第3話:竜戦士と少女
「ギカントリザード!?・・・ここは第4階層、カテゴリーⅣ級のモンスターしか居ねぇ筈だ・・・って事は・・・ジョーカー!?」
まさかの討伐目的のモンスターが第4階層でジョーカーとして現れる状況に戸惑うも直ぐに冷静さを取り戻す。
落ち着いて行動しねぇとな。先ずはあのドジな冒険者の避難が先だ!
「はぁはぁはぁ!ひぃいいい!」
ギカントリザードの咆哮にビビりながらも少女は懸命に逃げていたがその状況も長くは続かなかった。
「キャッ!!」
彼女はあの時と同じく派手に転んで地面に倒れてしまい、ギカントリザードに追い付かれてしまう。
「ッ!?しまった!い、嫌!」
舌を出しながらゆっくり近付いてくるギカントリザードに少女は逃げる力を失ってしまい顔を青くして半身を起こしたまま後ずさりする。
「あの馬鹿!そこで転ぶ奴が何処にいるんだ!!」
遂に見かねた俺は少女を一蹴するかのように言葉を漏らすと腰に吊るしていた刀を鞘から抜いて手にすると勢いよく駆け出し、目にも止まらぬ速さで洞窟内の壁を蹴りながら高速移動する。
「わ、私・・・ここで死ぬの?」
そして・・・ギカントリザードが大きな口を開いて少女目掛けて炎を放とうとした瞬間を捉え、彼女の前に降り立った。
「はぁぁぁぁぁぁっ!!」
刀の刃に炎を纏った俺はそのまま炎を斬撃を放つとギカントリザードが放った炎とぶつかり合い、爆発させて相殺する。
「えっ?」
急死に一生を得た少女はキョトンとした表情で俺の背中を見やる。
「とっとと逃げろ!」
「えっ、で、で、でも・・・」
「早くしろ!」
「・・・は、はい!」
少女に強い口調で呼びかけると彼女は慌てながらもその場を離れて離脱する。
獲物が逃げられたと感じたギカントリザードは咆哮を上げて標的を俺に変えて再び口から炎を放った。
「ぬるいな・・・そんなもんで俺は殺れねぇぞ!!蜥蜴野郎!!」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべ、全身から自身の真紅のオーラを纏い始めるとそれは竜の姿を象って威圧を放ち始めた。
ギカントリザードは俺から放たれる竜の影に畏怖したのか目を見開くと後ずさりしはじめる。
竜騎士の能力『竜影』・・・自身の祖先である竜の姿を象ったオーラを纏って相手に見せることで威圧感を与える芸当である。
俺は嘗て炎竜と呼ばれていた竜『ファフニール』の血筋を組んでいることからこのようにファフニールの姿を象ったオーラを纏うことが出来るのだ。無論、それだけでなく先程の炎の斬撃もファフニールの能力の一つでもある。
「これで楽にしてやる。」
怯んだギカントリザードにそう言うと刀から弓に武器を持ち変えると左手に炎で生成した矢を手にして弦に汲んだ。
キリキリと音を立てて引かれた巨大な弓は深紅の炎に包まれるとまるで竜が咆哮を放つかの様にけたたましく音を鳴らして燃え盛った。
それを見て遂に危険を察知したギカントリザードは背を向けて逃げの姿勢を見せるも時すでに遅しであった。
「我が祖ファフニールの炎!とくと味わえ!」
放たれた炎の矢は見事、逃げおおせるギカントリザードの背中へ直撃すると辺りに深紅の炎を広がるとそれは炎竜ファフニールへと姿を変える。
そしてギカントリザードはその炎に捕食するかのように包まれていくと黄緑色の巨大な身体を業火の中へ消していくのだった。
