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猫姫  作者: 四季道理
35/47

黒い魔王様 3






「はじめましてである。わしは魔王である」


 えへん。

 胸を張って、魔王は横たわったままの少女とその傍らに明らかに警戒する視線を向けてくる男にそう言ってのけた。





 森を歩いていたかと思うと、少し開けたところにたどり着いた。

 草むらの上に少女が一人。

 黒い衣装に身を包んだ男が一人。

 人の姿をしているが、サリーは男がファミーアだと感じた。

 ファミーアは魔物にしてはかなりの魔力を有する種族で、人語を解するとは聞いたことがあるが、まさか人に変化するとは。

 よほどの能力があるということか。


 男がこちらを認識した途端、すぅと息を呑み込むのがわかった。


 空気が冴え冴えと冷え渡る。

 肌がチリチリと焼けるようだと思った。

 かなりの魔力を感じる。


 この状況では敵だと認識されたのだろう。


 サリーも同じようにかすかに腰を低くした瞬間であった。


「はじめましてである。わしは魔王である」


 えへん。


 あの・・・魔王。

 えへん、って何でしょうか。

 普通であれば、きちんと挨拶できましたね、とほめるところなのでしょうが、言っては何ですが、時と場合を選ばないとだめだと思います。

 彼には、魔王の威厳とか、権威とか通じていないようです。

 誰しも、大切なものを守るとき、必要以上に警戒するでしょう。


「魔王」


 たしなめる言葉を口に乗せかけた時だった。

 男の雰囲気がかすかに和らぐ。


「魔王・・・もしや・・・アベル殿か」 


「そうである」


 魔王は警戒心のかけらもなく・・・警戒してください・・・少しは・・・近寄っていき、少女の傍らに座した。


「転移でこの地に無理矢理跳んだのであるか」


 そっと指を少女の額に当てる。


「封じられているのを失念していた」


 かすかに男の目に浮かぶのは後悔。


「無理をするのである。唯人であれば、魂を失うのである」


 転移陣は魔族にとって大変便利なものだ。

 一度でも行ったことがある場所には、陣さえ描いておけばその場所に行ける。

 しかし、転移には大変な魔力を必要とする。

 転移の魔法を起動させるときも、そして移動するときも。


 先ほど捕獲した二人も、人にしては相当の魔力を有していたからこそ、五体満足で転移できたのであろう。

 そうでなければ、魔力の代わりに魂魄に宿った力を使って、魂を失う。つまり、体はあっても心が死んだような状態になってしまう。

 魔族でさえ、下っ端は転移をしない。できないのである。


 魔王が眼を閉じて、少女の額にそっと触れた。

 その指先が白くぼんやりと輝く。

 光はやがて少女の全身を被い、すぅと吸い込まれていった。


 と、同時に「ふぅ」と少女が息を吐いた。


「コト・・・」


 男が息を吹き返した少女をぎゅっと抱き寄せた。

 

「さて。お前たちも自己紹介をするのである」


 魔王が膝をはたいて立ち上がった。


「私は・・・ネネ。この方は古都と言います」


 ネネと名乗った男は少女を横抱きに立ち上がった。

 だらんと垂れたままの腕が意識が戻っていないことを示していた。


「どちらが始祖様ですか?」


 ふとサリーが疑問に思って口にした。


「シソサマ?」


 魔王は疑問には答えず。「人族は三親等以上でなければ婚姻できないのであるか?」

 その視線は少女の熱く注がれている。

 いったい何がそんなに気になるのか。


「は・・・あ?」


 サリーにはなんと返して良いか、適当な回答が思いつかなかった。


「魔族にはそのような取り決めは無いのである。そうしよう」


 うん、と言ってにっこり笑われた。


 そうしよう、って。

 確かにそのような取り決めはありませんが。

 兄妹でも、親子でも・・・っていう意味ですよね。


「さあ。サリー。城へ帰るのである」


「あ・・・あの。魔王・・・」


 この場合、どう対応するのが正しいのでしょうか。

 始祖様かどうかというのは不明ですが。

 ネネが魔王を認識して警戒を解いたということは始祖様に関係すると考えても良いのでしょうか。


「ネネ殿も来られるのである。古都殿が目覚められるまでには、もうすこし回復する必要があるのである」


 ネネは腕の中の少女に魔王の言葉の意味を伺うように視線を落とした。

 だが少女からは答えはない。

 しばし見つめていたが。


「よろしくお願いします」


 観念したように頭を下げた。




 そして・・・あの。




 視線が、いろいろと止めようとしているサリーへと移る。

 赤い眼がサリーの眼を射貫き。




「お世話になります。サリー様」




 魔王に対したときと同じように礼をした。その姿に。



 ズキュン。 

 サリーの胸は甘く疼いた。




 単なる人族のルディに感じたときとは違う・・・もしかして、これが運命の・・・で・あ・い(はぁと)





 すぐ近くで、そんなサリーに限りなく生ぬるい視線を魔王が送っていることには気がつかなかった。



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