英雄対終焉の勇者(コード・ゼロ)
「世界を救うとは、破壊することと何が違うのか。」
深界の塔、最上層。
重力も音も常識も失われた空間で——ふたりの“勇者”が対峙していた。
一人は「現在」、もう一人は「過去」。
光と虚無が、静かに交差する。
「はじめようか、七番目。」
リオ・アルカイン——かつての“六人目の勇者”は、薄く笑う。
「俺は、全てを経験した。
裏切り、虐殺、偽りの祝福、そして……“世界そのものの拒絶”。」
彼が足を踏み出すと同時に、空間が砕けた。
《スキル発動:Hourgrave(時葬領域)》
——時間が止まる。
動いているのは、リオとカズキだけ。
「この空間では、“希望”は意味を持たない。」
「……いいや。」
カズキの声が響く。
「希望なんて、最初から俺の武器じゃない。」
《スキル発動:Sanctum Rewrite》
世界が白く塗り替えられた。
“時”の法則が、一時的に書き換えられる。
——止まった時間の中で、ふたりは動き続けた。
リオの剣が振るわれる。
一振りで空間が裂け、法則が崩壊する。
だがカズキはそれを真正面から受け止め、指先から光の刃を放つ。
《Sanctum Edge》
激突。
衝撃波が塔の外まで響き、下で待機していた騎士団たちが震える。
「……すごい……」
エリスは震える手で祈りながら、ふたりの姿を見上げた。
再び、虚空の中へ。
カズキの胸にリオの剣が浅く届いた瞬間、
過去の“記憶”が流れ込んできた。
——リオが信じていた人々。
——リオが守れなかった国。
——そして、彼が“殺すしかなかった”少女。
「……お前も……同じだったのか。」
「……ああ。俺も、“守れなかった者”だ。」
カズキは剣を下ろした。
「だが、だからこそ、もう一度立てるんだ。」
リオの目が揺れる。
「……なぜ、お前はまだ“立ち続けられる”?
この世界に希望なんて、もうないのに!」
「誰かが俺に、“信じてる”って言ってくれた。」
その瞬間、エリスの祈りの声が空間に届いた。
「……カズキ様、どうか……どうか、あなたの光で……」
⚠️【聖域コード更新中】
•【新スキル獲得:「Radiant Core」】
効果:光属性の魔力を意志により具現化。
制御限界を突破することで、選択された“未来”を現実に変える。
「……俺は、ここで“終わらせる”。でも——」
カズキは剣を構える。
「終わるのは、“この戦い”だけだ。お前じゃない。」
一閃。
光が、空間を貫いた。
リオの剣は砕け、彼の身体が後方に吹き飛ばされた。
倒れたリオを見下ろし、カズキは手を差し伸べた。
「終わりたいなら、終われ。
でも……生きたいなら、俺がその先を見せる。」
——長い沈黙の後、リオは笑った。
「……君は、俺の“理想”だったのかもな。」
その夜。
深界の塔の裂け目が閉じ、空に初めて“青”が戻った。
塔の外に集まった兵士や民たちが歓声を上げる。
だが、カズキはそれを背に歩き続けた。
「……これで、終わりじゃない。」
そう。これは、まだ“第一の扉”にすぎない。
遥か彼方、天上に座す“創造神アストリス”がその姿を見つめていた。
「さて、次の試練に進もうか。
七番目の失敗作が、少しばかり面白くなってきた。」
つづく…