第2話:ノルド洞窟
ノルドタウンのギルドを出た俺は武器や防具を売っている市場へ向かった。活気のあるそこは商人の声や昼間にも関わらず酒を呑み交わす冒険者達の談笑が響き渡っており、俺からしたら煩いにも程があった。
「チッ・・・人が多いな。とっととポーションなり研磨剤なり買い足して宿をとらねぇとな。」
舌打ちしながら人ごみの多い街道を進みつつ必要な消耗品を買いそろえていく。
「ふぅ・・・これで全部買ったな。」
予め買うものを記したメモを片手にチェックするとようやく買い出しを終え、一息つく。
「後は宿の部屋取りだが・・・さっきの受付、何の依頼を俺に渡してきたんだ?」
ふと、ギルドで受け取った依頼の内容が気になり俺は依頼の内容が書かれた書面を確認するとそこにはこの様な依頼が記されていた。
”ノルド洞窟第6階層に棲む カテゴリーⅣ(フォー)級のモンスター・・・ギガントリザードの討伐。報酬¥90000イェン。推定経験値4000”
「カテゴリーⅣか・・・腕慣らしには十分な相手だな。」
依頼の内容を見て俺は思わずにやけそうになりながらも直ぐに依頼の書面を閉じて依頼へ向かう準備を始めることにする。
「先ずは宿を借りて荷物をまとめた後に必要な道具を持ってノルド洞窟とやらに行けばいいな。問題は宿だが・・・何処に泊まるべきか?」
そう呟きながら辺りを見渡して宿を探している時だった。
「悪いな・・・剣士なら間に合ってんだ。」
「そ、そこをなんとか~お願いしますぅ~」
ふと、街中でパーティを組んでいる冒険者に何かを懇願している少女の姿が目に入る。
まだ着こなせていない新品の鎧に小柄で華奢な体格、両サイド長さの違う桃色のツインテール、空色の瞳をした眼にはうるうると僅かな涙を浮かべ、背中にはその体格にに使わない如何にも高そうで何処か神秘さを感じる大ぶりの剣を背負っていた。
見るからにしてまだダンジョンに潜ったことがない冒険者だろうか?だとするとパーティへの志願をしているのだろう。
「嬢ちゃん、すまねぇな。いくら何でもカテゴリーⅠ(ワン)じゃあねぇ・・・」
「悪いことは言わねぇ。他を当たってくれ。」
「あっ!ちょ、ちょっと待ってくだ・・・グホッ!!」
去っていく冒険者達を呼び止めようとした直後、少女は躓くとその場で派手に転んで地面に倒れてしまった。
「いたたた・・・うえええええん!またパーティ入りを断られちゃったよぉ~」
その場に座り込んだ少女は周りの目を気にすることなく泣き叫んでしまう。
「馬鹿馬鹿しい・・・そんなに冒険者をしてぇなら独りでやれ。」
そんな彼女に俺は呆れながらそう呟くと止めていた足を動かしてその場を後にする。
冒険者・・・それは様々な職業に就いた人達がダンジョンに入り、モンスター討伐などを行うことを指す。
自身のカテゴリーが高ければ高いほど周りからは信頼され、パーティに入りやすくなり、反対にカテゴリーが低い冒険者達は加入までに時間がかかり、人一倍の経験値稼ぎが必要となるのだ。
弱肉強食と言える冒険者社会に於いて必要なのは『実力』だけなのだ。だからこそパーティに入った冒険者は初めて安泰する・・・そう言われている。
・・・冗談じゃない。
「群れただけで冒険者としてのキャリアが約束されるなんて本当にくだらねぇ。群れる奴らはロクな連中がいないからな・・・!」
そう呟きながらパーティを組む冒険者達に軽蔑の心を抱く。
パーティに入れたとしてもロクな奴等なんて居ねぇんだ!!勝手に実力不足をみなされ追放された奴らはその傷を負って生きていくんだ!
俺が・・・そうだったように!!
