サド王子の思案 3
「古都はどうした」
「妾の中で眠っておるわ」
ふふ、と古都の顔をした少女は笑みを浮かべた。
顎に添えられていた白い指が離れ、俺様は何故か安堵の息を吐いた。
この女は苦手だ。
触られるだけで、なぜか震えが走る。
やはり古都でなければだめだと思う。
「アリアと古都。二人で一つのカラダを共有しているということなのか」
くつりと少女が喉を鳴らした。
それが肯定なのか否定なのかわからなかった。
「古都を返してくれないか」
しゃべりながら、先ほどよりも胃のムカツキが収まったことを感じていた。
先ほどのキスはそういう意味か。
魔法にはクラスがある。
もっとも下のクラスはただ壊すだけ。木があれば木を倒す。物があれば持ち上げる。
上位になればなるほど、扱うのは難しくなる。
魔族は、人間に比べ、魔力が強く、魔法を扱うのが得意とされている。
しかし、それでも治療を施すのは難しい。
特に、内臓のように見えないところを修復するのはよほど長けた者だけだ。
呪も唱えず、触れるだけで成してしまったこの女には、よほど強い力があるのだろう。
ブラグラの始祖を名乗るほどに。
「なるほど」
女がおかしそうに顔を崩す。
「分かっているくせに、古都を求めるのか」
「うるさい」
俺様が暴れるとガチャリと鎖がきしんで音を立てた。
その手を見つめ。
「古都が心配しておったぞ。明日にはアベルが送る故、今夜はおとなしく過ごすがよいわ」
古都、が?
何故、俺様を。
かすかにトクンと胸が高鳴る。何かを期待しているかのように。
「犬も三日過ごせば情が移るらしいからのう」
そんな期待をばっさりと切り捨てて、少女は俺様から身体を離した。
部屋に帰るのか。
そうして、明日はこのまま俺様はブルーディアに返されて…二度と会えない。
それはイヤだ!
「待てっ」
「言っておくが、この特質はあんな首輪如きでは抑えられぬ。人の子よ。己の国が可愛ければ、この娘のことは忘れるがよい」
そう言い捨てて、あの魔王と同じようにその姿は切り裂かれた闇の隙間に消えていった。
後には、蒼白な顔をした俺様とスピと呑気な寝息を吐くルディだけが残されていた。