結婚を迫られました 1
「うむ」
目覚めたら・・・何と言ったら良いのだろうか。
お姫様の眠るようなベッド・・・いわゆる天蓋付きの寝台に横たわっていた。
上からレースの布が垂らされており、なんだか気恥ずかしくなる。
自分はこのような場所にいるべき人物ではない。
ふと上体を起こし、首輪が外れていることに気づく。
再び耳と尻尾が復活していた。
手は何故か人のままである。作業をするのに都合がよいので、構わないのだが。
「ネネ」
気を失う直前まで傍にいた存在を小さく呼んでみる。
「古都」
小さく声があがって、布の反対側に気配が近づいた。
黒い影。
その影が自分に近寄り、その動きを停止させたことに少し不思議な思いを抱きながら見ていた。
「顔を見たい」
言葉を発して現れたのはいつもと同じ赤い瞳。
心配していたのか、その瞳が揺れていた。
姿形は大人になったのに、相変わらずかわいらしい。
「泣きそうな顔をしているぞ。わたしは大丈夫だ」
手を伸ばすと、ネネも同じように手を伸ばしてきた。
その手が髪に触れた瞬間、ぞわりと鳥肌が立つが我慢した。
抱き寄せられるがままにさせる。
「無事で良かった。アベル様が・・・人が転移するのは無理だと言われて」
「アベル様?転移?」
誰だろう。
サド王子他1名に引き続き、さらなる人物が登場ということか。
「ネネ殿。古都殿が目覚められたのであるか」
ふと扉のところに気配があった。
小さく・・・黒い影。
だがネネよりも気配が濃い。
「あなたがアベルか」
アベルという人物は、古都には覚えがない。
だが、なぜかその気配を昔から知っている気がした。
「そうである」
ネネの背後から現れたのは、まだ小学生といっても差し支えないほどの幼子であった。
最初に出会ったときのネネよりもまだ小さい。
「子供?」
「見た目はそうである」
「あなたがわたしを助けてくれたのか」
「少し気を分けたのである」
「そうか」
古都は寝台の上で深々と頭を下げた。「礼をいう」
「うむ。礼など良いのである」
「そういうわけには」
「それよりも、古都殿はアベルと結婚するのである」
・・・。
?
意味がわからない。
この子供と何を何するのだろうか。
「言い送れたが、わしは魔王である。この国の王様なのである」
・・・。
「は・・・はぁ」
古都には、幼子を愛でる趣味はあっても手込めにする趣味はない。
アベルの言ったことは、まったく予想もしていないことであった。