6話目 仲間、急募
「……誰も来ないね。」
「いいやきっと来るはず!ここは駆け出し冒険者の町なんでしょ?じゃあ前衛職の一人や二人来るはず!」
昨日の件でまともな前衛がいないキツさを学んだ俺は、ギルドの掲示板で仲間を募集していた。
「いやぁ来るかなぁ……だって自分でも言うのもなんだけど、すぐスキルを使えなくなるウィザードと初心者ビジターのアリサカくんだよ?態々こんなパーティに来てくれるかなぁ。」
掲示板のパーティーメンバー募集の板に俺の書いた紙が貼ってある。
『パーティーメンバー急募!
上級魔法を使用できるウィザードのいるアットホームなパーティです。入りたい人はギルドの……』
うん、完璧だな。嘘は言ってないし。でも何故かみなこっちを覗いた後すぐ逃げてくな。
旅行から帰ってきてに冷蔵庫開けたら賞味期限切れた牛乳入ってた時みたいな顔てるし。
「アリサカくん、今更言うのもあれだけど、私ここにいる冒険者の大体のパーティに入ったことあるからね。地雷として認知されてるから誰も来ないと思うよ?」
「おまっそれ早く言えよ!成程だからみんな一目見て帰っていく訳だわ!」
てか俺なんでこいつに付き合って冒険者してんだっけ。
なんか面倒くさくなってきた。
確かに転生するときは浮かれてたけどさ、自分の性癖に合致した体になれるって。けどしたらしたらで何よこれ。百合だとか、それ以前に生きていくのが大変だとか考えてなかったな。
いやまぁ普通なら何かしらチートみたいな力もらえるんだろうけどさ。
そうナーバスな気分になっていると、背後から声をかけられた
「パーティーメンバーを募集しているというのはそこのお二方でしょうか?」
「ああはいそうです!もしかして参加希望者の方でしょうか!?!?」
ピシッと姿勢を正して振り向くと、随分高そうなシルクハットを被った糸目黒髪ショートの女性がいた。
真っ赤なネクタイをしていて、胸ポケットには羊の刺繍がされている。
今にでも手品を披露してきそうな見た目だ。
「……もしかしてマジックとかできます?」
「ええできますよ。なんせわたくし、マジシャンですから。」
そう言いながら彼女は頭のシルクハットに手を入れた。
「……あれ?こっちだったかな……ああ、ありましたありました。」
するとシルクハットからはするするとステッキが出てきた。
どうやって帽子からその長さ出てくるんだ?
「種と仕掛けしかございません、と。
ご覧いただいた通り、わたくしはマジシャンのデッカード・レイチェルです。
以後お見知りおきを。あ、シルクハットとステッキ確認してみます?」
「なぁ、マジシャンって冒険者のジョブなのか?ただ手品できるだけの一般人だったりしないよね。」
俺は疑問をこっそりとシェロに投げかけた。
「ああ、れっきとした冒険者のジョブだ。
味方への補助だったり相手への弱体化をさせたり、場を乱すようなスキルで戦況をこちら向きにさせてくれるジョブだよ。
何故冒険者のジョブにあるのかはほとほと疑問だがね。」
成程、ド〇クエの遊び人的立ち位置か。
補助魔法が使えるのなら、俺でもそこそこ近接戦ができるようになるかな。
「ちなみにスキルとかって何使えます?」
「そうですねぇ、バフ・デバフ系統は大体全て取得してたと思いますよ。
これ、冒険者カードです。」
「ああ、どうも。」
デッカードさんがひらりと動かしていた指の間に、いつの間にか挟まっていたカードを受け取り、スキルが表示されるページを開く。するとシェロが覗き込んできた。
「ふむ……ん!?アリサカくんちょっと貸してくれたまへ!」
「えっ私まだ一文字も読めてないんだけど。」
俺からぶんどったデッカードさんの冒険者カードを、シェロは食い入るように見ていた。
「アリサカくんこれ凄いよ!