「・・・はぁ、嫌な過去を思い出すところだったな。兎に角、今はこの依頼をクリアすることだけ考えればいい。」
直ぐに気持ちを切り替えた俺は嵌めていた手袋を締め直すとダンジョン出発に向け、準備を始めるのだった。
◇◇◇
ノルド洞窟・・・ノルドタウンからやや東に進んだ沿岸部にある洞窟型のダンジョンである。
あの後、結局宿を借りることが出来なかった俺は宿の受付から荷物はギルドで一旦預けられることを案内され、またギルドに戻って不要な荷物を預けてから依頼に臨むことになった。
複数のパーティが宿部屋を抑えていたせいか俺は宿に泊まれなかった・・・という訳だ。
「つくづく腹が立つがそんな事に怒ってる暇はねぇな。確か"ギカントリザード"は第6階層に棲んでいるって話だな。」
ダンジョンに入るや否や俺は依頼内容をもう一度確認してから階層を進んでいく。
ダンジョンには"階層"と呼ばれるものがあり、奥に進めば進む程、カテゴリーの高いモンスターが生息している。但しダンジョン自体も無限に続く訳ではなく一番深い階層・・・最階層と呼ばれる場もあり、腕のある冒険者はここを目指して依頼をこなしている。ここノルド洞窟の最階層は10まであり、一番強いモンスターのカテゴリーはⅩ(テン)級だという。
モンスターも階層が深くなる度に強くなる為、油断は出来ない。特に注意したいのは本来、その階層よりも強いカテゴリー級のモンスター・・・所謂"ジョーカー"の存在には気を付けなければいけない。
「第6階層の推奨カテゴリーはV、ジョーカーはⅧ(エイト)級のモンスターか・・・ジョーカーは手強い。迂闊に挑むとこっちがやられちまう。出くわしたら退くのが最善か。」
ノルド洞窟の情報も確認した俺は早速、第1階層から進み、時折行く手を阻むモンスター達を次々と討伐していく。
そして・・・第2、第3、第4階層まで進んだ俺はようやく進めていた脚を止め、一息ついた。
「あと2階層か・・・ここまで現れたモンスターは呆気なく倒せたがここから先は油断禁物だな。その前に少し休むか。」
そう言いながら辺りを見渡して開けた場所を見つけると適当な場所に腰掛けて懐から手頃なサイズの袋を出すとその中からドライフルーツを一つ摘まんで口の中に放り込んだ。
「寒くなってきたな・・・沿岸に近いからか下の階層は冷気が漂っているのか?尚更油断は出来ねぇな。」
寒さを感じ始め、ダンジョンの過酷さをいち早く察知した俺はドライフルーツをもう一つ口へ放り込みながら警戒する。
「そういえば他の連中を見ねぇな。第3階層までは4人組のパーティを組んだ奴らがいたが第4階層に来てから誰も居ねぇ。まだ到達してねぇのか?」
人っ子一人見ない第4階層を見て、そう呟いた・・・次の瞬間。
突然、岩肌が崩れる音が響き渡り、遠くで砂煙が巻き起こる。
「ッ!?なんだ!?」
慌てて立ち上がり、身構えると砂煙の中から見覚えのある人物が現れ、何かから必死に逃亡していた。
「はあ、はあ、はあ、はあ・・・くっ!」
「アイツは・・・街に居た・・・」
その人物は街でパーティ加入を断られていたあの剣士の少女だった。
・・・ちょっと待て。アイツ、カテゴリー幾つだ?
『嬢ちゃん、すまねぇな。いくら何でもカテゴリーⅠ(ワン)じゃあねぇ・・・』
「ッ!?」
あの時の会話を思い出し、戦慄がはしる。
カテゴリーⅠ・・・それは冒険者の中でも一番最低のカテゴリーであり、下手をすれば第1階層を周回するのがやっとの実力だ。
「なんでそんな奴がこんな所に居るんだよ!!」
少女に諭すかのように焦りの表情を見せた俺が冷や汗を流すと更に砂煙の中から現れた巨体を見て驚かされる。
「何っ!?・・・あれは!!」
こんな偶然があるのかと目を疑った。少女を追いかけていると思われる巨大な黄緑色をしたトカゲ型のモンスターは今回の俺の依頼の目的である"ギカントリザード"だった。
皆さんこんにちはJACKです。長らく決まっていなかった本作の投稿日が決まった為、改めて連載スタートとなります!!
投稿は毎週土曜朝8時。
無愛想で群れを嫌う主人公ジークがドジな駆け出し冒険者の少女と出会うコメディありの物語に仕上げました。
誤字、脱字、素人作家ありきのご都合展開や語彙力もありますが投稿してまいりますのでどうぞよろしくお願いいたします。