結婚を迫られました 6
「なんだ。別に問題ないようだな」
古都は王子が捕まえられているという居室のドアを開いて、中をみるなりそう言った。
不機嫌そうに王子の顔色が変わる。
「どういう意味だ」
「言葉通りの意味だが」
自分の言葉が足りなかったと気づいて「五体満足でよかった」といい添えた。
ルディが悲壮な顔つきで、ベッドの隅っこに丸くなっているが、古都はその顔を見て、笑った。
「足も手もついてるし、自白剤など使われて別に正気を失っているようでもないし」
「さりげに非道いこと言うわね」
居室の中央に置かれたテーブルに優雅に座って、茶器を傾けているサリーが苦笑した。
「アタシたちだって、この変態王子を無駄に傷つける気はないのよ」
ただ、まあココに紛れ込んじゃったみたいだから、少し自覚してもらおうと思っただけなのよ。
「王子たちはネネの転移についてきただけだ。早く帰してもらえないか」
「あら」
目をちらりとあげて古都を見る視線は、若干困惑気味だった。
「古都様は、この変態王子にかなり鞭打たれたと聞いたけど」
「確かにそうだが」
今のこの状況で何の関係がある?
おもいっきりそういう顔をしたのがサリーにもわかったのだろう。
「自分へのダメージって、気にしない子って時々いるのよねー」
などとぶつぶつ言っている。
何を言いたいのか理解出来ない。
「頼む」
頭を下げれば、さらに目を見開かれる。
「ひっ、や…やめて。古都様に頭を下げたってアベルにバレたら、あとでさんざん嫌味を言われるんだからっ」
茶器を置いて、両手を振る。
「アベルにも言おうか」
苦手だが仕方ない。
「古都」
いささか自分を取り巻く展開にびっくりしているらしい王子がこちらをあの青い瞳で見つめている。
ラブロマンスなら、さらなる発展のしどころだろうが。
「よく言った。さすがは俺様のペットだ。シツケがよくできている」
「ばっ、おう」
ルディの顔が青くなった。
古都はちらりと見ただけでそれ以上の反応はない。
「古都様のことペットって言ったわね。たかだか人間の分際で。だから人間はキライなのよ」
苛立たしげにサリーが爪を噛む。「ちょっと見た目が変わってるからって」
さっさと、手足の一本でもいただいちゃえばよかったわ。
と物騒なことをおまけにつぶやく。
「転移の術はだれがつかえるのだ?」
古都は王子の発言など意に介した様子もなくサリーに問いかけた。
「アベルよ」
あとは、ネネちゃんも使えるのよね。
「わたしのは古都限定です」
さらりとネネは言い切った。
つまり、王子を転移させる気はないということ。
「それだけ魔力が強いのに、残念ね。アタシもできるけど、転移させたものはバラバラになっちゃうからだめよね」
ダメに決まっている。
「ますますアベルに頼むか」
フゥと思わずため息を吐きながら、ちらりとドアを見た。
何か来る。
チリリと背筋を駆け上がる気配。
サリーも気づいたらしい。
ちらりと古都を見て。
「王様のお出ましよ」