味方への筋力強化、高速化などのバフは勿論、相手への魔力操作の精密性ダウンや強制的に筋肉痛を起こさせるやつ、私が本で見かけたマジシャンのスキルは全部乗ってるんじゃないかなこれ!
デッカードくん、君をパーティーメンバーとして迎え入れようではないか!」
「どんどん一人で決めてくじゃん。私パーティにいるかこれ。」
「いるに決まってるじゃないか。
君が居なくなったら空腹の私をおぶる人がいなくなるだろう?
あ、すまないデッカードくん。まだ自己紹介をしていなかったね。
私はウィザードのベシル―ト・シェロ、気軽にシェロと呼んでくれたまえ。
それでこっちの白髪の子が駆け出しビジターのアリサカ・トオルくんだよ。」
「どうも、まだ二個しか依頼を受けた事のない新人ビジター有坂です。」
なんか一人で決められた感があるけど、どっちみちこのパーティに入ろうとしてくれた時点で追い返すことはなかったしいいかな。
逆に逃げられたらとっ捕まえてたとこだった。
「ええ、こちらこそよろしくお願いします。アリサカ様、シェロ様。わたくしのこともレイチェルと呼んでいただいて大丈夫ですよ。」
――――――
新参のレイチェルさんを連れて、俺らは洞窟内へとやってきていた。
依頼は『ケーブスパイダーの糸採取』。なんでも湿気の多い洞窟に生息しているらしく、その影響ですぐに蜘蛛糸がしけらないよう頑丈になっていて服などに使えるらしい。
単純に強度の高い糸とかそりゃ需要あるよな。
「てかそこそこ奥まで来たはいいけど私達明かりないな。
もうなんもなしじゃ前見えないぞこれ。シェロ、杖貸して。」
私のファイアなら火力低いし、松明代わりになるしょ。」
「分かったよ。杖がないと多少魔術の命中率が落ちてしまうかもしれないが、私はこれでも5年以上ウィザードをしている身だ。
杖がなくとも魔術くらい当てられるさ。」
シェロから杖を受け取ろうとしたとき、レイチェルさんの「ナイトビジョン。」の声で急に周囲が深夜に部屋の電気を消してみているテレビ並みに明るくなった。てかちょっと眩しい。
「そのような必要はありませんよ、お二方。暗視のバフをかけました。
これならシェロ様も杖を持ったまま探索できるでしょう。」
「おお、早速凄いねレイチェルくん!本当このパーティに来てくれてありがたいよ。
君が居なけりゃ、明日には二人そろって河原で野宿する羽目になってただろうね。」
気のせいかもしれないが、レイチェルさんが誇らしげに笑っているように見えた。
この人意外と可愛いな。好き。
暗視バフの恩恵はすさまじく、十分もしないうちに目当ての蜘蛛の巣を見つけた。
こっから予め貰っておいたクソデカ糸巻きで地道に巻いていく作業の開始。
「私がこれで蜘蛛の糸を取ってくから、シェロとレイチェルさんは周りを見てケーブスパイダーが来てないか確認をお願い。
ここ先が行き止まりだし、見つかったら私ら逃げれないしね。」
「承知しました。この凄いマジシャンのレイチェルが目を離さず見張りましょう。」
「レイチェルくんが目開いてるとこまだ見てないけどね、私。それ前見えてるのかい?」
「見えてますよ、ただ天才糸目マジシャンなだけです。」
なんか段々自己評価上がってってるなこの人。
糸の回収は意外とすんなり終わった。
特にモンスターが来るわけでもなく、ハプニングもなく無事全て巻けた。
途中からシェロ寝てたけど。
ぐうぐうと眠っているシェロの肩を揺らす。
「あのーシェロさーん?もう糸回収できたんで帰りますよー?」
「んあっ、あー……。はっ!
寝てない!私は断じて寝てはいないよアリサカくん!
ただ少し目を瞑ってただけだ!
