神域アストレイア ─ 楽園と試練
「神の世界は楽園ではない。そこは“完全さ”という名の牢獄。」
——目を開けると、そこは「天」にあった。
空が金色に染まり、重力の概念すら曖昧な浮遊都市。
街の形は幾何学的で、空に浮かぶ輪が中央に光を降らせていた。
ここが、神域アストレイア(Astraeia)。
天の果てに浮かぶ、神々の理が支配する領域。
この地に立ち入った人間は、世界史上でもカズキが初めてだった。
「ここが……神の世界……」
隣に立つエリスは震えていた。
肌に触れる空気が重く、呼吸するだけで魔力が削られる。
「これが、神の“圧”。」
「ようこそ、人の子よ。」
二人の前に現れたのは、純白の服を纏った少女の姿。
しかし、その瞳は感情がなく、まるで“機械”だった。
「我は神位第七階層、調律の女神。
君に与えられた使命を“査定”するために、ここに立っている。」
⚖️《神域試練・第一段階》
審問試練 — 「存在価値の証明」
試練内容:神の定めた問いに答え、存在を“正当”と認定されなければ即消滅
時間制限:6分
成否により、次の階層への進行権が決定される
「質問します。七番目の勇者、早山カズキ。」
「……」
「なぜ、あなたは“この世界を救いたい”と願うのですか?」
沈黙。
一瞬、答えが出てこなかった。
「……最初は、理由なんてなかった。
ただ、自分がそう“選ばれた”から、そうしようとしてた。」
「不適格。論理破綻。」
「でも今は——違う。」
カズキはレティアの目を真正面から見つめた。
「誰かが俺に“信じてる”って言ってくれた。
誰かが“生きたい”って叫んだ。
だから俺は、それを守りたい。」
「“選ばれたから”じゃない。“選び返した”から、ここにいる。」
レティアの瞳が、一瞬だけ揺れた。
そして、空間が震える。
「判定終了。存在価値——“確定”。」
《試練・第一段階クリア》
その瞬間、足元の大地が割れ、彼らは次の領域へと落ちていく。
彼らが落ちたのは、神域アストレイアの第二階層。
そこは、古代遺跡のような大地でありながら、空に星々が浮かび、重力すら定まらない。
そこには——
巨大な水晶に封じられた一人の男がいた。
白い髪、鋭い目、そして背に刻まれた聖印。
「……やっと、来たか。“七番目”よ。」
「……お前は?」
男は不敵に笑った。
「俺は、初代勇者——第一の“光”だ。」