僕(しもべ)が出来ました 4
パチパチパチと炎の爆ぜる音がする。
それはとても小さくて、遠くに聞こえた・・・。
そういえば、おばあちゃんがこんな風に落ち葉や枝を集めてはたき火をしてくれてたかなあと思い出していた。
腕の中に感じるぬくもり。
何か・・・何だろう。
自分が感じるのはいつも自分の腕だけ。
ああ、いや、道に迷ったんだった。
黒猫に出会ったのだった。
だからこの腕のぬくもりも猫。
今日には、人がいるといいな。
人が・・・。
ぎゅっと。
人だったら、こんな風に抱きしめてくれて。
ぎゅぅぅっと。
あれ?
確かに首回りに何かが絡まっている。
暖かい血の巡るような。
それも吐息付き。
猫だったが。
古都はこの時点でようやく自分の抱いているものが猫ではないことに気がついた。
「子供だな」
驚いた。
猫はどこに行ったのだろう。
「子供よ」
「はい、あるじさま」
あるじさま???
古都は子供から身を離した。
目に映るのは、ビロードのような真っ黒な衣装を着た男の子。
半袖に短パン。
短く真っ黒だけれどさわり心地のよさそうな髪に、真っ赤な目。
手足は体に不釣り合いなくらいに長くて白い。
幼いのに、どこかあやしさが漂う子供。
「おはようございます。あるじさま」
ワタシはあるじではない。
即座に否定するのが申し訳ないほどまっすぐに子供の視線は古都を見ていた。
「名前は?」
子供は聞かれたことがわかったのか、そうでないのか、困ったように首をかしげた。
「親は?」
かすかに首を横に振ったことで、古都の言葉が通じていることがわかる。
言葉を理解はしているのだ。
名前がないと呼ぶのに不便。
だからといって、ナナシではあまりにひどいか・・・。
「とりあえず、名前をつけてもよいかな」
コクリと子供が頷いた。
ワタシはちらりと虚空を眺める。何か良い名。
な・に・ぬ・・・ね。
「ネネはどうかな」
再び子供がコクリと頷いた。
少しうれしそうだ。
「気に入ってもらえたようで良かったよ。さて、猫の飼い主もとい、ネネの親探しをしないといけないね」
「親はいないから・・・あるじさまについて行く」
だから、ワタシはあるじではない。
「あるじじゃなくてさ、古都って呼んでもらえるかな。むしろ、そう呼んでもらえるとうれしい」
「コト?」
「そう」
「古都さま」
「“さま”はいらない」
「はい、古都」
ネネは聞き分けのいい子供のようだった。
この年頃の子供・・・たぶん、小学校の低学年前後なら、わがままを言ってもおかしくない年頃。
どこから現れたのか。
民家があるのかな?
「あまり長居をしてもいけないし、出発するか。ネネ」
そして、立ち上がってスカートについたしずくを適当に払うと、ネネに手をさしのべた。
ネネはどうして良いのかわからないらしく、古都の手を見ている。
「手、出して」
ネネがおずおずと手を伸ばす。
その手を古都は握った。
「こうしていれば迷わないだろう。さ、行こうか」
手のひらに収まるくらい小さな手。
「はい、古都」
その一言とともに、その手が古都の意志に応えるかのように握り返してくれた。
じわり暖かいものが胸の内に広がる。
古都は知るすべもないが、これが、これから長いつきあいとなる僕のネネとの出会いであった。
「俺様どころか、誰も出てこなかったな」
「・・・」
「おい」
(ピシ、宙を裂くようなムチの音)
そこに転がるのは丸太。
「くそう。逃げたな」