偶々その場面を君が発見しただけで私は君が糸をグルグルしている間しっかり見張ってたもんね!」
「途中からめっちゃ寝息聞こえたけど。なんなら寝言聞こえたし。
『わーバケツプリンだー!』じゃないよアホンだら。」
「アホじゃないよ!あっちみてみなよ!
レイチェルくんだって目を瞑ったまま微動だにしてないぞ!
もしかしたら立ったまま寝てるかもしれない。
そこは彼女もしっかり起こしてあげなきゃダメじゃないか。
振り返った時二人とも目を瞑ってたのに何故私を選んだのか……。」
うんこいつ一生喋るな。無視しよ。にしても本当に動かないなレイチェルさん。大丈夫かこれ。
「大体寝ちゃうんだって仕方ないじゃないかこんな~~~」ナントカカントカ
「あのーレイチェルさん?」
「……………………。……!」
「あっもしかして寝てました?」
「いえ、言った通り目を離さず見張っておりましたよアリサカ様。
この天才マジシャンが見張り最中眠るわけないじゃないですか。
そのような戯言も今回だけにしてくださいね。」
「あ、うん……え今戯言って言った?戯言って。」
「すみません、よく分かりません。」
「siriかよ!」
「ねぇちょっとアリサカくん聞いてるのかい!?
この私がせっかく敵が来てるよと話してあげてるのに、なんで聞いてないのさ!!」
こいつはずっとうるさいな。
なんかチワワみたいだなずっとキャンキャン言ってるの。
今日はなんのトラブルもなく帰れそうだし、さっさと……。
「うん??シェロ今なんて言った??」
「だ・か・ら!!敵、モンスターが来てるよモンスター!!
何で今見つけたのかは知らないけどケープスパイダーが!!」
「ちょなんでお前それ早く言わなかったんだよ!!」
「言ったよ私途中からぁ!!
それ無視してレイチェルくんと話してたんじゃないか君が!!
ほらもう目の前くるよぉ!!」
ドドドドドドド、と洞窟が振動する。
それと共に一週間放置した生ごみと同じ匂いが周囲に広がりわたる。
そいつはビー玉を何倍にも大きくしたような八個の赤い目でこちらを品定めするように凝視し、人の胴体と同じ太さの毛むくじゃらな黒い足をせわしなくカサカサと動かしていた。
「うわきっっっっしょ!!」
「大変気持ちの悪い生物ですね。なぜ産まれたのか理解に苦しみます。
早く眼前から失せて欲しいです。」
さてはこの人案外口悪いな??
「だが安心したまえ君たち!
ここには上級魔法を自在に操るウィザードがいるのだからね!
とっておきの炎魔法を見せてあげよう!」
うだうだシェロが話していると、レイチェルさんが俺にサングラスを渡してきた。
えっこれどっから出てきたの?ちゃっかり自分も付けてるし。
凄いかけろっていうジェスチャーされてるし、なんかよく分かんないけどかけてみよ。
「灰となり塵となれ!ドラゴニックファイヤーボール!」
多分普通なら前のように炎が杖に集まり形作られるのだろう。
だけども今は、光が集まっていた。それも太陽レベルの光が。
しかもこれはサングラスしている俺の感想だ。
じゃあ直接見ているシェロは……。
「だぁぁっぁぁぁぁああぁぁあっぁああ!!!目が!!目がああああああ!!!!ほああああああ!!!!」
悲惨にも光を直視してしまったシェロは某天空の城に出てくる大佐のようになっていた。
当然ながら魔法は外れ天井にぶつかった。
「えあのレイチェルさんこれは??」
「暗視のせいですね。小さな光も目に入れて明るく見えるようにするスキルなんでこうなりますよ。」
反応が薄いな。もしかしてこの世界の暗視は元々こういったもので、ただ単にこの今床を目を覆いながらはいずり回っている奴がアホなだけなのかな??
「キシャアアアアア!!」
放置され続けていた蜘蛛は足を上げ口元をカチカチと鳴らして威嚇してきた。
「それはともかく今はコイツを倒さないと。レイチェルさん、バフかけれるんですよね?
