表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫姫  作者: 四季道理
42/47

結婚を迫られました 7

「古都がわし以外の雄と仲良くするのはむかむかする」

 

 いささか不機嫌な顔で、サブイボの主は現れた。

 現れ方も魔族っぽく、空間を引き裂いて現れたのだった。

 ゆったりと亜空間から長い足を踏み出し、ジロリと王子と睨め付けたのは言わずともしれたアベルである。

 サリーが椅子から降りて、うやうやしく膝をついた。

 

「勝手にムカムカすればいいだろう」


 王子が魔王の視線を屁でもないといったように受け流した。

 そう思ったが、そうでもないらしい。

 珍しくサド気が薄い。

 額にはうっすら汗をかいているようでもあるし、顔色も悪い。

 なるほど確かに、アベルは今、気を押さえていない。

 正直、気という表現が正しいのかどうかも分からないが、ゾクゾクするような威圧感だった。

 これが王様の存在感というものだろうか。

 だが、古都にはそれ以上の感想はなかった。

 

「サドゥール・ド・ブルーディア殿か。初めてお会いするのである」


 ゆったりとアベルが言葉を紡いだ。

 なんだか気品のある王様のような雰囲気だ。


 というか・・・。


「成長してる」


 先ほどが5歳程度とすれば、今はいくつだろうか。20代の後半?本当の姿はどこにあるのだろうか。

 古都を見て、ニヤリとアベルが笑った。 

 先ほどまでの無邪気な子供笑いとはほど遠く、古都は先ほど以上にゾゾと嫌な気分になった。


「子供では古都と婚姻を結べまい」


 子供の姿の方がいろいろな者が油断してくれるから便利であるがな。

 クツクツとのどを鳴らす雰囲気は、無邪気さのかけらもない。

 大人のアベルはずいぶんと長身だった。

 唯一の共通点は、猫の耳と黒いマント。たぶん尻尾はマントに隠されていて、そして、爛々と輝く金色の目。

 

「別に大人になったから結ぶものでもあるまい」


「別に結婚してから互いの仲を深めてもよいであろう」


 古都の言葉を捩って、アベルが古都に近寄ってくる。


 わしはお買い得であるよ。

 今まで独身であるし、この国の王様である。おまけに、かっこいいとくれば。


 と言いつのってくる始末。

 確かに、成長したアベルはネネとは別の意味で顔が良いのだろう。

 妖艶と言うべきかもしれない。

 

 だが。


「無理だ」


 踏み出した足と、自分の顔色が変わるのがわかる。

 ネネとは違う。


「何をそう嫌がるのか」


 アベルは全く頓着していない。


「アベル王。それはわたしのペットだ。手出ししないでいただきたい」


 王子が青い顔をしながら、だが、はっきりと言う。

 ちらりとアベルが王子を見た。「うるさい」


「グフッ」


 ちらりと見た瞬間に、何が起こったのか。

 王子が血を吐いた。

 塗瀉血に、白いシャツがまだらに赤く染まる。

 ぎょっとした。

 何をしたのだ。


「ちょっと胃に傷を付けてみたのである」 


 賓客だから、外観に傷をつけるようなまねはしないよ。

 古都が望むなら、手足の一本くらいは展示用に切り取ってもいいけど。

 どうやら本気らしい魔王の言葉どおり、整えられた指先でくるんと宙に円を描く。

 その指の先に光の輪が出来る。


「せめて痛みはないようにしてやるが」


 確かによく切れそうだが。


「勘弁してくれ」


 手も足も頭もどれか一つでも失ったら、戦争だ。


「内臓を痛めつけるのもやめてくれ」


「始祖様をペット扱いされたのだ。今となっては、わしの正妃となる予定の雌に」


「どうでもいいだろう。そんなこと。勝手なことを決めつけて言わないでくれ」


 本気でどうでも良かった。

 王子にされて嫌だったのは、触られることくらい。

 正妃という響きに、気持ち悪ささえ感じる。

 

「そんなことよりも、早く城に王子を帰してもらえないか」


「古都がわしの下に残ると約束してくれるなら」


「わかった」


 即答であった。

 あまりの早さに思わずアベルが目を丸くしてしまうくらい。


「それくらい容易いこと。さあ、いますぐ帰してやれ」


「ばっ、ばか。古都。お前、何を言っているのかわかっているのか」

 

 王子がなぜか白い顔をしながら言った。

 口元は血で汚れていて、胃が痛いだろうに。


「お前が言ったのだ。ワタシは魔物だ、と。魔物は魔国にいるべきだろう」


「だめだ。だめだだめだだめだ」


 駄々っ子のように王子が首を横に振る。

 何を言いたいのかわからない。

 別に、ペットの一匹や二匹いなくなっても構わないだろう。


「古都は渡さない」


「死にたいか。サドゥール殿」


 アベルが冷ややかなまなざしを王子に向ける。


「死ぬのはお断りだ。腕の一本や二本で気が済むのなら奪えばよかろう。そのかわり古都は俺様のところに返せ」


 柱に両手を縛り上げられて、くくりつけられたままだというのに、珍しく王子の気品が漂っていた。

 ふん、とアベルが鼻を鳴らす。


「なるほど。貴殿は古都に惚れているとみた」


「ばっ!」

 

 バカ、と言おうとしたのだろう。

 言った瞬間に、王子の顔が真っ赤に染まっていた。

  

「だが、古都は貴殿の心にはみじんも気づいていない様子」


「おっ、俺様の后にする予定なのだ」


「どこの国の者が、王様が魔物を后にすることを赦すと思うのだ」


 アベルは口元を指で被い、その唇に浮かんだ冷笑を隠した。


「これまで人が我が国にしてきたことを忘れたか。古都のことは潔く忘れるがよい。人の子よ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