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中継市場、待ち伏せ


 『クラシックネオン・アスタータウン』の北西部。

 そこには、巨大な工業地帯が広がっている。

 外観の殆どはサビと汚れで(まみ)れており、ここで働く大勢の人間がいなければ廃墟にしか見えないだろう。鈍い金属音と濁った機械音が混ざり合い、排気管から熱気と白煙が溢れ出る。意外にも匂いはあまり気にならない。

 『修理屋』は、そんな騒がしい工業地帯を軽い足取りで今日も進む。


 現在時刻は朝の8時。


 夜の街の枢核は、夜ならずとも脈打っていた。


 『アスタータウン(この街)』は夜の街として知られているものの、その実態は混沌とした実利主義の経済社会だ。

 “実物”を重要視し、自らの目で見て、自らの手で取引する。『貸し借り』などという実体のない契約は、個人的な繋がりにのみ見られるという、実に奇妙な価値観で支配されていた。

 その価値観の影響か、大抵の取引における金銭のやりとりは『前金』と『最終報酬』の二つに分けて行われる。


 『前金』を受け取らない取引を好む人間など、この街では彼女以外存在しないだろう─────。


 それはさておき、工場や街工房は“物を作り出す場所”である為に、その価値が非常に高い。何せ、この街の経済の核なのだから。

 ただ、中心街のお偉い方は無駄にプライドは高いために「街の雰囲気を崩さないため」などと言って街の中心部から離れた位置にその多くは存在する。そして最終的に工業地帯に流れ着くのだ。

 ある意味では完全に区分けが為された効率社会のように見えなくもないが、その欠点を放置しているところはまさしく“夜の街らしい”と言えるだろう。


 『修理屋』を営む彼女としてはこの上なく便利だったが、一部の者は不当に街を追われたことに不満を抱いているのも事実だ。

 実を言えば、彼女の存在がこの工業地帯の反発を抑え込んでいる要因の一つではあるのだ。が、彼女はそう言ったことに無頓着である為、その事実を認識していない。


 しかして夜の街の価値観はよく理解している。

 工業地帯に住まう者達の不満も知っている。

 そんな彼女が始めたビジネスは、この夜の街では不可欠な存在へと昇華していた。


 中継市場『クラッシュクラウン』、その管理人。

 『修理屋』の表の顔である。



 ◆



 中心街と工業地帯の間には、二つの区域を隔てる様に大河が流れており、中継市場『クラッシュクラウン』はその中心街側の岸に店を構えている。河には巨大な鉄橋が渡っていて、そこから一本の道がまっすぐ中心街へ向かって伸びている。中継市場は西の大広場と北の商業棟2棟があり、その道路をそれぞれの建物が両側から挟む様に建てられている。

 今日の夜は、大広場で月に一度の大規模オークションが開かれる。その会場準備のために、多くの者が忙しなく働いていた。


 『修理屋』は男から依頼を受けた後、工業地帯の自宅兼工房に例の外来品を置き、ここ中継市場へと足を運んでいた。

 「事業の発足人で市場の管理人でもある自分が、顔を出さないなどあってはならない」というのが彼女なりの考えである。

 大忙しの大広場の中、人混みの中心でテキパキと指示を出すその男に『修理屋』は声をかけた。


「ローデント、調子はどうだ?」


「姉御!来てたんですか!」


「様子見にね。依頼が入ったから暫くは来れなくなるけどね〜」


「ああ、なるほど。今日はその調整ですね?」


「流石、わかってるじゃないか」


「今は手が離せませんので、終わり次第そっちの準備をします。副棟の執務室で待っててください」


「りょーかい。じゃ、頑張ってね」


 そんななやりとりをし、ローデントに言われた副棟執務室へと向かう。道中、オークションの関係者が何人かいたので適当に指示しつつ、執務室へと入る。

 ローデントが来るまでの間、何か暇を潰すつもりでいたがどうやらその必要はなかったらしい。彼女は開口一番、「げっ」と嫌そうな言葉を漏らした。


「久しぶりに顔を合わせたと思ったら、開口一番なんて反応だ。酷いぜ?ファルマイナ」


「会長、嫌われてるんですよ。少しはその岩の様に固まった表情筋をほぐす事ができればなんとかなるかもしれません」


「ひでぇなオイ。お前も隙あらば毒を吐くのをやめろ、傷つくだろ」


 執務室に入った折、『修理屋』ことファルマイナの耳に届いた愉快な会話。それは執務室の中で待ち構えていたその二人の男女のものだった。

 そしてファルマイナは思いっきり顔を顰めた。


「なんで会長がいるんです…まさか、ローデントに嵌められた…?」


「あー、ローデントには以前から少しばかり“指示”を出しててな。悪く思わないでやってくれ」


「会長も性格が悪いですね。前時代の遺物の我儘に付き合わされるローデント君に同情します」


「ひでぇ!せめてもっとマシな表現をしろ!」


「では、『山のボス猿』なんかどうです?お似合いでしょう」


「まだゴリラと呼ばれた方が人の暖かみを感じるわ」


「会長にゴリラと呼ばれて喜ぶ趣味があったなんて…軽蔑しますね」


「ああ言えばこう言うやつだな!」


 目の前の、ガッチリとした体格に髭を生やした『会長』と呼ばれる男は、イロンド・イズティアーツ。この夜の街最大の商会の経営者であり、商会連のトップ。同時に『金貸し屋』でもある。

 そして、そんな会長の三歩横に立つ華奢な体格の美人は、ユヅネ・グリアドーム。書記官で、会長の秘書を務める。非常に優秀な人材だが、日常的に毒を吐くのは玉に瑕である。


「で、結局なんでここにいるんです?ローデントに出した“指示”ってのは一体なんのことですか」


 二人の漫才を他所に、割り込んで質問する。

 すると、会長は待ってましたと言わんばかりにこちらに向き直り、ニッと笑って話し始めた。


「そうそう。そのことだが、お前があの『(へび)』から依頼を受けたことは知っている。内容も含めて、な」


「勿体ぶらずに話してください」


「『蛇』は俺の所にも来てな」


「読めましたよ。書類にあった共同遂行者というのは会長のことですね?」


「もっと言うなら、俺とコイツ、そしてもう一人だ」


「なるほど。ローデントですか」


「そうだ」


 何故このような面子(メンツ)なのかは謀りかねるが、なんにせよ面倒な予感がプンプンする。

 しかし彼女は依頼を受けた身であり、今更却下するのも(はばか)られる

 ファルマイナにできるのは、この状況を甘んじて受け入れ、頭の中を整理するために質問を繰り出すことだけであった。


慣れるまでは、だいたい一話につき2000文字程度で続けようかと思っております。

なるべく定期的に更新できるよう頑張ります。

更新日は、日曜日の夜10時です。

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