未曾有の事態、そう形容するに相応しい事態だ。

 ユヅネがさりげなく机の上に広げた資料には、複数の目撃情報とその詳細、情報を参照した予測活動範囲などが記されている。

 この街はそう小さくない。中心街や工業地帯に加え、北の山脈や東の海、西の荒野に南の魔境。時と共に肥大化した夜の街のその規模は、下手な小国以上のレベルにまで達している。

 恐ろしいことに中心街は愚か、それらの区域の殆どは活動範囲の内側だった。

 無論、これはあくまでも予想の域を超えないことは理解しているが、目の前の二人の優秀さを嫌というほどその身に焼き付けてきたファルマイナにとって、それは殆ど事実を告げられたようなものであった。


「冗談であってほしいが…そういう訳もないか。確かに、ローデントはここに居なくて正解だったな…」


「そうだな。にしても、ここまで取り乱すファルマイナも久しぶりだ。応えたか?」


「取り乱してはいねぇっての」


「俺に対する上辺だけの敬語が外れてるぞ?」


「うぇっ?!最悪だ…」


 思わず頭を抱えるファルマイナ。そんな彼女の様子を見て、イロンドは豪快に笑った。


「ククク…ガッハハハハハ!!あ〜面白!」


「話の流れ的に、笑えるような状況ではないですよ会長…そんなんだからいつまで経ってもお見合いの話一つ来ないんです。少し自重して欲しいですが、まぁ会長のことですし無理は言いません」


「お前は勝手に話を進めて一人で納得してるんじゃないぞ。あと何でお見合いの話がここで出力されるんだ、おかしいだろう」


「あぁいえ、どうぞお気になさらず」


 よもやこんな事態だというのに、いつもと全く変わらないやりとりに、呆れを通り越してもはや安心感まで感じる。

 とは言え、冗談を言っていられない状況であるというのがファルマイナの本音である。


「こんな状況で漫才はよしてください会長。市場出禁にしますよ」


「ちょ、待て!早まるなファルマイナ!それは少し酷くないか?!」


「うるさいですね。話題が逸れたら戻すのが常識でしょう。今いろいろとやる事が立て込んでいて、すっごく忙しいんですよ」


「だそうですよ?会長」


「ユヅネ、言っとくけどアンタもだからな!」


「酷いですね、ファルマイナ」


 つくづく似たもの同士だな…と心の中で呟く。

 二人は反省したのかしていないのかは定かではないが、いくつかの資料を追加で取り出していた。どうやら、真面目に話す気になったらしい。


「まず最初に奴らの目的だが、これは不明だ」


「会長にもわからないことがあるなんて、驚きですね。まあ予想通りですけど」


 むしろ彼らの目的を割り出せたのなら、即座に叩き潰しに向かって今頃には事態は収束しているだろう。イロンドとは、そういう男だ。

 そんな彼がわざわざ直接会いに来るくらいなのだから、長期的かつある程度レベルの高いチームを組んで臨まなければならない案件であることがよくわかる。


「まぁまだ調査を始めたばかりだからな。今は不明点も多いが、調査の結果次第ではその限りではないな」


「先程述べた“有力な情報屋”の方々に会長の名前で依頼を出しています。現在、その三名の下で調査チームが組まれている最中です」


「なるほど」


「んで、奴らの出所…つまり今の今まで一体全体どんな場所に潜んでたのかについてだが、こっちにはアテがある」


「え、なんで?」


 場の雰囲気に見合わない、素っ頓狂な疑問の言葉。それは他でもないファルマイナの声であった。

 ファルマイナの疑問は最もだろう。かつてこの街とその他多くを巻き込んだ“大戦”における『異形の者』の末路は、知っての通りだ。

 しかし今回、『異形の者』は再びこの街にその姿を現した。それが意味する答えは「今まで人の目から逃れられる地で潜伏生活を送っていた」という事実ただ一つのみである。

 それがバレたならば彼らは終わりも同然であり、必然的に最も秘匿性の高い情報になることはまず間違いないのだ。


「それなんだが、それを説明するにはコイツを見てほしい」


 そう言ってイロンドが差し出してきたのは、一枚の写真。

 それはなんの変哲もない、中心街で行われる無駄に豪華なパーティーの、その会場の様子をカメラに収めたものだった。


「これは?」


「これは、約一ヶ月前に開かれた中心街のパーティーの会場の様子だ。それに『異形の者』が写っている。目撃情報を確信へと変える一助となった重要な証拠品だ」


 ファルマイナは驚愕しつつ、その写真をじっくりと観察する。しかし、彼女には違和感を全く感じ取れなかった。強いて言うなら、思ったよりも高い解像度の写真だなという感想を抱いた程度だ。パッと見では、異形らしい異形の姿は見当たらない。

 暫くの間手元の写真を凝視し熟考していたが、とうとう分からなかった彼女はギブアップし、結局イロンドに尋ねることにした。


「会長。まったくわからないんですけど」


「まぁ、だろうな。俺もそうだし」


「は?」


 思わず手を出しそうになる自分をなんとか静止し、会長を問い詰める。感情はなんとか押し殺していたはずだが、会長の顔は真っ青になり、口の端が引きつっていた。


「まてまてまて!落ち着けって!これだけ見せられたんじゃ普通はわからないんだよ!」


 慌ててファルマイナを制止したイロンドは、もう一つ別の写真を取り出す。

 その写真にあったのは、先程の写真とは打って変わって証明写真のように正面から撮られた、知らない人物の写真であった。


「これは?」


「まぁとりあえずその2枚を見比べてみてくれ」


「ふむ。ああ、パーティー会場で酒を飲んでますね」


 ファルマイナは、2枚目の写真に写っている人物が1枚目の写真に映り込んでいるのを見つけた。パーティー会場の中央に近いテーブルで、優雅に赤ワインを楽しんでいる様子だった。


「そう、それだ」


「で、コイツが何かあるんですか?もしかして、コイツが裏切者とか内通者とかの類で、ひっ捕えて奴らの居場所を吐かせたとかだったりするんですか」


 この状況から言えば、この答えは最もらしいものだろう。

 しかし、イロンドの答えは違った。


「コイツは死人だ。調べたところ、約20年前にセクヴォノ広野で遺体の状態で発見されたらしい。大火葬事(だいかそうじ)で他多くの遺体と共に火葬されたはずだが………どうやら、その後から同じ顔の人間が中心街で籍を置いたらしいことがわかった」


 その回答を聞いたファルマイナは結論を聞くまでもなく、もう既にその事実を悟っていた。

 イロンドは彼女に対し、その答え合わせをするかのように次の言葉を放った。


「『異形の者』は、()()()()()()()()、この夜の街に潜んでいる。」

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