表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/14

この世界が僕を拒む理由

「“光”は希望ではない。“光”は時に、すべてを焼き尽くす。」







辺境の村を襲ったシャドウビーストとの戦いから二日が経った。


城に戻ったカズキは、部屋に閉じこもったまま、誰とも口を利かなかった。

いや、正確には——誰も彼に近づこうとはしなかった。


廊下を歩く侍女たちは彼を見ると足を止め、目をそらし、震えた。

兵士たちの間では、「光の勇者は味方をも焼く」と噂され、

彼が通るたびに空気が凍りついた。





「カズキ様、お食事をお持ちしました。」


ノックの音と共に、静かな声が響く。

扉の向こうから、どこか聞き慣れない少女の声だった。


「…いらない。」


それでも扉は開かれ、盆に乗せられたスープとパンが静かに机に置かれる。

少女は顔を上げず、そっと言った。


「あなたが“災厄”なんかじゃないって、私は信じています。」


その声に、カズキの指がピクリと動いた。





「お前、名前は?」


少女は少し驚いた顔で振り向き、微笑んだ。


「エリスと申します。王立神聖教会の…見習いです。」


「なぜ、俺を信じる?」


「……理由なんて、ありません。

でも…あなたの光は、確かにシャドウビーストを消し去った。

それは誰にもできなかったことです。」


彼女の目は曇りなくまっすぐだった。

カズキはその純粋さに、少しだけ戸惑いを覚えた。





その夜、久しぶりにカズキは夢を見た。


赤い空。焦げた地面。崩れた塔の上に、彼は立っていた。

足元には、焼け焦げた王冠。

その奥に倒れているのは——あの少女、エリスだった。


「……っ…!」


目を覚ました時、汗が額から滴っていた。


彼はまだ、息をしていた。

この世界に、確かに“存在していた”。





翌日、カズキは久々に訓練場に立った。


兵士たちは遠巻きに彼を見ていたが、エリスが傍にいることで、何とかその場の空気は保たれていた。


「お前、戦えるのか?」


「見た目ほど弱くはありませんよ、勇者様。」


そう言って、彼女は杖を構える。


しかしその杖は、魔力ではなく、音を生み出した。


空気が揺れる。風の音が魔法陣となって地を走る。


「音魔術…?」


「はい。わたしの一族にだけ伝わる、音を“視る”力です。」


それは、かつてカズキがいた世界には存在しない“感覚の魔法”だった。


彼は初めて、この世界に興味を持った。





訓練後、二人は図書塔に足を運ぶ。

そこには、封印された古文書が並んでいた。

その中に、カズキの名に関する記述があった。


「光の勇者が現れし時、世界はその運命を問うだろう。

選ばれし者が光で満たせば世界は再生し、

焼き尽くせば、全ては虚無へと還る。」




カズキは本を閉じた。


「俺は…世界を救う鍵か、それとも…終わらせる鍵なのか。」




エリスは静かに言った。


「カズキ様。運命は、選べます。」





その夜、王から召集命令が下る。


北の空に、第二の黒き災厄が現れたという。

その名は——


「ルヴァンタ:深淵の王」




王は言った。


「お前の力がなければ、人類は終わる。だが…もし、また味方を傷つけたら…」


背後で騎士たちが剣に手をかけた。


そして、王は冷たく続けた。


「そのときは、我々が“勇者”を斬る。」





つづく...

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