神託の檻と運命の書(しんたく の おり と うんめい の しょ)
「未来は、与えられるものではなく、奪い取るものだ。」
神域アストレイア、第三階層。
カズキ、エリス、そして初代勇者アーセルは
巨大な“螺旋の書庫”に足を踏み入れた。
壁一面が「運命の書」で埋め尽くされ、空には星図のような記号が浮遊している。
空気は冷たく、そこにいるだけで“自我”が削られるような感覚。
「ここは、“未来の記録”が刻まれる場所。
人も、国家も、死さえも“台本通り”に動かされる。」
そう語ったのは、彼らを迎えた一本の黒羽を持つ男。
人ではない。神でもない。
——神託管理者《ヴァイ=ノート》。
「よく来た、異端たちよ。」
ヴァイは指を鳴らすと、空間が震えた。
《試練開始:運命照合》
内容:対象者の未来を“開示”し、現実に適合するかを判定
不適合と判断された場合、自我は“記録”に書き換えられる
空間に“運命の書”が浮かび、ページが自動的にめくれていく。
【早山カズキの記録】
— 神域で精神崩壊。
— 第四階層にてエリスを誤って殺害。
— 絶望により深淵へ堕ち、“偽神”と化す。
— 世界を崩壊させ、最終的に自己消去。
「な……これが、俺の未来……?」
「違う、これは——!」
「これは、最も“確率の高い”未来だ。」
ヴァイは微笑む。
「未来とは選択ではなく、命令。
お前の魂がそう記録された以上、お前の“意思”では変えられない。」
その瞬間、カズキの体が重力を失い、意識が引きずり込まれる。
“運命の牢獄”に閉じ込められたのだ。
エリスが叫ぶ。
「カズキ様——!!」
が、彼の姿は霧の中へ消えていった。
■視点:カズキ(精神牢獄内)
彼は、深い暗闇の中にいた。
目の前には、過去に救えなかった人々の幻影。
— 自分を信じていた村人
— 戦場で命を落とした少年兵
— そして、血まみれのエリスの姿
「これは……“もしもの俺”が辿った未来……?」
「お前は何度でも失う。誰も守れず、孤独に堕ちる。」
頭の中に、無数の声が響く。
——でも。
その中で、ひとつだけ違う声があった。
「カズキ様、あなたの手を信じたい。」
エリスの声だった。
小さく、微かで、それでも確かに——“あのとき”の言葉。
《Sanctum Core:干渉開始》
《新コード生成中——》
カズキの胸元で、青白い光が瞬いた。
《スキル獲得:Sanctum Override(運命上書)》
効果:運命コードの再定義。既定の記録を拒絶し、独自の未来を走らせる。
「……未来が俺を決めるんじゃない。」
「俺が、“未来を選び直す”んだ!!」
叫びと同時に、運命の書が一斉に燃え上がり、空間が崩壊した。
カズキの体が戻り、目の前にいたヴァイの顔を睨みつけた。
「書き換えたのか……この俺の未来を。」
「そうだ。そして、今ここに宣言する。」
「俺はこの神域を越え、神々の“制御コード”を奪う。」
「もう誰も、“予定通り”には死なせない。」
ヴァイはしばし沈黙した後、静かに笑った。
「……良かろう。次の階層へ行くがいい。
ただし、そこから先は——“神すら拒んだ場所”だ。」