私に攻撃力とスピードがあがるやつお願いします!」
俺は昨日また新しく買った剣を抜きながらレイチェルさんに声をかけた。
「承知しました。ダメージアップ、スピードアップ。」
バフのせいなのか、俺はどこからともなく力がこみ上がってくる気がした。
多分今ならこの蜘蛛野郎を滅多切りにできるはずだ。
「やあああ!!」
切りかかる為に軽くジャンプしたはずの俺だったが、次の瞬間には轟音と共に視界が真っ暗になっていた。
何故か分からないが頭は死ぬほど痛いし、足は地面についていない。
下から知っていたという口ぶりのレイチェルの声が聞こえる。
「まぁ、アリサカ様。天井に突き刺さってますね。」
「突き刺さってますねじゃないでしょこれぇ?!どういうことだレイチェルぅ!」
俺はもうこいつにはさん付けしなくていい気がしてきた。
「む、なんですかその物言いは。この天才マジシャンに対する話し方ですかそれ。謝ってください。」
露骨に不機嫌な声になるレイチェル。
なんですかじゃねぇよ天井に突き刺さってるから言ってるんだよ。
「めんどくせぇ!!いいからこっから頭抜くのどうにかして手伝ってくれよ!!動けねぇよこれ!!」
「あなたにはダメージアップがかかってます。
天井軽く殴ればでてこれますから早く謝ってください。さぁ、早く!」
疑いながらも、俺は言葉通りに天井を殴った。
するとメキメキメキ、とひびが入る音が響き、俺は砕けた岩と共に落っこちた。
幸い振ってきた岩には当たらず、着地失敗のダメージだけで済んだ。
「おごふぅ!?やばいこれシャレにならん、マジで痛い尾てい骨にヒビ入ってそう。」
「ほら、謝罪はまだですか?私のお陰であの蜘蛛も倒せてますよ?」
ケーブスパイダーは落石に潰され息絶えていた。
通行止めにはなっていないため、帰りは死体の上を歩けばよさそうだ。
「いやそれより無駄な犠牲が出てるでしょうが!
あそこで転がってるシェロを見てみなさいよぉ!
ずっと目が目が言ってるよあれ!ワンチャン失明してるんじゃないのォ!?」
「いいやあれは致し方ない犠牲です。不慮の事故です。」
「の割には用意周到にサングラス用意してたな君ぃ!!」
そうして喧嘩をしていて気が付かなった。
ケーブスパイダーはまだギリギリ息絶えていなかったのだ。
最後の力を振り絞り俺の首を噛み千切ろうとして来ていた。
「ちょっまあっ……!」
「うるさいですね害虫!今話しているでしょうが!天才の時間を奪わないで下さい!」
俺にとびかかってきていたケーブスパイダーだったが、レイチェルの持っていたステッキで頭を上から叩き潰され、余りにも威力が高かったのか、頭は二つに別れ左右の壁にびちゃっと音を立ててくっついた。。
壁にひっついている頭からは妙に粘性のある緑色の液体がしたたり落ちている。
「……誠に申し訳ございませんでした。
今後もパーティーメンバーとして末永くよろしくお願いいたします。」
そうして俺はこのバフの加減もできない強フィジカルマジシャンを仲間に入れてしまったのだった。
「ねぇアリサカくん?私前見えないんだけど。
目ぇかっぴらいてるはずなのに前見えないんだけどぉ!?!?」
▼自称天才マジシャンが パーティに 加わった!
キャラ解説
デッカード・レイチェル 23歳女性 マジシャン
バフやデバフなどの補助魔法に長けているが、全てオーバーに効果がかかってしまう。攻撃力が上がるバフをかければ少し力を入れただけで手にしている武器は粉々になるし、移動速度が上がるバフなら速すぎて壁に激突する。暗視に至っては光を取り込みすぎて目が死ぬ。傲慢な性格で自分を天才マジシャンと自称し、それを信じてやまない。近接戦ができるが本人はそれを嫌がる。
捕捉
この世界での名前順は日本と同じで苗字、名前です。