結婚を迫られました 4
「ファーミアが変体するとは、稀である」
「変態?」
古都の椅子の背後にネネが立った。
姿形だけ大人になったせいか、子供のときの姿の時ほど抱きついてこない。
ああ、いや、抱きついていたのは自分だった。
「姿を変えることである」
言葉の勘違いに気がついて、アベルがぷくと頬をふくらませた。
「確かに。少し前は子供の姿だったのだが」
「どちらにしても、わしの古都どのの近くに雄がいるのは好ましくないのである」
面白くなさそうな顔である。
「はぁ」
古都の認識では、ネネはネネである。
ファミーアというのは、一族か国かの名前だろうか?
そもそも結婚も受けたつもりはかけらもない。
子供のようなわがままそうなアベルと暮らすよりは、ネネと二人でひっそりと暮らす方を選びたい。
二人とも手に職がないのが残念だが、まあ何とかなるだろう。
「古都どのにはわしの子を産んで欲しいのである」
アベルの口調は軽かったが、視線はまじめだった。
それは、本気でごめんこうむりたい。
実に嫌そうな顔を古都はしていたのだろう。
アベルは聡くそれに気づき、ジロリとネネを見た。
原因がネネにあると考えたのだろう。
「古都」
ネネがアベルの反応に気がついたのか、そっと肩に手を置いた。
不安なのだろうか。
その手をそっと握りながら、かすかにネネと視線を絡めながら、ネネに向かって口元をゆるめた。
「大丈夫だ」
根拠はない。
「妾の意志無くして何人たりとも、その意に従えさせることはできぬよ」
そう言って、古都はまぶたをぱちりとさせた。
今、何を言ったのか分からなかったのだ。
何も考えていなかったのに。
まるでもう一人の己が勝手に口を借りて話したかのように。
「始祖様である」
アベルが古都のそんなようすをうっとりと見ていたことに、古都は不運にも気づかなかった。
気づいていたら、その目に偏執狂的な色合いが滲んでいたのを見逃さなかっただろう。
「始祖様である」
夢に侵されたように、アベルがもう一度吐息と共にその声を漏らした。