三題噺01 「通学でいつも見かけるあの人」「高校生」「初恋」
「あの、すいません……」
歩行者信号が青になるのを今か今かと待っていると、後ろから突然声を掛けられた。なに? 今急いでいるんだけど。そう苛つきながら後ろを振り返ると、そこには通学でいつも見かけるあの人の姿があった。見かけるだけで、別に話したりとかはしないんだけど。彼女が「落としましたよ」と言って手渡したものは、毎朝私が付けているロケットだった。
「えっ、あえっ、ない!」
びっくりして舌を噛んじゃった。楕円形で可愛いハートの模様のついたロケットを受け取り、はっと後ろを振り返った。青だ!
「すいませんありがとうございます! 今日は急いでいるのでこれで!」
そう言ってそれを握りしめ、ライブイベントの会場へ向かった。
翌日、電車で眠りこけていると、私の隣に人が座ってきた。誰かと思いきや、この間ロケットを拾ってくれた人だった。
「あ、あ、あわわ、昨日はどうも……」
「いつもこの時間に会いますよね」
それからというもの、私たちは毎朝雑談をする仲になった。恋人にするならこんな人だとか、いや性別にはこだわらないだとか、結構深いところまで話した。彼女は別の学校に通う高校生で、途中の駅で私より先に降りる。
「それじゃあ、また明日」
「うん、いってらっしゃい」
これまではチラリと目で追いかけるだけだったけど、お互いに手を振るようになった。
「そういえばそのロケット、何も入れていないんですね」
どういうわけか、私達が話すきっかけになったロケットが話題に上がった。というか……
「中、見ちゃったの……?」
「ごめんなさい、落ちてたときに開いていたので」
普通、ロケットの中には家族だったり想い人だったりの写真を入れるものだ。そりゃあ、何も入っていなかったら不思議に思われてもしょうがない。
「実は、いつかできるはずの恋人のために空けてあるの」
できるかも分からないけどね、ともうそぶいた。
「まだ恋愛という恋愛をしたことがないから、次が初恋になるんだよ」
そういうと、彼女はそわそわしながら手帳から何かを取り出した。
「それじゃあ、よかったらこれを入れませんか? 昨日撮ったばかりなんですけど」
彼女がロケットの次に手渡してくれたのは、彼女のプリクラだった。
「あっ、もうそろそろ私が降りる駅です。よかったら、明日またそのロケットを見せてくださいね」