捕まって縛られました 2
「魔物よ。この村を呪いにきたのか」
偉そうなおじさんが、ワタシのかごの前に来て唐突にそんな言葉を発した。
言葉理解できて良かったと思いつつ、首をかしげる。
のろう?
って
人を呪わば穴二つとかいうのと同義の「呪う」かな?
「おまえのせいでっ」
若い男の一人にビシッと石を投げられた。頭部に当たった。痛い。
思わず涙目になる。
ワタシがいつなにをしたのだろう???
「やめよ。ダルボア」
「しかしっ、村長っ」
「先ほどの話し合いを忘れたのか」
静かに言葉を紡ぐ村長さんは、ダルボアと呼んだ男を見ずに、じっとワタシを見ている。
ワタシもじっと村長さんを見ていた。
村長さんの瞳はくすんだ茶色。
何か憂いがあるのか、顔色も良くない。
そういえば、村人たちもあまり顔色が良くないようだ。
青ざめていて、皆元気がない。
「ワタシが何をしたのかは知らない。知らなければ謝れない。何があったのかを教えてくれないか」
呪うとか、したくてもただの女子高生にできるはずがない。
別にここが異世界だからといって、条件は変わらない。
それとも魔物ならできるのか?
「魔物が言葉を解するか」
村長の瞳が驚きに瞬いた。
人間なので、とは言わずにおいた。
戻れるかどうかわからないので、とりあえず、そういうことにしておこう。
「言葉はわかる。魔物が何かをしたのか?」
村長さんはかすかに目線を地面に落とした。
「子供が病に罹っている」
ああ、そうか。何か違和感を感じると思ったら、子供がいないのか。
「薬で治らないのか」
「知っているものはすべて試した。だが、治らない。すでに2人亡くなった」
「それで魔物のせいか」
合点がいって、ワタシは独りごちた。
人の手の及ばない出来事が起こると、総じて何かのせいにしたくなる。
この世界にはどうやら魔物と呼ばれるものがいるらしい。
それらが人に悪い影響を与えると信じられている。
実際に呪いなのかもしれないが。
ワタシは呪いをかけられないし、解くこともできない。
「ほかにも具合が悪い子供がいるのだな」
「そうだ・・・」
そして、残念ながらワタシは医者ではない。
「期待に添えなくて大変残念だが、呪いをかけたのはワタシではない」
村人の息がひゅっと飲まれて、周囲の空気が固く張り詰めるのを感じた。
幼い子供たち・・・救えるものならば救いたい。だが出来ないのだ。
「だから、ワタシは殺されるしかない」
「古都っ」
その言葉を聞いて、ネネが悲鳴のような声をあげた。
「なぜ・・・殺すと思う」
村長さんの手が震えている。
「ワタシは病を治せない。呪いではないと証明できない」
少しため息を吐く。
「ワタシを殺せば呪いはとけるかもしれないと、あなたたちは考えている。先ほどのダルボアさんとやらの剣幕だと、ここは穏便に見逃すという選択肢はないだろう?」
だからといって簡単に殺されるのはいやだ。
「その前に、殺す前に具合が悪い子供を見せてもらいたい」
「生気を吸い取る気か!」
またボケたことをダルボアが叫ぶ。
「そんなことできるかっ!」
しまった。思わず突っ込んでしまった。
きっと具合の悪い子供の一人はダルボアの子供なのだ。
かわいがっていたのだろう。
良い親とはそういうものだと聞いたことがある。
過激な反応も仕方のないことなのかもしれない。
「頼む。村長。ワタシはあなたがたにとっても魔物かもしれないが、それでも何もしないで殺されるのはごめんだ。一分でも可能性があるのなら、それにすがりたいと思うのは人の常だろう」
「魔物に、人のことわりを説かれる覚えはないが」
言葉を解する魔物。
ワタシの姿はどちらかと言えば人に近しい。
だからかもしれない。
村長さんの顔に迷いが生じているのがわかった。
「頼む」
深く頭を下げたままでいると、「はぁぁ」という深いため息が漏れた。
同時に声が響き渡る。
周りの村人に聞かせるようにはっきりとした声音だった。
「皆のもの、この者を殺すのは容易い。だが、子供たちが治ると決まったわけではない。皆の子を見せても良いか?」