結婚を迫られました 5
ネネが参加してからはアベルとは雑談のようなものを交わし、とりあえずということで、居城に部屋を一室与えられた。
式が終わるまでには、わしの部屋を改造しておくというのはアベルの言葉である。
式に関しては、極めて遠慮したい。
もちろん部屋を借してもらったことには大変感謝している。
「ふぅ」
「古都。疲れたのですか」
ネネがサイドテーブルに置かれた水差しから、コップに汲んでワタシに手渡してくれた。
ありがとう、とそれを受け取りながら一口、口に含んだ。
喉が潤されて、若干落ち込み欠けていた気分が和らぐ。
「大丈夫。それよりも、簡単でいいから、ワタシがここにいる理由を教えてくれないか」
「転移の陣を動かしたんです。あの場にいたら危なかったので」
あの場、の意味するタイミングをふと思い出して首を傾げる。
「サド王子をおいてきてしまったか?」
「いいえ」
…。
「付いてきたのか」
ネネは、王子の話題はどうでもいいという風な顔をしながら、うなづいた。
正確には連れてきたのであるが、古都はかすかに頭を抱えた。
さすがに一国の王子様とやらをどんなに変態であろうとも連れてきたら、誘拐というのではないのだろうか。
もちろん鞭打たれたことは忘れてはいないが、ネネがいない間の衣住食はそれに付き合ったおかげで保証されていたわけで、全く感謝していないわけでもないのだ。
「参ったな」
古都は決して義理や人情を欠いた人間ではない。
あまりにもいろいろあったおかげで感情面では人に劣るところはあるかもしれないが。
犬も3日くらせば恩を感じるというように、あの王子にだって、一宿一飯の恩義は感じるのだ。
「今、王子は何をしているんだ?」
「サリー殿に捕まって、(ルディが)拷問されています」
拷問?
ますますまずい状況のようだ。
「助けなければならないな」
「別に放っておいてもよいのではないですか」
ネネは基本的に古都以外の存在が生きようと死のうとどうでも良かった。
こうやって古都が自分の傍らにいて笑ってくれれば。
だが、その古都は自分の発言をきいて眉根を寄せた。
「そういうものではない」
「わかりました」
あっさりと意見を翻す。
ネネにとって、古都は絶対だった。
「解放していただきましょう。アベル殿にお話されれば良いと思います」
「アベルになぁ」
借りを作るのは、嫌なのだがこの際仕方ない。
「先程、夕食を一緒にされたいと仰られていましたから、その時でもお願いすればよいと思います」
「ワタシは子供に触れられても別に反応しないのだが、アベルはだめなんだ。なぜかな」
なぜダメかと説明をしろと言われても、わからなかった。
「まあいいか。それまでにサド王子の様子でも見に行っておこうか」
拷問されていると聞けば気にもなる。
五体満足で返さなければ国際問題になるだろう。
指とか手足とか切り落とされてないといいのだが。
鞭打たれた程度なら、時間が立てば治るのだから。
「はい」
にっこりと笑ってネネが古都の手からコップを受け取った。




