5話目 しかしMPが足りない!
一夜明けて異世界二日目。死ぬほど痛い筋肉痛をこらえながら、俺は宿屋の食堂で朝ごはんを食べていた。
「ウボあー……。うめぇ……。」
まだ半分くらい寝ている脳みそにエネルギーを送る。
昨日はシェロを仲間にすると言った後、一緒に町で寝るとき用の着替えの服やら武器やら買い物をした。
そういえば、宿屋の前でシェロに
「私は別のとこで寝るから、また明日。」
と言われて別れたけど、どこで落ち合うとか聞いてなかったな。疲れて眠くて、それどころじゃなかった。
まぁ多分ギルドに行けば会えるでしょ。
朝ごはんを食べ終わり、部屋で軽く身支度をしてからギルドへ向かう。
すると入口でシェロとバッタリ会った。
「やぁやぁアリサカくん!早速今日生き残るためのお金を稼ぎに行こうじゃないか!」
「うばぁー……?」
返事をしたつもりだったが、完全に目覚めてないせいで変な声が出た。
「うわ凄い顔してる、なんだこれ顔がスライムみたいに溶けてる。髪もボサボサだし。こんなに綺麗なんだから、ちゃんと手入れしないと痛むよ?」
そう言ってシェロは町中のベンチに俺を座らせて、どこからともなく出てきたくしで俺の髪をとかし始めた。
昨日はあんなに駄々こねて子供みたいだったのに、今はおかんみたいだ。
「そういえばアリサカくんってどこ出身なんだい?その名前の感じからオワリだと思うけど。」
終わり?物騒な名前の場所だな、ラスボス手前の町みたいな名前してる。
「違うよ。まぁそうだったとしても教えないけど。」
「えー、いーじゃんけちんぼー。」
日本で産まれたとか言えないもんな。そこをつつかれると転生者とか訳の分からんことを説明しなきゃだし。
「はい、これで綺麗になった!」
髪は見事にサッラサラにとかされていた。これが本物の女子パワーか。
俺がやったら力入ってめっちゃ千切れるだろうな。そもそもめんどくてやってなかったけど。
「ありがとうシェロ……ん?」
「どうしたんだい、そんな私の顔を見て。まぁ美しさには自信はあるがね!」
「なんか目の色緑になってる気がして?昨日確か赤色だったはず……いやでもご飯食ってる時は緑色だった気も……。」
「ああこの目かい?何故か分かんないけどおなか減ると赤色になるんだよね。」
「ほえー変な体してるなぁ。」
「変って酷いなぁ!私の個性として尊重してくれよ。」
―――――――
そうしてしばらく、俺らは町から少し離れた平原へと来ていた。
受けた依頼はスライム20体討伐。
なんでもスライム自体は弱いが、稀に生き延びた個体が高い知識を得て厄介になるだとか。
それで強くなる前にこうして定期的に討伐依頼を出しているとのこと。
「はい、まずはファイア。一番弱い火の魔法だね。弱いとは言っても魔法は魔法。ここらの弱いモンスターなら一発で焼き払えるよ。じゃあまず、私の見本を見せてあげよう。」
そう言ったシェロはそこらにいたスライムたちに杖を向けた。
「ファイア!」
その掛け声と共に大体サッカーボールくらいの大きさの炎が杖の先端に集まり、スライムたちに向かって放たれた。
スライムたちはたちまち蒸発するように燃え尽きた。
「どうだ、凄いだろう?普通なら一体燃やす程度だけど私はそこそこ冒険してきたからねぇ、何体か一気に倒すことも難なくできるんだよ!」
「あの自慢げなとこ悪いんだけど、草むら燃えてるよ??」
シェロの放った火は勢い余りスライム付近の草まで燃やしていた。
これ放置してたら風でここら一帯燃えない?
「えっあっやばい!スプラッシュ!スプラッシュ!」
シェロは急いで杖から消防車の水くらいの勢いで火を消した。
「ぜぇ、はぁ……。いっ今のがスプラッシュ。水を勢いよくだす魔法だよ。じゃ、はいこれ。」
そうしてシェロは杖を渡してきた。
「えっこれでどうすればいいの?いきなり杖渡されても私なんにもできないけど。」
「この杖は優れものでね。他の杖よりも魔力を集中させて魔法をコントロールさせやすくするんだ。
軽く、さっき私が出した魔法を自分が撃つ姿をイメージしてみてくれ。
そうしたら自然と使えるようになるはずさ。」
常日頃から妄想して生きてきたオタクの力を舐めちゃいかんよ!
ジ〇ジョ呼んでから何回もス〇ンドを出す妄想してたんだからな!
火とかマ〇シャンズレッドを操る妄想で慣れてる!!
「んムムムムム……。」
ボッ。
「え?」
杖の先に出てきたのはマッチ棒でつけたのかっていうレベルの火だった。
「…………。」
「ちょ、無言やめてよ!悲しくなってくるから!まだ分かんないじゃん!
