深淵の王、現る
「世界の終わりは、必ずしも“悪”のせいとは限らない。時に、それは“希望”の名を持って現れる。」
カズキは、エリスと共に王都を出発した。
彼らの目的地は、北方に位置するかつての魔導都市「グレイヴァル」。
そこには古代の結界があり、封印されていたはずの災厄——**深淵の王**が目を覚ましたという。
同行するのは、王国最強の騎士団「銀翼の誓い」、総勢二百名。
しかしその目の多くは、カズキではなく、その背中を警戒していた。
「……監視ってことか。」
馬車の中でつぶやくカズキに、エリスは静かにうなずいた。
「あなたが再び“あれ”を使えば、味方にも被害が出ます。…怖がるのも、無理はありません。」
「……それでも、行かないといけない。」
「たとえ、この命令が“俺を処分するための舞台”だとしても。」
旅の途中、夜の野営地。
カズキはひとり、焚き火を見つめていた。
そこに、鎧の音と共に一人の男が現れる。
「勇者殿。少し、お話を。」
鋭い金の目、白銀の髪、鋼のような佇まい。
それは「銀翼の誓い」の副団長、ヴェルキオンだった。
「お前には…聞きたいことがある。」
カズキは立ち上がる。
「なんだ。」
ヴェルキオンは目を細め、低く言った。
「お前は、本当にこの世界を“救う”ために来たのか?」
カズキは言葉を返さない。
「昔な、俺は“光の勇者”の末裔と呼ばれた血筋に生まれた。
でも、気づいたんだ。この“勇者の物語”は、何度も繰り返されている。
そのたびに世界は少しずつ壊れていった。」
「繰り返し…?」
「そうだ。お前は“何人目”か知っているか?
この世界に召喚された“光の勇者”は、これで——七人目だ。」
カズキの心臓が一瞬止まるような感覚を覚えた。
「そして、全員が…この世界を救えなかった。」
その夜、カズキは眠れなかった。
「七人目…?俺は…また同じ結末に向かっているのか?」
寝台に横たわるエリスが、彼の不安を察したようにそっと言う。
「違います。あなたは“彼らと同じではない”。
だって、あなたは…自分の力に、怯えている。」
カズキは振り向いた。
「……それが、希望になるのか?」
エリスは微笑んだ。
「はい。私は、そう信じています。」
そして三日後、彼らは目的地「グレイヴァル」に到着した。
そこには、空に巨大な裂け目が現れ、黒い霧が町を包んでいた。
兵士たちが進もうとした瞬間——
「来るな。“光”の者よ。」
地の底から響くような声が、すべてを揺るがせた。
「我は深淵。すべてを拒む影なり。
かつて我を封じたのは、貴様らの“希望”。
だが今…その希望が、自ら崩れ始めた。」
黒い霧の中心に、六本の腕を持つ巨躯が姿を現した。
「——我が名は、ルヴァンタ。」
騎士たちは震えた。
エリスは叫んだ。
「カズキ様!逃げてはなりません!」
だが、カズキの目は、恐怖ではなく冷静な決意に満ちていた。
「わかってる。」
彼はゆっくりと手を前に出す。
「Sanctum:解放」
白く輝く魔法陣が、彼の背後に浮かび上がった。
しかしその時、再び青いシステムウィンドウが現れる。
⚠️ 警告:リリースレベルが基準値を超えました。
⚠️ この術式の使用により、対象半径50メートル以内の味方を巻き込む可能性があります。
それでも、カズキは足を止めなかった。
「俺は…やり方を、変える。」
彼は魔法陣の構造を変え始める。
破壊ではなく、集中型の一点照射型へ。
「俺が壊してきたものの意味を…ここで変える。」
そして、放たれた一筋の光。
それは闇を裂き、空を貫き、
ルヴァンタの片腕を消し去った。
兵士たちが息をのんだ。
エリスが涙を流す。
ヴェルキオンが呟いた。
「あの男…本当に、何かを変えるかもしれん…」
だが、その瞬間。
カズキの背後に、もうひとつのシステムウィンドウが出現する。
⚠️ 新たな存在が覚醒しました:
「Code: Zero」——失われた勇者、第六の者、復活。
つづく…