表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫姫  作者: 四季道理
5/47

僕(しもべ)が出来ました 4



 パチパチパチと炎の爆ぜる音がする。

 それはとても小さくて、遠くに聞こえた・・・。


 そういえば、おばあちゃんがこんな風に落ち葉や枝を集めてはたき火をしてくれてたかなあと思い出していた。


 腕の中に感じるぬくもり。

 何か・・・何だろう。

 自分が感じるのはいつも自分の腕だけ。

 ああ、いや、道に迷ったんだった。

 黒猫に出会ったのだった。

 だからこの腕のぬくもりも猫。


 今日には、人がいるといいな。


 人が・・・。


 ぎゅっと。


 人だったら、こんな風に抱きしめてくれて。


 ぎゅぅぅっと。


 あれ?


 確かに首回りに何かが絡まっている。

 暖かい血の巡るような。

 それも吐息付き。

 

 猫だったが。


 古都はこの時点でようやく自分の抱いているものが猫ではないことに気がついた。


「子供だな」


 驚いた。

 猫はどこに行ったのだろう。


「子供よ」


「はい、あるじさま」


 あるじさま???


 古都は子供から身を離した。


 目に映るのは、ビロードのような真っ黒な衣装を着た男の子。

 半袖に短パン。

 短く真っ黒だけれどさわり心地のよさそうな髪に、真っ赤な目。

 手足は体に不釣り合いなくらいに長くて白い。

 幼いのに、どこかあやしさが漂う子供。


「おはようございます。あるじさま」


 ワタシはあるじではない。


 即座に否定するのが申し訳ないほどまっすぐに子供の視線は古都を見ていた。


「名前は?」


 子供は聞かれたことがわかったのか、そうでないのか、困ったように首をかしげた。


「親は?」


 かすかに首を横に振ったことで、古都の言葉が通じていることがわかる。


 言葉を理解はしているのだ。

 名前がないと呼ぶのに不便。

 だからといって、ナナシではあまりにひどいか・・・。


「とりあえず、名前をつけてもよいかな」


 コクリと子供が頷いた。

 ワタシはちらりと虚空を眺める。何か良い名。

 な・に・ぬ・・・ね。


「ネネはどうかな」


 再び子供がコクリと頷いた。

 少しうれしそうだ。


「気に入ってもらえたようで良かったよ。さて、猫の飼い主もとい、ネネの親探しをしないといけないね」


「親はいないから・・・あるじさまについて行く」


 だから、ワタシはあるじではない。


「あるじじゃなくてさ、古都って呼んでもらえるかな。むしろ、そう呼んでもらえるとうれしい」


「コト?」


「そう」


「古都さま」


「“さま”はいらない」


「はい、古都」


 ネネは聞き分けのいい子供のようだった。

 この年頃の子供・・・たぶん、小学校の低学年前後なら、わがままを言ってもおかしくない年頃。

 どこから現れたのか。 


 民家があるのかな?


「あまり長居をしてもいけないし、出発するか。ネネ」


 そして、立ち上がってスカートについたしずくを適当に払うと、ネネに手をさしのべた。

 ネネはどうして良いのかわからないらしく、古都の手を見ている。

 

「手、出して」


 ネネがおずおずと手を伸ばす。

 その手を古都は握った。


「こうしていれば迷わないだろう。さ、行こうか」


 手のひらに収まるくらい小さな手。


「はい、古都」


 その一言とともに、その手が古都の意志に応えるかのように握り返してくれた。

 じわり暖かいものが胸の内に広がる。




 古都は知るすべもないが、これが、これから長いつきあいとなるしもべのネネとの出会いであった。



「俺様どころか、誰も出てこなかったな」


「・・・」


「おい」


(ピシ、宙を裂くようなムチの音)


 そこに転がるのは丸太。


「くそう。逃げたな」 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