「・・・ふっ」
ギカントリザードの最期を見届けた俺は炎に背を向けると依頼の書類を懐から出すと討伐成功の文字が大きく浮かび上がり、依頼達成を証明する。
「まさかギカントリザードがジョーカーとしてここに出てくるなんてな。おかげでこっちは2階層深く潜らなくて済んだってことか。」
やや複雑な表情を浮かべながら依頼の書類を再び懐にしまうと武器を収めてその場を立ち去ろうとした時だった。
「ま、待ってください!!」
誰かに声を掛けられ、振り返るとそこにはあの少女が得物であろう剣を背負いながら立っていた。
しかし、俺は彼女を見るや否や無視するかの様に視線を剥がして無言で歩き出す。
「あ、あの!待って下さいよ!」
「チッ」
「えっ・・・」
鬱陶しい・・・
舌打ちしながら少女をキッと睨んだ。
「勘違いするんじゃねぇ。お前を助けたのはただの気まぐれだ。ダンジョンで死人が出たらたまったもんじゃないからな。それとカテゴリーも低いのにこんな階層まで突っ走るな。死にたくなかったらとっととここから出ろ。」
そう厳しい言葉を投げかけた俺は呆然とする少女を意にも介さずダンジョンを出ていくのだった。
◇◇◇
ダンジョンを出て街に戻った俺は依頼達成の報酬を貰うため、ギルドに戻った。
「こちらが報酬です」
「あぁ」
先程の受付から報酬の入った袋を貰うと俺は懐に納める。
「まさか・・・本当に倒すなんて竜戦士って凄いんですね・・・。」
「掌返しか?俺はそういう奴は好きじゃない。」
「あ、いえ・・・そうじゃなくて・・・」
最初に自分のことを見下してきた受付は申し訳ない表情をする。
「・・・まぁいい、後は泊まるところを探すだけだ。どのみちこの街に長く留まる気はねぇからな。」
「・・・以上で依頼は完了です。またお待ちしてます。」
「フン」
恐る恐る頭を下げる受付に背を向けながら俺はギルドを出ると夕闇に染まった街を独りで歩く。
さて、報酬は貰えたが今日どうするかだな。ギルドから荷物も回収したが後は泊まる場所だ。現状、俺が泊まれる場所は無い。群れを成す冒険者共のせいでな・・・
「困ったな。・・・まぁいい、こうなったら野宿できる場所を探すだけだ。」
そう一人で呟いた時だった。
「待ってください!!」
俺を呼び止める声が聞こえ、振り返るとそこにはあのカテゴリーⅠの少女が立っていた。
・・・またお前か。顔も見たくねぇのに何の用だ?そう思いながらため息を吐く。
「・・・なんだ?」
「さっきは・・・ありがとうございました。」
少女はそう言うと頭を下げて感謝の気持ちを表す。
「礼はいらない。俺はそういう目的でお前を助けた訳じゃないからな。」
「でも、助けてくれましたよね?私、どうしても強くなりたくて・・・それであそこまで行ったら・・・」
「それがこの様だろ?」
「はい・・・でも、ひとつ良いことはあったんです。」
少女はそう言うと胸に両手を当てて言葉を続ける。
「初めて強い人の戦いをみれて感動したな・・・って。」
「下らん。そんなことより命を大事にしろ。」
「・・・そうですよね。でも私、貴方に憧れを持ったんです。」
「俺が竜戦士だから憧れたのか?職業が珍しいからか?」
「ち、違います!そんなことどうでもいいんです!」
「ッ!?」
少女のその言葉に俺は目を見開く。
なんなんだコイツは!?職業がどうでもいい・・・だと!?
