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猫姫  作者: 四季道理
32/47

王子!ピンチです 5




 ほうほうのていていで、わたくしは美女のふりをした男から離れました。

 正確に言いますと、鎖を解いてくれたので逃げられたのです。


 解いてくれたといっても、その場から王子を置いて逃げられるわけもなく、結局その場にとどまることになるのですが。


「あの、サリーさん。この手を離してもらえませんか?」


 とりあえず、鎖は良いとしても・・・何故、しっかりと腰を捕まれたままなのでしょうか。


 男は「サリー」と名乗りました。

 明らかな偽名ですが、とりあえず、名が無ければ呼ぶのは不便なのでよしとしましたが。

 納得できないことがいくつかあります。


「まあ気にしないで」


 気にします!


「で、坊やたちはコトという少女とネネという男の魔法によってここに転送されたというわけなのね」


「状況から予測するとそういうことになる」


「ふぅん。よりにもよってこの国にねぇ。アーちゃんが聞いたら、がっかりするわ。折角がんばって結界張ってるのに」


「アーちゃんとは誰だ?」


 さわさわさわ。

 ああ気になる。


「いやん。アベルに決まってるじゃない」


「アベル王のことか」


「これだけ大規模に張ることができるのは、せいぜいひとりよ」


「お前でも無理か?」


「うふふ。買いかぶってくれてありがとう。アタシは戦闘専門なの」


「サリーさんは、この国で何か役職に就いていらっしゃるのですか」


「ええ。ショーグンよ」


 ・・・あの。ショーグンて・・・将軍でしょうか。

 文字が変換するのを拒んだのか、意味が一瞬理解できなかった。


「将軍ですか!?」


 思わず眼を見張ってしまう。

 何というモノに捕まっているのでしょうか。

 わたくしたちは。

 よりにもよって。


「5番目だけど」


 うふふ。

 といってサリーさんが笑った。


 5・・・番目って、もっと上がいるのか。

 王は何番目なのだろうか。

 確かに、王子のつぶやきも理解できる。

 魔国は攻めてこれないのではない。

 攻めてこないだけなのだ。

 残念ながら、人は個々の力がこれほどまでに強くはない。


「一番目は誰だ?」


「さあ。始祖って聞いてるわ」


「始祖?」


「魔国の始祖よ。ウン百年か前に姿を消したままの方。今の魔王はその孫」


 姿は消したが生きていると信じているのだろうか。

 50年で散る人にはあり得ない寿命の長さだ。

 

「お前たちはどれくらい生きるのだ」


 王子の視線がサリーさんをとらえる。

 サリーさんは、眼を細めて王子を見た。

 口元は弧を描いているが、笑っているわけではなさそうだ。


「アタシはたかだか80歳といったところかしら」


「じじい、だな」


 クツリと王子が笑った。


「変態の坊やにだけは言われたくない台詞ね」


「魔王はいくつだ」


 フ、とサリーさんが今度は笑う番だった。


「魔王にけんかを売りたい?アーちゃん、呼んできてあげましょうか?人が嫌いだから、消されるかもしれないけど」


 そういった後、わたくしの耳元で。


 大丈夫よ。あの変態王子はほっとくけど、アナタは助けてあげる。ペットとして。


 何気に、そんな暴言を吐かないでください。


 王子をほうっておくのは良いにしても(よくありませんが)、ペットもごめんです。


「人嫌いなのか」


「そりゃね。あれだけ領土を荒らされれば」


「魔国は豊かだ。人の土地は狭い。隣の庭に食べ物がなっていれば入りたくもなる」


「アタシたちだって霞を食べて生きているわけじゃないのよ」


 バチリと互いの視線が絡み合う。


「なれ合うのは好かない」


「あら、アタシも同意見」


「いい加減、俺様の部下から手を離せ」


「いやよ。こんな可愛い男。久々見たもの」


 そしてぎゅうっと抱きつかれた。


 ・・・ぎゅってするのは止めてください。ふくよかさのかけらもない胸が当たります。

 ああ、鳥肌が(涙)

 コトさんの気持ちがよく分かりました。

 生理的に受け付けないことってあるんですね。


 その時、ピクンとサリーの耳が動いた。


 虚空を見つめているが。


「アーちゃん。何?・・・わかったわ」


 次の瞬間、わたくしは再び鎖につながれていました。

 サリーさんが名残惜しそうに、わたくしの頬を撫でています。


「アーちゃんが呼んでるの。すぐに戻ってくるわ。ハニー」


 そして、唇にチュッ。




 ギャアアアアアアア!




 わたくしのファーストキッスがあああああ。 




 激しく動揺したわたくしと、相変わらず冷たい視線を送る王子を放ってサリーは姿を消したのだった。



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