孤高の空 後編
後編
燃料計の針が限界に近づく中、颯真は決断を下した。
「佐伯、副操縦士、海上に不時着水する。全員の安全を最優先に指示を出せ」
副操縦士はすぐに操縦席を支えながらアナウンス用のマイクを手に取った。
「皆様、こちら機長の天城です。緊急事態が発生し、目的地空港への着陸が不可能となりました。安全のため、海上への不時着水を行います。落ち着いて指示に従ってください」
乗客席からはざわめきが起きる。だが、CAたちが迅速に救命胴衣の着用と避難準備を指示し、場を落ち着かせていく。
颯真は手に汗を握りながら操縦桿を握った。
「波の状態は?」
モニターに映る波高は比較的低い。奇跡的な好条件だ。
「風速も安定、これは最善のチャンスだ」
機体が徐々に高度を下げていく。海面が近づき、波の細かい動きがはっきりと見える。
「着水まであと30秒。全員、安全を祈れ」
激しい衝撃が機体を包み込んだ。水しぶきが窓を叩き、機内に緊張と静寂が訪れる。
機体はゆっくりと海面に滑り込み、しばらくの間は揺れながらも浮かび続けた。
救命ボートが展開され、CAが乗客を誘導していく。颯真は座席のベルトを外し、冷静に緊急手順を確認していた。
だが、自分はまだ動けなかった。背中に激しい痛みが走り、意識が遠のく。
数時間後、海上保安庁の船が駆けつけた。乗客全員が無事に救助され、歓声と涙が入り混じる。
しかし、機長席には颯真の姿はなかった。