サド王子の思案 2
夜はさすがに拘束を解いてもらえると思うだろう、が、甘かった。
あくまで俺様に対する扱いは虜囚のもの。
多少、部屋がきれいだろうとなんだろうと。
ルディがアホ面を晒して、つながれた主人を放ってのうのうと寝台で寝ているのが気に食わない。どうせなら同じ扱いを受ければいいものを。
カタンと窓の近くで音がした。
目をむければ「コト…」。
魔国の衣装らしい漆黒のワンピースを身に付けて、そこに佇んでいた
「なぜここに」
くすりと少女が笑みを浮かべた。
感じる違和感。
「そちは、なぜこの娘にこだわるのかえ」
ゆっくりと近寄ってくるその姿に、俺様はその違和感の正体に気付いた。
自分にはわらいかけない少女が自分に笑いかけるその意味。
目が金に輝いている。
「囚われたいか?」
真正面に立ち、問いかけられれば、なんと応えて良いのか自分でもよくわからなかった。
囚えるのは自分であり、少女ではない。
そう思うのだが、それをそうと言わせない雰囲気があった。
少女の白く細い指が伸びで、俺様のあごを持ち上げる。
「応えてみよ」
金色のまなざしが俺様のものと絡み合う。
すこしひんやりとした少女の指先から、俺様の熱が伝わっていく。
縄が解ければ、少女の身体をすぐさま与し抱いてしまいたい。
この場で。
「俺様が買ったから、コトは俺様のものだ」
ふふ、と少女が微笑んだ。
「これは妾のからだでもあるゆえ、大事にしてもらわねばならぬ」
「十分大事にしているだろう」
最初以外は、ほとんど鞭打つこともなく、夜一緒に寝るだけだった。
それでも十分嫌がるのだから、一緒にいる甲斐もあるというもの。
時折は、笑って欲しいと思い、時折は、嫌がらせ、泣かせたいと思う。
だが、自分以外の原因で笑ったり泣いたりして欲しくない。
どうも少女に関してだけ、自分の感覚がおかしくなっている。
「自覚が変にあるというのも困りものよ」
「お前は、何者だ」
これはコトという少女ではない。
金色の目をして現れたときから、わかっていた。
では、ここにいるのは誰だ?
ゆっくりと上体を倒してくる少女の姿は、無表情ながら自分に触れられることさえ嫌がっている姿とはあまりにも違っていて、斜めに覆いかぶさってくる整った表情の向こう側に、魔王が成長し、女になったときのように妖艶な表情が重なって見えた気がした。
そして、与えられたのは、どこまで冷たい接吻<<くちづけ>>だった。
息を求めて少女の可愛らしい唇から漏れたのは、吐息ではなく。
「妾はアリアと申す。アベルなどは未だに妾を始祖と呼ぶゆえ困ったもの」
どこまでも老獪な女の声音であった。