失われた英雄(コード・ゼロ)
「英雄は、必ずしも世界を救うとは限らない。時に、世界を終わらせるために選ばれる。」
深淵の王「ルヴァンタ」との戦いが終わった夜、空には裂け目が残ったままだった。
街の人々は震え、兵士たちは帰還の準備に追われていたが——
ただ一人、カズキだけがその“警告”の意味を理解していた。
《⚠️ 新たな存在が覚醒しました:Code: Zero ——失われた勇者、第六の者、復活》
「……コード・ゼロ」
カズキは小声でつぶやいた。
それは、かつてこの世界に召喚された6人目の勇者。
彼は“世界を救えずに消えた”とされていた存在。
だが本当は——消えたのではない。
封印されていたのだ。
その夜、エリスの手当てを終えたカズキは、王都への帰還を断り、一人で「深界の塔」へ向かう決意をした。
そこは、神に近づこうとした禁断の塔。
そしてかつて、6人目の勇者が行方を絶った場所でもある。
「止めても無駄なんだろうな。」
エリスは微笑みながら言った。
「うん。でも……俺が行かなきゃ、また誰かが死ぬ。」
「じゃあ……私も行きます。」
「え?」
「あなたを一人にはしません。だって——
あなたはもう、“一人の命”じゃないから。」
その言葉は、カズキの心の奥に静かに響いた。
数日後、深界の塔の麓にたどり着いた二人を出迎えたのは、
漆黒のローブを纏った一人の男だった。
銀の髪、切れ長の瞳、そして背中から伸びる黒い羽根。
「……やっと来たか、“七人目”」
男は、笑っていた。
「俺の名は《リオ・アルカイン》。
この世界が“お前を殺すために作った勇者”だ。」
■【Code: Zero】
名前:リオ・アルカイン
クラス:終焉の勇者(Endbringer)
属性:虚無(Null)
スキル:
・Null Script — あらゆる魔法を無効化するコード
・時間停止領域「Hourgrave」
・自我分離/精神同調
「……お前が“失敗した”勇者か。」
「いいや、俺は成功したよ。
“この世界の真実”を知ることに成功したんだ。」
リオは、塔の中へと姿を消しながら言った。
「来い、カズキ。
ここで終わるぞ、“お前の物語”が。」
塔の中は、まるで宇宙空間のように現実感がなかった。
重力は歪み、時間がねじれ、エリスの声が遠くなる。
やがて——カズキの前に、虚空の玉座が現れた。
そこに座るリオが、冷たく語る。
「この世界は、“神々の実験場”にすぎない。
人間も、国も、愛も、正義も——全部、観察対象なんだよ。」
カズキは目を見開く。
「……ふざけるな。」
「君ももう、気づいてるはずだ。
この“Sanctum”という力が、“創造主コード”の一部だってことに。」
リオが右手を掲げた瞬間、塔の空間が開かれた。
そこには、膨大な数の“召喚システム”が浮かび上がっていた。
それは、過去のすべての勇者を作り出してきた“原初の設計図”——
⚠️《創造コード「PROTO-SCRIPT」接続中》
リオが言う。
「選べ。お前がこの世界を守るなら、俺が全てを壊す。
でももし——“終わらせたい”と思うなら。
一緒に、この世界のコードを書き換えようじゃないか。」
カズキは、拳を握る。
「世界を壊すことは、もう誰かのせいにはできない。」
「でも……俺は、“信じてくれた誰か”のために、立ち続ける。」
その瞬間、カズキの背後にエリスの声が響いた。
「カズキ様、あなたは……あなたのままで、いてください。」
そして——
カズキの中の“Sanctum”が共鳴した。
【新スキル解放:Sanctum Rewrite(聖域改稿)】
効果:存在そのものを上書きし、現実法則を一時的に書き換える。
「——リオ、俺はお前を止める。」
「ならば、終わりにしよう。“神に抗う者”として。」
つづく…