黒い魔王様 2
ペチペチと小さな手が頭を叩く。
「サリー。着いたのである」
「うえぇぇ」
サリーは転移が苦手であった。酔ってしまうのである。
起きて吐き気を感じたが、呑み込んで笑う。
魔王に心配をかけてはいけない。
「大丈夫であるか」
「はい・・・まあ・・・なんとか」
ふらふらとしながら立ち上がった。
周囲を見渡せば、首都から50キラ離れたタチアの街の近くの森のようであった。
なぜそこまで分かるかと言うと、単純にタチアがサリーの出身であったからである。
タチアにはサリーと同族の蝙蝠族が崖に穴を開け、多く暮らしている。
夜がもっとも本領を発揮する時間であり、サリーも類に漏れず夜の森には何度も遊びに来ていた。
「サリーはいくつになっても子供みたいに酔うのである。かわいいのう」
くすりと笑う魔王。
言葉に刺はないが、なんとなく子供の容姿をした魔王に笑われるとグサリとくる。
「かわいいは勘弁してください。もう80なんですから」
「まだ、たかだか80である。わしが80の頃は・・・」
「あー。いいです。昔話に花を咲かせるのは後にして、始祖様探しましょう」
話を中断されて、ぷぅと頬をふくらませる魔王。
しかし、魔王の昔話はとにかく長い。
サリーも何度つきあわされたことか・・・。
思い出話につきあって、白々とした朝日を眺めていたことも片手では足りない。
さすがは長生きしているだけはあり、下手をするとアリアダ村に住んでいるヨダの孫などという聞いたこともない者の話から始まってしまう。
たとえ、このブラグラからほとんど出たことはなくとも、結界の中にいる生き物の暮らしは掌握しており、話題には事欠かないのである。
クン、と魔王が鼻で嗅ぐ。
「近い。始祖様のにおいがする」
・・・。
魔王が鼻が良いというのは、サリーは今知った。
気配で察するとか・・・探知魔法で探すとか・・・空から飛んで見に行くとか・・・まあ、格好良さそうな方法はいろいろあるのだけれど。
「こっちだ」
まねして、嗅いでみたが残念ながら森のにおいだけであった。
魔王は指さしながらとことこと無防備に歩いていくが、常ならば獣が闊歩し、うなり声を上げる決して安全な森ではない。
だが、魔王の強大な気に当てられて、どの獣も静かにしている。これは常のこと。
だが、それと同時に森の奥から感じる・・・奇妙な気配。
ファミーアか?
魔王の族に近いと言われる魔物である。
だが、単なるファミーアのものとも違う。
『コト。コト・・・起きて・・・コト』
かすかな声が聞こえてきた。
まだ遠い。
男のようだ。
サリーの耳は良い。
同じように魔王の耳がピクと動いた。
「聞こえましたか?」
「誰に聞いているのである?」
魔王がこちらを睨め付けるように振り返った。
「申し訳ありません」
「ふたりいるのである」
確かに。
この声の主ともうひとり「コト」と呼ばれる者。
どちらが始祖様なのか。
「急ぐのである」
魔王は答えを告げず、歩くのを速めたのであった。