最初の勇者(ファースト・ブレイカー)
「始まりの光が、すべてを照らすとは限らない。時にそれは、最も深い闇を生む。」
神域アストレイアの第二階層——
そこには、巨大な水晶の中に封じられた男がいた。
白銀の髪。強く鋭い瞳。そして、胸元には古びた刻印が光っていた。
「俺の名は、アーセル=ヴェイル。
この世界で最初に“選ばれた勇者”。」
カズキとエリスは、目の前の存在がただ者ではないことを肌で感じていた。
その視線、その圧。
言葉にできない“格”が、確かにそこにあった。
「あなたが……初代?」
「そうだ。俺は最初の失敗であり、最初の“叛逆者”でもある。」
アーセルは語り始めた。
数百年前——
この世界で最初に“勇者召喚”が行われた。
それは、神々による“シミュレーション実験”の一環。
目的はただ一つ:
「この世界が、自己修復できる構造を持っているか」
神々は、世界が乱れるたびに“勇者”という修復プログラムを送り込んだ。
だが、アーセルはそれに気づいた。
「この世界の“壊れ”は、神自身が意図して作っていた。
世界を壊し、勇者を送り込み、“支配構造”を固定するためにな。」
だから、彼は拒んだ。
だから、彼は立ち上がった。
だからこそ、神々に敗れ、ここに封じられた。
「……じゃあ、あんたは、俺の敵か?」
カズキの問いに、アーセルは微笑む。
「いや。“同志”になり得るかどうか、試すまではな。」
水晶にひびが走り、空間が赤く染まる。
神域が自動的に“対話”から“試練”に移行する。
《神域階層試練・第二段階:継承者の試煉》
内容:初代勇者との“精神交差”
目的:記憶と魂の衝突を通して、真の意思を証明すること
カズキの意識が引きずり込まれる。
気づけば彼は、荒廃した大地に立っていた。
空は黒く、地面は血のような泥に覆われていた。
そして、目の前に一人の少年が座っている。
それは、まだ何も知らなかった頃の——アーセルの過去。
「これは……」
「そうだ。俺が“英雄”だった頃の記憶だ。」
—
過去のアーセルは、仲間と笑い、民を救い、国を支えた。
だが、ある日突然、神々が命じた。
「次の国家は、もはや不要。崩壊を促せ。」
断れば、彼の仲間は“強制削除”される。
受け入れれば、民は滅びる。
その中で、アーセルは“選べなかった”。
その結果——
国は崩壊し、仲間も、愛した人も消えていった。
「俺は、“どちらも救えない”と知った瞬間、英雄でいることをやめた。」
「だから、俺は——神を殺すと誓った。」
現実世界に意識が戻ると、アーセルの封印は完全に砕けていた。
彼は静かに立ち上がり、剣を天に掲げる。
「七番目の勇者、早山カズキ。
お前には、まだ“自分の願い”がない。」
「……え?」
「“誰かを守りたい”では足りない。
それは、神々の前ではただの“エゴ”にすぎない。」
「だったら……どうすればいい?」
「それを、これから見つけろ。
そして、もしお前がそれを“言葉”にできたとき——」
「俺は、お前の剣になる。」
そしてアーセルは、手を差し出した。
「さあ、“神を殺す旅”を共に始めよう。」
カズキはその手を取り、静かにうなずいた。