水なら上手くいくかもしれないじゃん!」
「ちょ、そこまで落ち込まないでくれ!大丈夫だよ皆最初はそれくらいから始まるんだから!
なんなら最初は出ない人もいるし!
……まぁそこまで威力が小さいのは見かけたことないケド。」
「ほらぁやっぱり俺がダメなだけじゃん!!才能ないだけじゃぁん!!」
結果スプラッシュもじょうろ程度の水しか出てこなかった。
他の風、電気、眠りの魔術も教えてもらったが全てハンディ扇風機、静電気、眠気に関しては逆になくなった。
つまり俺がこのカスほど役に立たない魔術の代わりにシェロの胃袋が犠牲になったのだ。しっかりシェロの目赤色になってるし。
「うぅっ……!もういいもん!俺この剣だけで生きてくもん!」
「アリサカくんなんか一人称変わってるよ!?」
そう話していると空から厳つい蝙蝠みたいなモンスターが降りてきた。鉱石を体中に生やしている。
「俺だってあの蝙蝠くらい倒せるもん!この新品の剣の糧にしてやるわい!ダああああああああ!!」
「いやちょっとアリサカくん!?マズいよ待って!(ぐうう~~)アッ無理走れない。」
「だあああああああああ!!!ヤァ!!」
バキン、と綺麗な音を奏で俺の俺の剣先は空中へと飛んで行った。
「ヴァ゛ア゛ッ!?オ゛レ゛タ゛ァ゛ッ!?」
「キィーーーーー!!!」
剣を折られ目の前に鎮座している俺に蝙蝠は蹴りを入れてきた。
「ドブァァァァァァァァァァァァァァァ!!ゴウブェェ!!」
俺は4、5mほど吹っ飛んで岩に激突した。
「アリサカくん無茶だよそんな安い剣でジュエルバッドを倒すだとか!
体全体が生えている鉱石と同じ硬さをしてるんだよ!もう、マジックボム!」
ジュエルバットとか呼ばれた蝙蝠は、シェロの魔法で爆発四散した。
「ほらぁやっぱ魔法の威力おかしいでしょ!」
俺は瓦礫のしたから顔を覗かせていちゃもんをつけた。
「そりゃあ私だって伊達に冒険者やってないさ。てかアリサカくん、私もう立つだけで精一杯なんだ。早くこっちに来て……。」
その言葉は最後まで続かなかった。何故ならシェロはスライムが頭に覆いかぶさっていたからだ。
「<P{``/!"%#$&%("!★❤■●▲!?!?」
空腹で抵抗ができないシェロは、なされるがままスライムに引っ張られていった。
「どおーい!!食われてんじゃねーよ!!」
俺は走ってシェロを追いかけた。
「おらライトニングライトニング!」
静電気レベルの電気魔法でスライムを追っ払う。
「んぶはぁ!アリサカくんそれ私もビリビリしてお`~{`+#"`{L#{`@!?!?」
「あっやべ魔力足りねぇ!これ手で取れるかな……ってこっちにくっつくな!」
「ん?あの白髪……昨日の野郎か?」
「どうしたボリス、誰かいたのか?」
「ケニオン、オメェはその兜でどうせ遠く見えねぇだろ。」
「昨日のボリスが耳打ちされてぶっ倒れたねぇちゃんがいんだよ。」
「ちょ、おい!ばらすなよコイツに教えると面倒だろ!」
「で、いいのか?見る感じスライムに襲われてるけど。」
「流石に大丈夫だろ、昨日の依頼から生還してるんだs……。」
「そこの人ー!!助けてぇーー!!」
「……あいつ昨日どうやって帰ってきたんだ?」
――――――
「依頼は完遂できたけどさぁ……。」
あの後ボリスとかいう昨日一緒に馬車にいたシーフに助けてもらいなんとか帰ってきた。
帰還途中にスライムだらけになった俺らを運んでいるボリスがあることないこと言われてたが。
可哀そうだし、今度会ったら飯奢ってやろ。
「アリサカくん……それもう少し……。」
「駄目だよ、これ私のだから!もう食べたでしょ自分のぶん!
早速もらった報酬金1万Gほぼ全部使って!宿代は残しておきなよ。本当もう。」
「いやこうなったのはアリサカくんにも問題があるよ!
君があの蝙蝠に喧嘩売らなきゃ私だってここまでお腹が減らなかったはずだ!
君には私にご飯を差し出す義務があるね!」
「……正論言われたらなにも言い返せない。」
結果、俺の財布は軽くなった。
キャラ解説
ラマナダ・ボリス 28歳男性 シーフ
ガーディアンとアーチャーとパーティを組んでいる、そこそこ腕の立つ冒険者。今は休暇ついでに来たレコモアで軽めな依頼を受けている。年齢=彼女いない歴の悲しき童貞。