「確かに竜戦士は珍しい職業です。でも、それ以前に私・・・貴方の強さに憧れて私もあんな冒険者になれたらいいなって思ったんです。」
少女は黄昏の景色の中、微笑みを浮かべる。
「だから・・・その・・・もし良ければ・・・私とパーティを組んで剣を教えてくれませんか?カテゴリーⅠで足を引っ張るかもしれません。でも!私、強くなりたいんです!貴方みたいに強くなって誰かを守れたらいいなって・・・だから・・・お願いします!」
緊張しながらも懸命に頭を下げる少女を見て俺は考える。
・・・普通ならあのシクスとかいうキザ野郎みてぇに断るのがオチだ。だが、コイツは違う。これまで見てきた冒険者とは違い職業ではなく純粋な俺という人格と強さに惹かれて勧誘してきている。
無論、駆け出しの冒険者だからそんなノウハウや知識が皆無ってこともあるだろう。しかし、それを抜きにしても彼女は俺に声を掛けたはずだ・・・。
フッ・・・物好きな冒険者もいるもんだ。まぁいいコイツが『アレ』を所有してるなら考えるか。
「お前、ここに住んでいるのか?」
「えっ?」
俺の言葉に少女は頭を上げてキョトンとする。
「えっと・・・その・・・家があるかですか?」
「それしかないだろ。なんだ?無いのか?」
「いえ!家ならあります。今は私一人で暮らしてて少し狭いですけど・・・」
「決まりだ」
「えっ?」
『家』があると答えた少女にそう返すと俺は街の方へ歩き出す。
「何してる?パーティに入ってやるからお前の家を案内しろ。」
「・・・ッ!?あ、ありがとうございます!!よろしくお願いします!!」
俺の言葉に少女はパーッと明るくなるとウキウキした様子で歩き出す。・・・現金なやつだな。まぁいい。
「あっ!自己紹介まだですよね?私、アインっていいます!」
「・・・ジークだ。」
「よろしくお願いしますね!ジークさん!」
「いいから行くぞ。」
「あっ!ちょっと待ってくださーい!!」
アインと名乗った少女が慌てて後に続く中、俺は彼女に表情を隠したままフッと笑みを浮かべる。
こうして俺のドジで無駄に明るい少女アインとパーティを組む生活が始まった。
だが、この時の俺は知る由も無かった。彼女との出会いが俺を大きく変える切っ掛けになるということを・・・。
これまでの登場人物
ジーク
年齢:18歳
カテゴリー:V
好きな食べ物:白米、味噌汁、魚類全般(特に焼き魚や刺身等)
職業:竜戦士
本作の主人公にして数少ない竜戦士の職業に就く一人。炎竜ファフニールの力を扱う事ができる。赤みがかった髪に緋色の瞳を持った目、甲冑の様な見た目をした緋色の鎧を着用している。
無愛想かつあまり感情を表に出さない性格で刀や大型の弓を巧みに扱う。その実力はかなりのもので一流の勇者パーティから勧誘が来るほどであるが彼自身は群れで戦うことを良しとせず全ての依頼を単独でこなしている。
一見、群れを嫌い、他人には心無い事や厳しい言葉を投げかけることがあるが自身よりも格下の冒険者が窮地に陥った際には率先して助けに向かうなど根はかなりのお人好しである。
過去にとあるパーティを追放されたことがあり、これが原因で単独活動をなったと思われるが詳細は不明である。
名前の由来はゲルマン神話に登場するジークフリートからで容姿は鎌倉武士の甲冑をモデルとしている。
◇◇◇
アイン
年齢:16歳
カテゴリー:I
好きな食べ物:パン、サラダ、紅茶
職業:剣闘士(仮)
ノルド地帯で新たに活動を始めた新米冒険者。カテゴリーは最下位のI。まだ着こなせていない新品の鎧に小柄で華奢な体格、両サイド長さの違う桃色のツインテール、空色の瞳をした眼が特徴的。
おっちょこちょいでよく派手に転んでしまうなど絵に書いた様なドジであり、ジークを含めた周りからも呆れられる程であるが仲間の事を思いやれる優しい性格の持ち主でその為ならどんなに強いモンスターや冒険者が相手でも決して退かない胆力を持つ。
また料理はめちゃくちゃ上手い
背中に自身の背丈よりもやや大きめな剣を背負っているがジーク曰く何かの力を感じるという・・・。
◇◇◇
シクス
年齢:25歳
種族:ヒューマン
カテゴリー:IX
職業:勇者
ノルド地帯で活躍する勇者パーティ"チーム フォーカード"のリーダーにしてノルドタウンでも数少ない上級カテゴリーに所属する冒険者である。
ギルドで偶然にもジークと出会い、彼を勧誘するも断られてしまう。