残響の街 中編
病院の一角、緊急処置室は叫び声と機械のビープ音が入り混じり、混沌とした空気に包まれていた。
白石梨奈は忙しく動き回りながら、スタッフの声に耳を傾けた。
「梨奈さん、次の患者さんが重症で……輸血も薬も足りなくて」
若い看護師・松井が息を切らしながら報告する。
梨奈は眉間にしわを寄せた。
「わかった。優先順位をつけるしかないわね。助かる見込みが高い患者から処置を始める」
しかし、その決断はスタッフの心に重くのしかかっていた。
同僚の看護師・川原が疲れた声でつぶやいた。
「こんな時に判断なんて……誰もしたくないよ」
梨奈は彼女の肩を軽く叩いた。
「私たちは医療の現場にいる。目の前の命を救うために最善を尽くすしかない」
ふと、隣で処置を受けている小さな男の子の手を握りしめた。彼の目は怖れに満ちていた。
「大丈夫、私がいるよ」梨奈は微笑んで優しく囁いた。
その瞬間、隣の看護師・高橋が声を荒げた。
「もう物資が尽きる!薬も包帯も、どうすればいいんだ!」
スタッフたちの顔に疲労と絶望が広がる。
だが梨奈は深く息を吸い、声を強めた。
「諦めないで。今ここにいる全員が力を合わせれば、何とかなる」
悲鳴のような患者の叫び、涙を流すスタッフ、すべてが交錯するなか、梨奈は全員の命を繋ごうと必死だった。